叙勲!?
我が家の玄関前に、王家の馬車が到着した。白に金の装飾が施された豪華な馬車に、二頭の白馬。正装した御者。
我が家も正装した家族全員、それから使用人一同が一ミリの乱れもなく整列してお迎えする。
玄関の前にピタリと止まった馬車から降りてきたのは、これまた正装したえらい大臣。
「国王陛下よりの親書を持ってまいりました」
ははーっと一同が頭を下げる。
大臣の後ろからお付きの人が深紅のビロード張りの盆をうやうやしく捧げ持つ。
盆の上には封書が二封。あて名はおとうさまとわたし。
ひえーーー!
叙勲されるそうです。勲章です。
つまりごほうび。
この前の謀反の際、国王陛下ならびに王妃殿下、王太子、ルーク両殿下、さらにはルイーズ・カーソン公爵令嬢、エバンス侯爵およびシャーロット侯爵令嬢を助け、謀反人一味の捕縛に尽力したごほうびです。
ひえええ!
どうしましょう。そんなにたいそうなことをしたつもりはありませんでした。ただ、ついて行っただけなんです。
これで恩を売ってお嬢さまの侍女の座を死守しようなんて、姑息なことを考えてすみませんでした。
わたしとおとうさまのほかに、カーソン公爵、ヘンリー・パウエル侯爵子息、ジョージ・クラーク伯爵子息の五人が叙勲されることになった。
「えええ? わたしはいいですぅ。おそれおおい」
カーソン公と同列にならべるわけなかろう。わたしがならべるのなんて、ジョージ・クラークが関の山だ。
「ぜひお受けなさいな。あなたが来てくれた時ほんとうに安心したのよ。呪いのお話はとっても気が晴れたのよ」
ルイーズさまはそうおっしゃるが。
「いえいえ、わたしはただついて行っただけですから」
「なにを言っているの。あなたは身を挺してわたしを助けてくれたじゃないの。ほんとうに感謝しているのよ。ルークさまだって、あなたの望みならなんでもかなえてあげるっておっしゃったわ」
お嬢さままでそう言ってくる。それは永久侍女の座を確約していただくだけでよろしいのですが。
まあ、お断りなんてできるはずもありません。お嬢さまがとってもうれしそうににこにこしていらっしゃる。
お嬢さまが喜んでくれるならいっか。
関係者の処罰が終わり、国王陛下も王太子殿下も無事に回復なさった。
エバンス侯も回復なさった。
なぜあのとき、エバンス侯が倒れていたのか。
バタバタとやって来たわたしたちの足音を聞いて焦ったジェームズは、お嬢さまを盾にしようとした。
それを阻止しようとジェームズに手をのばしたエバンス侯を、ブライス公が殴り飛ばしたのだった。
飛ばされた拍子に頭を打って昏倒したわけだ。
回復はしたものの、こめかみに三センチほどの傷が残ってしまった。
逆に、その傷でイケオジに磨きがかかってしまった。少々の傷は色気が増すんですな。
カッコいいです、はい。
PTSDとか心配したけれど、お嬢さまは案外けろりとしている。儚げに見えるのは見掛け倒しだ。
ぷるぷる震えながら実は図太かったりする。たぶんなにかを気に病んで眠れない、なんてことはない。どんなときでも、ふとんに入ったら五秒で寝るタイプ。
そして悲嘆にくれることもない。なにがあっても、ふんすと立ちあがる。
それがシャーロットお嬢さま。
ルーク殿下はそのギャップにやられているんだな。
わかりますよ、ギャップ萌え。
ルーク殿下とお嬢さまについて語り合ったら一晩じゃ足りないな。そして「自分のほうがよく知っている」とどっちも譲らない。そのうち殴り合いにまで発展しそう。おそろしや。
ルイーズさまもだいじょうぶそうでなにより。ただ、あれ以来ティーケーキがきらいになった。しかたがない。トラウマでしょうね。もしかしたらこれから王宮でティーケーキが出ることはないかもしれない。
そして騒動から二か月後、叙勲式と記念の夜会が開かれることになった。
あと3回!




