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第5話 監獄迷宮での生活③ —第一の扉—

23時、24時にも2話ずつ公開するので、そちらもゼひご覧ください!

「痛ってえな〜」


 レオは瓦礫(がれき)を押しのけて立ち上がり、服の汚れを払った。


「ほう」


 ヒュージ・リオンが口の端を持ち上げた。


「あの一撃を受けても立ち上がれるか……よほど鍛えているとみえる。だが、このままでは我には勝てぬぞ人間よ。さあ、どうする?」


 ヒュージ・リオンは実に楽しそうだった。

 自らの勝利を確信しているからこその余裕。

 そこには、人間に対する優越感が少なからず存在していた。


 集団戦ならともかく、一対一での戦いでは絶対に自分が上回っているという(おご)り。

 それこそが命取りとなった。


「人間って呼ぶな。俺はレオだっつーの」


 軽口に付き合いつつ、レオは左手首にはめたAPD(エーピーディー)——魔術発動補助装置に触れた。


「あんまり魔力は消費したくねーけど、仕方ねーな」


 治癒魔術の使えないレオとしてはこれ以上の怪我は避けたかったし、出し惜しみをして負けたら本末転倒だ。

【汎魔剣】と【身体強化】を解除し、普段はあまり触れることのない、ゼロのボタンを押す。


「——【第一の扉(ファースト・トリガー)】、解放」


 レオの体の周りがぼんやりと水色に光る。

 大量の魔力が体内を循環しているときに起きる現象だ。


「ほう……!」


 ヒュージ・リオンが目を見張った。


「格段にレベルが上がったな人間よ! 面白い!」

「俺はレオだっつーの」


 レオは姿勢を低くした。


「——第二ラウンド、開始だ!」


 地面を蹴る。

 次の瞬間、ヒュージ・リオンの顔が目の前にあった。


 小細工を(ろう)したわけではない。

 単純にスピードが上がったのだ。

 驚愕(きょうがく)に埋め尽くされた顔に正面から拳を叩き込む。


「ガアッ⁉︎」


 ヒュージ・リオンが猛烈な勢いで壁に突っ込み、岩がガラガラと崩れ落ちた。


「おのれ……なんだそのスピードは——ゴフッ!」


 悪態を吐きながら立ち上がったヒュージ・リオンの脇腹を蹴り飛ばす。


「わりいけど、俺は相手におしゃべりする隙は与えねーぞ」


 レオはその宣言通り、攻撃を止めなかった。


「くっ……このっ!」


 ヒュージ・リオンが飛びかかってくる。

 先程までは目で追うのも精一杯だったが、今は余裕を持ってかわすことができた。


 右と見せて左に避ける。

 フェイントに引っかかったヒュージ・リオンの爪は空を切った。


 飛び上がってガラ空きになった腹に蹴りを入れる。

 空中にいたヒュージ・リオンにそれを回避する術はなかった。


 巨体が再び壁に突っ込み、土煙が立ち上った。




◇ ◇ ◇




 腹、背中、そして頭。

 連打をくらい、ヒュージ・リオンはとうとう地面に倒れ込んだ。


 もはや、痛みも感じないほどに神経が麻痺している。

 完敗だと認めざるを得なかった。


「お前、ホントにタフだなぁ」


 挑発とも受け取れるその言葉にも怒りを覚えなかった。

 レオから(あお)りの気配は伝わって来なかったし、なによりこれほど強い相手からそう言われるなら悪くないか、と思ってしまったのだ。


 命の灯火が刻一刻と小さくなっていくのがわかる。


「なにか、言い残すことはあるか?」


 レオが近くにしゃがみ込む。

 まるで人間にするようなその仕草に、薄れゆく意識の中でヒュージ・リオンは苦笑した。


「貴様なら、たどり着けるかもしれんな……」


 半永久的に魔物を排出し続ける、迷宮の謎に——。




◇ ◇ ◇




「えっ、何にたどり着けるって?」


 レオはヒュージ・リオンの口元に耳を近づけた。

 返事はない。

 すでに絶命していた。


 一息吐いてその場に座り込む。


「やっぱしんどいなー……」


 ヒュージ・リオンを倒すために使った技は、【第一の扉(ファースト・トリガー)】と呼ばれるものだ。


【第一の扉】を解放することで、大量の魔力を体内に高速で循環させることができる。

 それにより運動神経などのすべての能力を強制的に向上させられる一方、体への負荷も魔力消費も激しい。長時間の使用はできない。


 そのため、【第一の扉】の魔術陣をAPDに組み込んで良いのは、一定以上の実績と実力ある者のみだ。


「いやぁ、APDに組み込んどいて良かった」


 APDには持ち運び型と手首にはめるタイプの二種類あるが、そのどちらにもボタンが十個ついていて、それぞれが記憶している魔術陣と対応している。

 そのため、APDに組み込める魔術陣は十個までということになるので、【第一の扉】を組み込んでないときもあるのだ。


「疲れたし、コイツ食っちゃうか」


 火の石——火を起こすことができる魔石——でヒュージ・リオンをあぶる。


「いただきまーす!」


 食べるのは初めてだったが、お腹が空いていたこともあってか、ペロリと平らげてしまった。


「ふうー、食った食った……ごちそうさまでした。うまかったぞ」


 骨に向かって手を合わせる。

 それらに軽く土をかけ、レオは再び歩き出した。




 前方に魔物の気配を感じた。

 これで何度目かもわからない。


 ゆったりとして足取りで近づいてくるその姿は、まるで大きなブタにゴリラの腕がくっついたようだった。

 ピゴラというCランクの魔物だ。


 ピゴラってディエゴみたいだな。

 そう思った瞬間、半ば無意識的に【魔力弾(マジカル・バレット)】を放っていた。


「ブギィ⁉︎」


 何発も、何発も、魔力の弾を放つ。

 ピゴラの体から火が上がり始めるのを見て、レオはようやく我に返った。


 急いで火を消すと、ピゴラの体は焦げて炭になっていた。

 明らかなオーバーキルだ。


「……魔石を使わなくても火って起こせるんだな」


 口からため息が漏れる。

 灰色の物体と周辺に飛び散った赤色を視界に入れないようにしながら、レオは足早にとその場を後にした。

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