中二病の男子
「そこをどけ!」
ジェームズだった。いまだにシャーロットお嬢さまに剣を突きつけている。
しまった。カミラに気をとられていた。
「シャーロットを放せ」
ルーク殿下の声に焦りがにじむ。
「いいかげんにあきらめろ。外には近衛隊が待機している。逃げ道はないぞ」
「いやだね」
往生際が悪い。どうやって逃げるつもりだ。いくらお嬢さまを盾にしたって、もう無理だろ。だがジェームズは剣を突きつける手に、ぐっと力を入れる。
ぎゃあっ! やめろ切れる! お嬢さまに傷がついたらどうするんだ!
「やめろーーー!」
悲鳴にも似たルーク殿下の声がこだまする。
「ジェームズ」
王太子殿下が静かに声をかけた。
「もうやめるんだ。陛下もご無事だ。ルイーズも助け出した。おまえたちの悪事は終わったのだ。その剣をよこせ」
そう言って手を差しのべた。が、ジェームズがおとなしく聞くわけがない。
「うるさいうるさいうるさい! そこを退け!」
もういろんなことが、とっ散らかっている。
あたりの様子などおかまいなく、無邪気に笑っている完全崩壊したカミラ。
娘がはじめて反抗した挙げ句壊れてしまい、それにうろたえるブライス公。
土気色の顔で泣きじゃくるメアリ。
小さくなってなんとかこの場を凌ぎ、あわよくば巻き込まれを装おうとするグレイ伯。
頭から血を流し、倒れてうめいているエバンス侯。
シャーロットお嬢さまに剣を突きつけるジェームズ。
ぷるぷるするお嬢さま。
対峙する王太子、ルーク両殿下。ヘンリー卿とジョージ・クラーク。
混乱中のわたし。
それを遠巻きに剣を構える近衛隊。
カオス。
「おれは、シャーロットといっしょに逃げるんだ」
この期に及んでまだあきらめないジェームズ。
どうしてそんなにお嬢さまにこだわるんだ?
……本気? 本気で好きなの?
本気で好きなのに、その態度?
マジか。
中二病か。いや、たしかにそんな年ごろだけれども。
でも、ダメだよ。女の子に乱暴して怖がらせたらダメなんだよ。
見なさいよ。お嬢さま、真っ青になってぷるぷるしているのよ。それでも必死に耐えているのよ。
この先人類が滅亡して、地球上にあんたとふたりきりになっても、お嬢さまはあんたを拒絶するよ。
いま、それくらい嫌われているよ。
絶望的だよ。
「もう放せ。たのむから、シャーロットを傷つけないでくれ。たのむから」
ルーク殿下もなんとかなだめようとするが。
「いやだいやだ。絶対に放さない」
ジェームズはますます意固地になる。
どうしたものだろう、この膠着状態。
みんなが頭を抱えたときだった。
「そこまでだ」
そのたった一言が、すべてを威圧した。
国王陛下だった。
あ、え? おとうさまも? どうして?
カーソン公とわたしのおとうさま、ハミルトン伯に付き添われ、杖をついた国王陛下が部屋に入って来たのだった。