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打開策を考えよう


 死罪?

 まさか。

 そんなはずない。

 そのことばが、楔のように胸に突き刺さる。


「ウィリアムはかろうじて命はとりとめたよ。でも意識が戻るかどうかはわからない。ずっとこのままかもね。国王も時間の問題だ」

「そんなの嘘よ!」


「嘘じゃないんだよ。さあメアリ」

 ブライス公が手招きした。びくりと飛び上がったメアリは絶望的な顔をしていた。

「メアリ?」

 お嬢さまが声をかけた。メアリは半泣きの状態でブライス公のとなりに進みでた。


「おまえがしたことを話すんだ」

 なにをしたって? メアリは震えながら、口をパクパクしている。ことばがうまくでてこないみたいだ。

「メアリ。わかっているね」

 ブライス公がメアリの髪の毛をぐいっとつかんだ。


「わ、わ、わたしが毒を入れました」

 メアリが告白した。

 ……メアリが?

「ルイーズさまとルーク殿下に頼まれて」

 そう言うと、メアリはくずれるように床に伏してしまった。


「嘘よ嘘よ! そんなわけない!」

 お嬢さまが絶叫する。

「嘘じゃない。嘘じゃないんだよ」

 ジェームズがお嬢さまに向かってささやく。

「ルークとルイーズが手を組んでウィリアムを殺そうとしたんだ。自分たちが王と王妃になるためにね。おまえも殺されるところだった。よかったよ、間にあって」


「嘘……。嘘よ……」

 お嬢さまの肩がふるえる。

「お嬢さま! 惑わされちゃダメです!」

 一歩ずつ近づいてきたジェームズはもうわたしの目の前だ。わたしは盾だ。お嬢さまを守る盾なのだ。

「どけよ」

 お嬢さまにささやいたのとはまったくちがう、憎々しげな声だった。


 そう! こっちが本性だ。

 ジェームズがわたしのほほをぎゅうっとつかみ上げた。痛かった。でも負けない! わたしはジェームズから目をそらさなかった。


 ジェームズはほほをつかんだ手をそのままグイッと押した。

 よろけそうになったけど、わたしは踏ん張った。踏ん張ってなんとかお嬢さまの前を死守した。

 よかった。スクワットとプランクの成果だ。お嬢さまが後ろから支えてくれたおかげもある。


「いいか? 国王もウィリアムもルークも死んだらおれが国王だ」


 うそでしょう。


「おまえをおれの妃にしてやる」


 うそだーーー!


 お嬢さまは真っ青になって今にも倒れそうだ。ふたりで「ひし!」と抱きあって支え合う。

 どうしよう。どうしたらいい? わたしになにができる?


「ほんとうはカミラを正妃にしてほしいのだがね、ジェームズ殿下はどうしてもシャーロット嬢を妃にしたいと言って、聞かないのだよ」


 な、なにぃ?

 うわっ! ジェームズが赤くなってもじもじしている。キモイぞ!

 お嬢さまの口から「ひい」と小さく悲鳴が漏れた。


「しかたがないから、カミラには側妃で我慢してもらおう。それでも、わたしがジェームズ殿下の後ろ盾になるには充分だがね」


 ちょ、ちょっと待ちなさいよ。カミラってあんたの娘じゃないの? 自分の娘をそんな扱いするの? 信じられない!


「ええ、おとうさま。わたくしはウィルさまさえいらっしゃればいいのですわ」

 ……ウィウィウィウィルさま? え? ウィル?


「シャーロットさま。側妃とはいえあなたの立場を脅かすつもりはございません。わたくしはこの先ウィルさまのお側で生きていきます。どうぞ安心してジェームズ殿下との愛を育んでくださいませ」


 いや、なに言ってんだ、この女。ヤバい。すっかり目がイッちゃってる。こわいやばいこわい。

 お嬢さま! 白目をむいちゃいけません!

「お、お、お嬢さま! しっかりしてください。しっかりしましょう!」


「裏切られたシャーロット嬢をジェームズが愛をもって王妃に迎える。そして意識のもどらないウィリアムにカミラが献身的につくすのだ。どうだ。庶民が大喜びする美談だろう?」

 ブライス公が、にやりと笑った。


「シャーロット、そんな世迷言を聞くんじゃない。全部嘘だ。信じちゃいけない!」

 エバンス侯が叫んだ。


「うるさい! だまれ!」

 ブライス公はつかつかと近づくと、エバンス侯の頬を張り倒した。

 エバンス侯はイスごと横に吹き飛んでしまった。

「おとうさま!」

 駆け寄ろうとしたお嬢さまを、ジェームズが抱きとめた。


「いやあっ! 放して!」

 間に入ろうとしたわたしを、ジェームズが突き飛ばした。骨盤のあたりが、なにかの角にぶつかった。

 うう。自分の体幹を過信するものじゃないな。床に這いつくばるように倒れてしまった。


「侍女ふぜいが、出しゃばるんじゃない」

 唾でも吐きかけられるんじゃないかと思った。思わず首をすくめる。

「アメリア!」

 お嬢さまはジェームズにがっちりと捕まえられている。

 お嬢さま、ごめんなさい。離れてしまった。


「言うことを聞いた方が身のためだぞ。なあ、シャーロット」

 ジェームズの猫なで声が気持ち悪い。

「いやです」

 顔を背けるお嬢さまを抱く腕に、ジェームズは力を籠める。


 え? こいつ中身はセクハラオヤジなの?

 子どものくせにキモイんだけど。


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