第7話 幼馴染
24時にも2話ずつ公開するので、そちらもゼひご覧ください!
ダヴィデが失踪したと聞いてから、ディエゴは怒り狂っていた。
「ダヴィデはまだ見つからんのか!」
「も、申し訳ありませんっ」
ディエゴは盛大に舌打ちをした。
「使えん……べニートはどうした⁉︎」
「て、転移魔術でお疲れになったようで、お休みになっておられますっ」
べニートの付き人が声を震わせながら答えた。
「チッ、どいつもこいつも……!」
「ディエゴ様っ」
一人の騎士が飛び込んできて、ディエゴの前に膝をついた。
「報告が——」
「なんだ、ダヴィデが見つかったのか⁉︎」
「い、いえ……」
ディエゴの迫力に、騎士は言葉を詰まらせた。
「ではなんだ!」
「ぼ、冒険者ギルドのギルド長であるソフィ様が、レオナルド様の追放について話を聞かせてほしいと……」
「そんなものはどうでも良い! レオナルドは罪を犯したから追放した。それだけだと伝えておけ!」
「えっ、しかし——」
「なんだ、文句でもあるのか!」
ディエゴは騎士を睨みつけた。
「しょ、承知いたしましたっ!」
騎士は足をもつれさせながら出ていった。
「……ふん」
ディエゴは鼻を鳴らした。
騎士ごときに上流貴族である自分に反論する権利はない。
言われた通り、黙って動いていれば良いのだ——、
「ディエゴ様っ」
「今度はなんだ!」
ディエゴは先程以上の圧を出した。
侍女の間から悲鳴が漏れる。
しかし、やってきた騎士は怯まなかった。
なぜならその男は並の騎士ではなく、マンチーニ家騎士団副団長のフェデリコだったからだ。
それに、フェデリコが持つ情報はディエゴの神経を逆撫でするものではなかった。
「ダヴィデ様に関して目撃情報がありました。緩めの全身真っ黒の服装の男が西に向かったそうです」
「そうか! あんな奇抜な格好をする者など牧師であるやつ以外にはおらん。すぐに兵を出して捕らえよ!」
「へ、兵を出すのですかっ?」
フェデリコは素っ頓狂な声をあげた。
「お、お言葉ですがディエゴ様、相手は牧師——」
「黙れ! 牧師であろうとなんであろうと、こちらの歓迎を踏みにじったのだ! 早急に捕えねば、我がマンチーニ家の名に傷がつく! それとも、私に逆らう気か!」
「……承知しました」
一度ぎゅっと目を閉じてから、フェデリコはディエゴの前を辞去した。
「ダヴィデめ……!」
このタイミングでの失踪は、明らかに不自然だ。
レオが吸血の勇者であったこと、そのため監獄迷宮に転移させたことを言いふらされるだけなら構わない。
だが、もしそうならわざわざ危険を冒してまで失踪などしないだろう。
なにかディエゴに不都合なことを企んでいるから屋敷から逃げ出したのだ。
ディエゴでも、そこまではたどり着いた。
しかし、危険を冒したダヴィデが否が応でも目立ってしまう牧師の格好のまま逃亡するかどうかというところまでは、残念ながら頭は回らなかった。
◇ ◇ ◇
「レオ、遅いっすね……」
ページ領の領主候補筆頭のサーナ・イヴレーアは、窓から顔を出して西の方角へ視線を向けた。
マンチーニ家が治めるタレス領のある方角だ。
タレス領とベージ領はいわゆるお隣さんである。
「あのわんぱく坊主のことじゃから、良い固有魔術でも手に入って迷宮に潜っとるんじゃないか?」
祖父のアンドレアが切りそろえられた白ヒゲを触り、フォッフォッフォッ、と笑った。
「フランチェスカさんもいるからそれはないと思うっすけど」
サーナは苦笑した。
ない、と断言できないのがレオという少年だ。
サーナとマンチーニ家次男であるレオは幼馴染だ。
レオは選定の儀を終えたらイヴレーア家にやってくる予定だった。
儀式自体はもうとっくに終わっているはずだが……、
「はっ! まさか、優秀な固有魔術に目がくらんだ令嬢に言い寄られているんじゃ……!」
「なにいってんすか」
慌てる——正確にはそう見せている——侍女のジュリアの言葉を斬り捨て、窓枠に頬杖をつく。
「あれ、気にしちゃいました? 大丈夫です! たとえ胸が平らだからといって、それだけで太陽すらも雲隠れするサーナ様の輝きは——」
「給料減らすかぶん殴られるか、どっちがいいっすか?」
「後者はむしろご褒美——」
気持ち悪いことを言い始める侍女の頭に、容赦なくゲンコツを落とす。
「くぅ……! これがサーナ様の愛のムチ……!」
「ただのムチっすよ」
サーナは気疲れを感じてため息をついた。
サーナと二人きりのときだけでなく、アンドレアもいる中でもこのテンションを継続できる度胸がジュリアのジュリアたるゆえんだろう。
「いつものことだが、賑やかだな」
長身で細身の男性が部屋に入ってくる。
優しげに細められている瞳と口元に浮かぶ穏やかな笑みは、彼の知性と温厚さを同時に表現していた。
イヴレーア家現当主にしてページ領の現領主のマッテオだ。
サーナの父親であり、アンドレアの息子である。
「お父様、レオからなにか連絡はありましたか?」
「いや、ないな」
マッテオが首を振った。
「冒険者と盛り上がっているのかもしれないな。レオ君は冒険者界隈で人気者だから」
「……そうですね」
父の言葉は希望的観測だったが、サーナはただうなずくにとどめた。
場の空気を重くしないための気遣いだとわかっていたからだ。
しかし、それからも一向にサーナの幼馴染——レオがやってくる気配はなかった。
使者も手紙も来ていない。
ズボラなレオとはいえ、いくらなんでも不自然だ。
こちらから使者を出そうかと話し合っていたとき、一つの噂が飛び込んできた。
「レオが、追放された……?」
サーナは言葉の意味を理解するや否や、報告にきた騎士に詰め寄った。
「どういうことっすか⁉︎ なんでレオは追放されたんすかっ? レオは——」
「サーナ、落ち着け」
マッテオに肩を掴まれる。
サーナは自分が熱くなっていたことに気づいた。
「……すみません」
「いえ……申し訳ありません。追放されたという情報以外は、掴むことができておりません」
騎士が視線を下げた。
「たしかな情報なのか?」
マッテオが問いかける。
「はい。信頼できる筋からの情報です。フランチェスカさんも投獄されているそうです」
「そうか……選定の儀でなにかがあったのかもしれないな。引き続き、情報収集に努めてくれ」
「はい」
敬礼をして、騎士が部屋を出ていく。
「お父様。今すぐ使者を立てましょう」
「ああ」
マッテオが使者に持たせる書面をしたため始める。
しかし、それが終わらぬうちに事態は進展した。
「牧師のダヴィデ様がお見えです」
「……はっ?」
先程とは別の騎士からもたらされた報告に、サーナとマッテオは思わず顔を見合わせた。
「……お通ししろ」
騎士に連れられてやってきた男は、牧師とは思えないほどみすぼらしい服装だったが、たしかにダヴィデで間違いなかった。
彼は一年前、サーナの選定の儀を担当していた。
「マッテオ様、サーナ様。ご無沙汰しております。こんな格好で申し訳ございません」
ダヴィデが頭を下げた。
サーナは、鋭い視線で牧師を見据えた。
レオの選定の儀を担当していたはずの彼が、このタイミングでなんの用だというのか——。
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