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吸血の勇者〜自分を疎んじていた家族により最凶最悪の迷宮に追放された少年魔術師は、唯一無二の職業と固有魔術の力で最強へと上り詰める〜  作者: シャイ
第二章

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第51話 ガブリエーレとの対面

「なぜ、レオ君が吸血の勇者であることを僕が知っているのか、と思うだろうね」

「……そうっすね。なんで知っているんすか?」


 サーナは誤魔化すことはしなかった。

 誤魔化すには、素直に反応しすぎた。

 それに、カルロはレオが吸血の勇者であると確信している様子だ。


「とある人に教えられたんだ」

「ガブリエーレさんすか?」


 カルロは目を見開いた。


「……よくわかったね」

「彼の緘口令(かんこうれい)に逆らえる人はいないと思ったので」


 ガブリエーレに初めて会ったとき、気に食わないと感じると同時に、なんだか逆らわないほうが良い気がした。

 他の者たちも同じように感じたらしい。


「なるほど。たしかにオーラがあるもんね」

「カルロさんは信じたんですか? レオが吸血の勇者であるという話を」

「うん。ガブリエーレさんならわかっても不思議じゃないからね。彼は未来視の固有魔術を持っているんだ」

「そんなのあんのか、すげーな!」


 能天気に感心しているレオは放置しておく。


「……カルロさんはそれを信じているんすか?」


 吸血の勇者が一つの人格である可能性、ベニートが精神干渉を受けていた可能性。

 これら二つに並ぶくらいには現実味がない。


「最初から信じていたわけじゃないよ。ただ、僕も同系統の固有魔術を持っているから、一概にホラだとも言えなかった。そして彼はこれまで何個も予知を的中させた。だから僕は信じているよ」

「ふむ……」


 サーナは顎に手を当てて考え込んだ。


「まだ判断はつかないっすけど……どんな要件すか?」


 何の意図もなく、他人の固有魔術を公開するはずがない。


「話が早くて助かる。君たちにはこれから、ガブリエーレさんに会ってほしいんだ」


 サーナはガブリエーレが自分とレオについて『近々会うことになるからな』と発言していた、という話を思い出した。

 本当に未来予知ができるのなら、この展開も予知していたということなのだろうか。


「僕はお手洗いに行ってくるよ」


 考え込むサーナとレオに告げて、カルロが部屋を出ていく。

 二人だけで話し合う時間を設けてくれたのだろう。


「レオ、どう思うっすか?」

「おーん……」


 レオが真剣な表情で腕を組んだ。

 彼は阿呆だが馬鹿ではない。

 普段は何も考えていないだけで、頭の回転は早い。


「未来視は面白えけど、現実味はねーよな。それに、俺の職業(ジョブ)が吸血の勇者ってのは、牧師のダヴィデさんから伝わっててもおかしくねーし」

「っすよね」


 ガブリエーレは、レオの選定の儀を担当した牧師のダヴィデとの関わりを(ほの)めかしていたらしい。

 未来視よりも、ダヴィデから情報が伝わっていると考えるほうが自然だ。


「けど、カビルンさんがあっさりそんな話に騙されるとも思えねー」

「カルロさんっすよ」


 そう、この話をカルロからされているというのが問題を難しくさせていた。

 現実味は薄いと思うものの、まったくの嘘とも思えない。


 それから程なくして、結論は出た。

 いや、最初から出ていたのだろう。


 部屋に戻ってきたカルロに、ガブリエーレに会う旨を伝えた。

 すでに馬車は用意されていた。


 自分がキューカン迷宮の調査に同行しないのも、ガブリエーレの未来視で仲間に危険はないとわかっていたからだ、とカルロは語った。

 相当信頼しているようだ。


「もしかして、ルイージを……ルイージさんを止めなかったのは、レオが怒って吸血の勇者になるか試したんすか?」

「まさか」


 カルロが笑って首を振った。


「さすがに吸血の勇者はそんな軽いノリでは試せないよ」


 そりゃそうか、とサーナは納得した。




 国防軍の本部も王都にある。

 到着までさして時間はかからなかった。


 国防軍は金がふんだんに使われており、よく言えばきらびやか、悪く言えばうるさい建物だ。

 サーナは後者だった。

 キラキラしたものは苦手だ。

 奥ゆかしさを感じるイヴレーア家で育ったからというのもあるだろう。


「おひょー、キラキラだ!」


 レオが下品な歓声を上げたので、ゲンコツを落としておく。

 恥ずかしいので本当にやめてほしい。

 カルロから生暖かい視線が向けられているのがわかる。


 殺風景な一室に通され、待つこと十分。

 一人の男が部屋に入ってきた。


「——待たせたな」


 国防軍最強魔術師で、軍随一(ずいいつ)精鋭(せいえい)部隊の隊長でもあるガブリエーレだ。

 伝えられた時間ぴったりの登場だ。

 なんだか彼らしいな、とサーナは思った。


 引き締まってはいるが華奢で、上背もサーナより下、レオと同じくらいだ。

 しかし、その目つきの鋭さと隙のない立ち振る舞いは、さすが最強魔術師といえた。


 レオとサーナを黙って見つめること数秒、ガブリエーレは口を開いた。


「レオナルドとサーナ。お前ら、軍の士官学校に入れ」


 突然だな。

 相変わらず偉そうだ。


「士官学校に? どうしてっすか」

「未来視の話は聞いているな?」


 サーナとレオは揃って頷いた。


「この先、半年以内に各地で大規模な戦闘が起きる。詳細はわからねえが……そのとき、お前たちが王都にいるのが重要になる」

「そのことと士官学校に入ることに関連性はあるんすか?」

「お前らが士官学校に入っておくべきだってことしか、今はわからねぇ。ただ、推測はできる。士官学校は軍の機関だからな。そこにお前らが入っておけば、クソめんどくせぇ手続きなしに軍の設備を使えるし、情報も共有できる」


 ガブリエーレが茶を含む。

 視線を逸らした。

 この話題についてはこれ以上しゃべらない、ということだろう。


「なるほど……ガブリエーレ様の固有魔術について、少し伺ってもいいっすか?」


 ガブリエーレが視線をサーナに戻した。


「私たちが士官学校に入るべきだとわかったのは今っすか?」

「あぁ」

「ということは、未来視の発動条件は対象を視界に入れること……ですか?」

「そうだ」


 かなり踏み込んだ質問だったが、ガブリエーレはあっさりうなずいた。

 何を問われるのか勘づいているのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、サーナは尋ねた。


「それなら、何でレオが吸血の勇者だってわかったんすか?」


 発動条件が対象を視界に入れることであるならば、彼はどうやって会ってもいないレオのことを予知したのだろうか。


「半年後の未来で、そいつの戦っている姿が視えた」


 ガブリエーレがレオを顎で示した。


「そいつの白目は黒く染まり、黒目も赤く光り、キバが生えていた。クソ古い文献から、吸血の勇者だとわかった。あとは、カルロとお前らが出会う未来が視えたから、ここに連れて来させたまでだ」

「なるほど」


 筋は通っている。


「じゃあ、もう一つ。これは質問というよりお願いなんすけど……私たちについて何か予知してもらえないっすか?」

「特にない」


 即答だった。


「……と、いうと?」

「全部が全部、予知できるほどたいそうなもんじゃねぇし、言わないほうが良い未来もある。だが、そうだな……」


 ガブリエーレがレオを見た。


「レオナルド」

「おう?」

「一ヶ月後の今日、ここに迷宮で出会ったやつを連れて来い。おそらく、それで未来が動く」

「ミアのことか? 会えるかわかんねーぞ」

「問題ない。お前はすぐに会うことになる」


 また人との出会いに関する予知か。

 ガブリエーレ寄りの考えをするなら、それを言っても未来が変動する可能性が少ないのだろう。


「何で今日、俺とサーナに会おうと思ったんだ?」


 レオが尋ねた。


「お前らとカルロが会うのが視えたから、ちょうどいいと思ったまでだ」

「カルロさんにレオのジョブが吸血の勇者であることをお教えしたのは、今日ここに連れて来させるためっすか?」

「いや、元々カルロには教えておく必要があった」


 ガブリエーレの言葉が終わると同時に、ノックの音がした。


「時間だ」


 ガブリエーレが立ち上がった。


「なんかあんのか?」

「面倒事だ」


 レオの問いにそっけなく答え、扉へ向かう。

 部屋を出る直前、ガブリエーレは振り返った。


「俺とのつながりは、ミア以外には公にするなよ。俺は右翼、保守派の人間だからな」


 簡潔に言い残し、今度こそ部屋を出て行った。




「なぁ。あいつが保守派だと、何でつながりを公にしちゃいけねーんだ?」

「保守派は貴族主義っすから。追放されたり、正統後継者から外れた私たちのことはよく思わないんすよ」

「あぁ、そういうことか。でも、ならなんであいつは保守派にいるんだ?」


 それはサーナも疑問に感じていた。

 カルロを見る。

 勇者は首を横に振った。


「わからない。なにかしら意図はあるんだろうけど……」

「そうっすね……」


 保守派の中では柔軟なのか、そもそも身を置いているだけで、貴族主義に染まっていないのか。

 いずれにしろ、狙いが読めない。


 安易に信用することはできない——。

 それが、最初の対面を終えたサーナの結論だった。

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