アランの懺悔
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「また誘われて、また大儲けできるかもと思ってしまいました」
ああ、やはり。
「負けたんだね」
「……はい」
「それで」
「はじめは友人が負けた分を貸してくれて。それからは賭博場の胴元が肩代わりしてくれて」
「きみ、それは罠にはめる典型的なパターンだよ」
カーソン公が気の毒そうに言った。
「はい、後から知りました。負けを取り戻そうとしてそれから三度ほど行きましたが、負けが増えただけでした」
「その友人は?」
「かかわりたくないと、それっきり会ってもくれません」
「もしかすると、その友人もグルだったかもしれないな。気の毒だが」
カーソン公がそう言うと、アランは死にそうなほど絶望的な顔をした。
むこうにしたら、いいカモだったのだろうな。若くて金があって、世間知らずで。
「闇賭博はご法度だ。家がどうなってもいいのか」そう脅せば、言うことを聞く。
「いや」
カーソン公が首をひねった。
「もしかしたら、狙いははじめからメアリだったのかもしれない」
「え!」
「この陰謀に使うために?」
「その賭博場はすぐにでも調査しなければいけないな。ブライス公が絡んでいるならなおさらだ」
「わ、わたしのせいで姉は大罪を……」
アランはとうとう泣き出してしまった。
「あきらめるな。黒幕がブライス公ならば救済の余地はある」
「ほ、ほんとうですか!」
アランは縋るように手をのばした。
「わたしはどんな罰でも受けます。でも姉は悪くないんです。姉だけは助けてください。お願いします」
ひざに額がつくほどに、アランは深くお辞儀をした。
「真相の解明には、きみの証言が必要だ。いいね」
「はい」
では、とカーソン公は気をとりなおすように言った。
「すこし、事態を整理しようか」
ハミルトン伯が答えた。
「王太子殿下の容態はわかりません。ルーク殿下、ルイーズ嬢が拘束されています。それから二階の応接室にブライス公、カミラ嬢。ジェームズ殿下がいらっしゃいます。そこへシャーロット嬢とアメリアがグレイ伯によって連れ込まれました」
聞くとカーソン公は眉をひそめた。
「なぜ、シャーロット嬢が……」
「わかりません」
「ゆるせん」
カーソン公はつぶやいた。
「王太子殿下の命をねらい、その罪をルーク殿下とルイーズに着せるなど」
「ええ。ええ。なんとしても助けなければ」
「うむ、ブライス公を捕らえよう。なにかを企んでいるのはわかっていたのだ。ただ証拠がつかめなかった。これは逆転のチャンスでもある。まずは国王陛下にお目通りを」
部屋を出て、見張りの衛兵に「ブライス公のところへ連れていく」と話すと、あっさりと通してくれた。
ほんとうに、王宮の警備だいじょうぶなんだろうか。
それからカーソン公について内宮へ向かう。ハミルトン伯は内宮など行ったこともない。どこにあるかもよく知らないくらいだ。
カーソン公は迷うことなく歩いていく。公爵ともなると内宮まで知っているのだな。さすがだな、などと妙に納得する。
さて、見張りになんて言おう。またブライス公からの伝言だ、で通るだろうか。と思ったのは杞憂だった。
立っていた見張りはみな、カーソン公を見るとぴしりと敬礼をした。
おや?
「形勢は逆転したらしいな」
カーソン公はにやりと笑った。
ひときわ豪華な扉の前で、立ちどまる。ふたりの見張りは敬礼をする。
それから、扉を叩いた。
「カーソン公、ハミルトン伯、おいでです」
中から扉があいた。顔を見せた侍従はホッとしていた。
「どうぞお入りください」
カーソン公に続き、ハミルトン伯、アランが入ると扉はふたたび閉じられた。
「おとうさま!」
「ルイーズ?」
おたがいに駆け寄った。
国王陛下の部屋には、王妃さまとルイーズ嬢が身を寄せていた。
しかもルイーズ嬢の惨状はなんだ。
「地下牢に入れたというのよ」
王妃さまが怒り心頭だ。泥に汚れたドレス。手には包帯が巻かれている。
「転んで擦りむいてしまったの」
王妃さまの侍女が手当てをしたという。ほかにも打ち身やらなにやらあったらしい。
「なぜ転んだのだ」
カーソン公はぎりっと詰め寄った。
「乱暴にされたのだろう。ぜったいにゆるさん」
「ああ、絶対にゆるしてはならん。さあ、決着をつけに行こう」
国王陛下の目には、力がみなぎっていた。
しばらくの後開いた扉から出てきた国王は、ひさしぶりにタイを締め、フロックコートを着ていた。
国王は落馬により大腿骨を骨折していたのだった。痛みはだいぶ治まったものの、歩くのはまだ不自由だ。
杖をつき、カーソン公にささえられる姿は少々痛々しいが、それでもやはり国王としての威厳を放っていたのだった。