表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/49

ええ? マジですか


 そして叙勲式当日。

 ハミルトン家は朝から大忙し。おもにアメリアが。正確に言うと前夜から。お肌と髪を念入りにお手入れして、お化粧をして髪を結って、ドレスを着て。


 この日のために二着も用意した。

 叙勲式用の宮廷ドレスと、夜会用のドレス。

 なんたって主賓だもの。


 最初はエバンス家が用意すると言ったのだけれど、母は「娘の一世一代の晴れ舞台、わたしが用意する」と言ってきかなかったので、エバンス家からはめずらしい果物や、人気のお菓子などが毎日のように届けられている。


 まあ、おかあさまが張りきったよね。

 うん、わかるよ。わたしも娘の成人式の振袖は娘そっちのけで店員さんとああでもない、こうでもないと大騒ぎしたもの。

 たぶんあのときの娘のように、ちょっと冷めた目をしているんだろう。


 すっかりまかせちゃったけれど、それはそれはすてきなドレスができあがった。

 あまり華美ではなく、それでいて上品さと美しさを兼ね備えたようなドレス。

 叙勲式用のは、うすい水色で花柄の模様織。光が当たると花模様がくっきりと浮かびます。

 レースやリボンなどはついていません。レースとお花がついた小さな帽子をちょこんと頭に乗せます。そして絹の手袋。

 いっぱしのレディのできあがりです。

 馬子にも衣裳。


 叙勲式はがっちがちに緊張して、なにがなんだかよくわからないうちに終わった。

 だって、こんなにえらい人ばっかりがずらりとならんだところで、ひとり前に出て国王陛下から直接勲章をいただくなんて、目の前が真っ白だったもの。

 白目むいてなかったかな。


 ヘンリー卿、いやヘンリーさまはきょうも一段とすてき。モーニングコートもよくお似合いです。

「アメリア」

 いつのまにか、ちゃっかり呼び捨てになっていたりする。

「そのドレスもすてきだね。よく似合っているよ」

 きゅぴーーーん!

「ヘンリー卿、じゃなかったヘンリーさまもとってもすてきです」

 なんで自分が言われるとテレるんだ。

 うん、その顔もよいですけどね。


 となりで、ジョージ・クラークがにやにやしてるのがちょっとむかつく。ふん!


 いったんおうちに帰り、夜会用のドレスにお着換え。

 こっちは華やかにーーー。主賓ですからーーー。

 濃い水色のふんわりドレス。肩もぐいっと出して。ジュエリーもゴージャスなダイヤモンド。

 先祖代々の銘品なんだとか。そんなの使ってもいいの? と聞いたら、じゃあ、いつ使うの。とおかあさまにキレられた。

 びっくりした。「いまでしょ!」とか言うかと思った。


 夜会会場へ着くと、ハミルトン家および叙勲された各家は特別扱い。

 主賓だからね!

 別室へ案内されて、ゆっくりお茶など飲みながら時間まで優雅にすごした。おいしいお茶を堪能したかったけれど、とちゅうでお花摘みに行きたくなったらたいへんだからね、ちょっと控えめに。

 会場へ入るのは一番最後。なんと王家のみなさまが迎えてくださる。

 どうしよう。あまりにもおそれおおいです。


 エスコートはおとうさまがしてくれるものだと思っていたのだけれど、いざそのときになったら、となりに立ったのはヘンリーさまだった。

「え?」

 思わず見上げたらヘンリーさまはにっこりと笑った。

「ハミルトン伯にはおゆるしをいただいているよ」

 うわあ、とってもいい笑顔。


 おとうさまを見たら「うむ」とうなずいた。

 ええ、なんですか、その予定通りみたいなかんじ。

 まあ、差し出された手は取りますけれども。

 

 あれ? ヘンリーさま。あなたエスコートするべき人はいないのですか? もわっと不安が湧き上がる。ご本人は満面の笑みを浮かべていらっしゃいますが。


 ごあいさつやらなんやかんや、緊張の連続がひと段落してふうっと息を吐いた。

「はい、どうぞ。レディ」

 ヘンリーさまがグラスをひとつ、手渡してくれた。よく冷えたマスカットの果実水。

 たとえこぼしてしまっても、目立たない透明な飲み物。こういうところまで、気が利くんですね。すてきです。


 会場はダンスをする人たちや、歓談をする人たちでにぎやかだ。

「飲み終わったらダンスを――」

「アメリアさまぁ?」

 耳障りな甘ったれた声が……。だれだ。ヘンリーさまをさえぎったのは!


 近寄って来たふたり組を見て目が点になった。

 ウソだろー? マジか!

 そのときわたしは、ほんとうに白目をむいたに違いない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ