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第6話 ダヴィデの思惑

23時、24時にも2話ずつ公開するので、そちらもゼひご覧ください!

「ガッハッハ!」


 マンチーニ家の屋敷の一室で、ディエゴは上機嫌で杯を傾けていた。

 その頬は、まるで火でも燃え上がっているかのように赤い。


 その前に座る牧師のダヴィデの顔色に変化はない。

 酒豪だから、というわけではない。

 彼が飲んでいるのは水だ。


「フランチェスカを監禁し、レオナルドを追放できるとは……今日はなんという日だ!」

「フランチェスカという女性にも問題があったのですか?」

「大いにあったさ」


 ディエゴは大きく頷いた。


「あの女は平民の分際で貴族である俺に食ってかかったり、あろうことか政策に口を出してきたのだ!」

「なるほど。それはひどい」


 杯を叩きつけるディエゴに、ダヴィデは深く頷いてみせた。


「それでもあの女はずる賢く立ち回り、他の貴族にも取り入っていた。だから大目に見てやっていたのだが……それもここまでだ。吸血の勇者を庇ったとなれば、あのあばずれ女の評判は地に堕ちるであろう」


 ディエゴは職業(ジョブ)と人格に関連性があること、そして吸血の勇者のジョブを授かった者はやがて世界を滅ぼすという話を本気で信じていた。


「それは間違いありませんな。しかし、ディエゴ様。レオナルドが吸血の勇者だったことを公表なさるおつもりですか?」

「当然であろう」


 ディエゴは大きくうなずいた。


「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る、という言葉がある。吸血の勇者になってしまった息子を世のために泣く泣く死地へ送ったという話が広まれば、俺の評判はうなぎ登りだろう。ダヴィデはそうは思わんか?」

「ディエゴ様の評判が上がるのはまず間違いないでしょう。しかし——」


 ダヴィデが声をひそめた。


「——その判断にはいささかリスクもあるのではないでしょうか?」

「リスク? どういうことだ」


 ディエゴから不機嫌そうな声が漏れる。

 周囲に控える侍女たちの顔に緊張が走るが、ダヴィデは(おく)することなく続けた。


「レオナルドが吸血の勇者であったことが知れ渡れば、マンチーニ家は吸血の勇者を輩出(はいしゅつ)した家になってしまいます。たとえそれが養子だったとしても、世間から恐れられ、()み嫌われる存在を身内から出してしまったとなればイメージダウンは避けられません」

「むむ、たしかに……」


 ディエゴが眉根を寄せて思案顔になる。

 実際には世間の大半は吸血の勇者を恐れても忌み嫌ってもいないのだが、それを指摘する——あるいはできると言うべきか——者はこの場にはいない。


「ディエゴ様ほどのお方であれば、そんな二人を利用せずとも高みを目指せましょう。ならばここであえてリスクを冒すのではなく、マイナス要素を作らないことを優先しても良いのではありませんか?」


 しばらく考え込むそぶりを見せてから、ディエゴは首を縦に振った。


「……いや、ダヴィデの言う通りだ。しかし、レオナルドがいなくなったことを公表しないわけにはいくまい。やつは、冒険者の間でチヤホヤされて自尊心を満たしていたからな」


 ディエゴが鼻を鳴らした。


「では、レオナルドは選定の儀で罪を犯したため追放され、フランチェスカはレオナルドを庇ったために投獄されたことにしてはいかがでしょうか? 選定の儀での出来事であれば、罪の内容を伏せることも不自然ではありますまい」

「なるほど。それは良い考えだ」


 ガッハッハ、とディエゴは大口を開けて笑った。


「ダヴィデよ。お主はなかなかどうして頭が回るようだな。どうだ。牧師などやめて俺の参謀にならぬか?」

「大変名誉なお誘いをありがとうございます。しかし、私は牧師としてこの生涯を捧げることを決めておりますので……」

「そうか! いや、良い良い。一本芯の通った男は嫌いではないぞ」


 ディエゴは上機嫌でダヴィデの肩を叩いた。


「それにしても、最後のレオナルドは傑作(けっさく)だったな! 私に黙れなどと抜かしおった。やつなりのせめてもの反抗だったのだろうが、それが暴言とはいやはや情けない。まあ、せめてもの情けで黙ってやったが、なにを言うかと思えば必ず戻ってくる、だと? バカも休み休み言ってほしいものだ。あの勇者パーティですら全滅する迷宮で、冒険者なぞにチヤホヤされていい気になっていただけの意気地なしが生きて帰れるわけなかろう! せいぜい恐怖で糞尿でも垂れ流しながら食われるのが関の山だろうな! ガッハッハ!」


 でっぷりとしたお腹を揺すって愉快そうに笑うディエゴに、ダヴィデはそうですね、と笑顔で応じた。




 疲れたので休むといって、ダヴィデはディエゴの与えた部屋に引っ込んだ。

 マンチーニ家の屋敷で最高級の部屋だ。


 相手がいなくなってからも、ディエゴは侍女を側に置きつつ上機嫌で杯を重ね続けていた。


 ノックの音がする。


「ディ、ディエゴ様。少しよろしいでしょうか?」

「良いぞ」


 一人の騎士が入ってくる。

 足早にディエゴの前にやってきて、膝をついた。


(せわ)しないな……なんだ?」


 ゆったりとした時間を邪魔された形だが、ディエゴは上機嫌のまま尋ねた。

 しかし、そんな余裕があったのはこの瞬間までだった。


 騎士は視線を下げたまま、震える声で告げた。


「ダヴィデ様が……牧師のダヴィデ様が失踪いたしましたっ!」




◇ ◇ ◇




「私の替え玉である貴方はとにかく西へ向かってください。ある程度の時間が経てば迎えが来ますから、後はその者に従ってください」

「承知しました」

「頼みましたよ。とにかく捕まらないことを最優先にしてください」

「はい。お任せを」


 緩めの全身真っ黒の服——ダヴィデが着ていたものだ——を身にまとった男が歩き出す。

 通行人から「牧師様じゃない?」「なんでここに?」という声が聞こえてくる。


「よし」


 替え玉作戦の順調な滑り出しを見届けてから、ダヴィデはマンチーニ家の近くに潜伏した。

 胸の前で手を合わせ、つぶやく。


「あなた方の絆と想い、決して無駄には致しません——レオナルド様、フランチェスカ様」

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