表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/49

蹴散らしに行こう


 内宮への入り口に、またふたりの衛兵が立っていた。慌ただしくやって来たわたしたち一団の中に、ルーク殿下とルイーズさまがいるのを見て、衛兵はぎょっとした。


「通せ」

 ルーク殿下がひとこと言う。

「申し訳ありません。お通しできません」

 衛兵はわたしたちの前に立ちふさがった。


「だよなぁ」

 ルーク殿下はひとつため息をつくと、ジョージ・クラークに目配せした。そのとたん。

 えいっ! やあっ! とおっ!!


 ふたりの衛兵はいっしゅんの後、足元に倒れていた。

 え? なにそれ。ジョージ・クラークもできるの?

 ルイーズさまも「え?」と目が点になっている。

 ですよねえ。

 まさか、このヘラヘラした男にこんな芸当ができるとは。


 内宮へ一歩踏み入れると、雰囲気はがらりと変わる。きらびやかな外宮とはちがって、床も壁も落ち着いた色合いで、無駄な装飾もない。

 そこを使用人たちが不安そうに、あわただしく行き来していた。ルーク殿下の姿を見ると、一様にほっとした顔を見せて礼をとる。


 ただ、衛兵たちはそうじゃない。ルーク殿下を見ると「お待ちください」と立ちふさがる。それを、えいっ! やあっ! とおっ!! と倒していく。

 わたしもなにか! 手助けを!

 壁際に燭台が定間隔でならんでいる。

 ……持ちやすそう。そして振りやすそう。

 当たったら致命傷になるかな? 頭じゃなければだいじょうぶよね。


 そうっと伸ばした手はパシッと止められた。

「きみはなにをする気だ?」

 あっ。ヘンリー卿があきれた顔で見ていた。

「……武器を……」

 ヘンリー卿はふっと小さく笑った。

「だから、そういうのはおれたちにまかせなさい。ケガをしたらどうするんだ」


「そうよ、傷でも残ったらたいへん」

とルイーズさまも言った。

 そうですか。そうですね。


 階段を上り、王太子殿下の自室の扉にたどりつく。

 こんなに簡単にやられちゃって、衛兵だいじょうぶなの? それともこの人たちが異常に強いの? どっかのエージェント的な?


「兄上!」

 ルーク殿下が扉を叩く。部屋の中からはかすかな応答があった。

 ルイーズさまの手に力がこもった。

 ヘンリー卿が扉を開けた。


「兄上! だいじょうぶですか」

 王太子殿下は、侍従に助けられながら、のろのろとベッドの上に置き上がった。

「すまない。しくじった。まだ体のしびれがとれない」

 そう言って少々苦しそうに笑った。

 となりでルイーズさまがひざから崩れ落ちた。

「……よかった」


「ああ、ルイーズ」

 王太子殿下が差しのべた手を、ルイーズさまが強く握る。

「心配をかけたね。わたしはだいじょうぶだよ」

 でも、顔色はかなり青白く、声はかすれ、体は小刻みにふるえている。

 解毒といって、強制的に吐かされたんだろうな。

 うわ、きっつい。その証拠に胃のあたりをさすっている。


「ウィリアムさま。わたしは誓って毒など盛っておりません。どうか信じて……」

「わかっているよ、犯人はきみじゃない」

 わっと泣き伏してしまったルイーズさまの背中を、王太子殿下はそっと撫でた。


「ウィリアムさま。ごめんなさい、ケーキなど持ってこなければよかった」

「それはちがうよ。わたしはとてもうれしかったんだ。午後の楽しみができたからね。それを台無しにしたのは、ブライス公だ。きみを陥れて。ぜったいにゆるさない」

 マヒが残っていると言いながら、その瞳には力がみなぎっていた。


「毒を仕込んだ経緯はわかっているか」

「……それが……」

 ヘンリー卿がちらりとルイーズさまを見た。いやあ、わたしもちょっとルイーズさまの前では言いにくい。

「メアリ・ウッドヴィルが入れたと言ったそうです」


 ルイーズさまがはっと顔を上げた。

「嘘……。メアリが?……」

 呆然としてしまった。そうなるよねぇ。

「アメリアが聞いていました」

 うん、そうだね。わたしが聞いちゃったものね。とにかく知っている情報を全部出して擦り合わせないと。

「はい、ルーク殿下とルイーズさまの指示でメアリさまが毒を入れたと、本人が言いました」


「わ、わたしは……。そんなことは……」

 ルイーズさまは絶望的な顔をした。

「うん、わかっているよ。だいじょうぶ」

 王太子殿下がルイーズさまに笑いかける。

「メアリはどんな様子だった?」


「もしかしたら弱みを握られて脅されているのかもしれません」

「……ほう?」

 王太子殿下はすっと目を細めた。

「ブライス公がやらせたのだと思います」


 王太子殿下は、力の入らない体を無理矢理起こし、ヘンリー卿とルイーズさまの手を借りて、フロックコートの袖に手を通した。ひとりでは、自分の腕を持ち上げるのもやっとな状態。

 とりあえず、コートだけ脱いで横たえられたらしい。

 ウェストコートも着たままだった。


「手綱の証拠はあるな?」

 おお。手綱の証拠とはなんだろう?

「はい、細工をした騎士は牢に入れてあります」

 ほう? 国王陛下の手綱に細工をしたのか。落馬するように。

 なるほど、やはりこれは一連の事件というわけだ。


「よし!」

 王太子殿下はふらつきながらも立ちあがった。


「ブライス公を蹴散らしに行こう」


アメリアがジョージ・クラークを呼び捨てにするのは、へらへらしていてイマイチ胡散くさいからです

嫌っているわけじゃありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ