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信頼


 ルーク殿下はお忙しい。

 わかっている。こんなときだもの。会いたい、なんてわがままを言ってはいけない。

 でも、心細いの。ほんのちょっとでもいいから会いたいの。


 お嬢さまの心の声が聞こえる。はっきりと。

 かぐわしい紅茶が手を付けられないまま冷めていく。

 物憂げにうつむくお嬢さまもかわいらしい。

 が!

 やっぱりお元気でいてもらわないと。


 ご両親もおにいさまも、心配していらっしゃる。

 ルーク殿下からは毎日お花とメッセージカードが届く。おかげでお嬢さまの部屋ばかりでなく、お屋敷中がお花でいっぱいだ。


 そんな中、エバンス侯爵家の家令がめずらしくぱたぱたと足音荒めにやってきた。

「お嬢さま」

 ちょっと息が切れている。何事か。

「王家からお手紙がとどきました」

 うやうやしくトレーに乗せた封筒を差し出した。

 おお。きょうはメッセージじゃなくてラブレターか。


 お嬢さまの顔がぱっとかがやく。

 うん。これもよし。

 わたしはさっと立ちあがってペーパーナイフを取ってお嬢さまに差し出した。お嬢さまはワクワクを抑えきれない顔で、封筒にナイフを入れる。

 しゃっ!

 おお! 迷いなく一気に切った!

 おとなしいようで、じつは思い切りのいいお嬢さま。


 しばらくじっと文面を読んでいたお嬢さまは、ぱあっと花が開くように笑った。

 うん、かわいい。


「ルークさまが、お城でお茶をしましょうって」

「まあ! お茶のお誘いですか!」

 ちょっとおおげさに言ってみる。

「ええ」

 ぽっとほほを赤らめたお嬢さまはいそいそと立ちあがった。

「な、なにを着ていきましょう」

 もう?


「お誘いはいつですか?」

「あしたなの」

 もう、お嬢さまは踊りださんばかりだ。いいですよ、いっしょに踊りましょうか。


 最近ふさぎがちだったお嬢さまが、ひさしぶりにウキウキしている。

 いつもいかめしい顔の家令も踊りだしそうだ。


 ふたりでクローゼットの前にならぶ。

「これはいかがですか」

 そう言ってわたしが手にとったのは、以前ルーク殿下が「よく似合う」とおっしゃった濃いめのピンクに茶色の切り替えのドレス。

 イチゴのチョコレートみたいで、とってもかわいい。


「そ、そうね。でもこれも似合うって言ってくださったわ」

 ミント色のヤツ。うん、これもかわいい。

「ああ、でしたらこちらも」

 ブルーベリームース色。

 うん、迷うね!


 お嬢さまが助けを求めるようにわたしを見つめる。

 いやいや、自分で決めないと。


 四着ほどならべて見せる。

「こ、これはどうかしら」

 とお嬢さまが手にしたには、ラズベリーのような濃い赤のドレスだった。体に当ててみて「どう?」と聞いてくる。

 わたしが「はい、いいと思います」と言ったら、安心したようにほわっと笑った。

 いや、どれもかわいいので、どれでもいいです。


 翌日の午後、お城から迎えの馬車がやって来た。

 おやあ?

 いつもは侯爵家の馬車で行くのにな? 馬に乗った護衛の騎士が四人もついている。


 おかしいな?


 車寄せに着くと、護衛に囲まれて移動する。通された応接室で少し待つと、ルイーズさまもやって来た。

 きょうは、王太子殿下とルイーズさまと四人でのお茶会である。

 たぶん、例の噂の話なんだろうな。

 

 侍女と侍従は別テーブルでお茶とお菓子を提供される。

 王宮のお菓子、おいしいです。

 お菓子を堪能しつつ、たまにヘンリー卿を盗み見る。眼福眼福。


 王妃教育を再開すると王太子殿下が言った。なるべく通常に戻していくそうな。

 自粛が続いたら、状況が悪いんだろうなと思うものね。知ってるよ、そういう状況。

 通常に戻すのは、なんでもないですよー。だいじょうぶですよー。というアピール。


 噂についても、自分たちがしっかり信頼しあおう。惑わされてはいけない。そんなことを王太子殿下が言った。

 王太子殿下の手をしっかりと握るルイーズさまの目には迷いなんかなかった。


 同じくシャーロットお嬢さまの手を取るルーク殿下にも迷いの影はなかった。

 お嬢さまも「はい」と力強くうなずいた。


 ひとまず胸をなでおろしたものの……。


 なんだかいろいろとキナ臭い。王宮内にも衛兵がいつもより多かったし。


 もしかして、噂と落馬事故は関係がある?



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