第48話 勇者パーティーとの対面
——ロット領に戻ってから二日後の昼過ぎ。
サーナとレオは王都にやってきていた。
レオ自身が生還してしまったため、サーナが勇者パーティーに出した彼の探索兼救出依頼は反故となった。
しかし、勇者パーティーに個人的な依頼を受けてもらったこと自体が普通はあり得ないことなので、お礼と報告がしたいと申し出たところ、今の日時と王都のとある店を指定された。
向こうも監獄迷宮についての話が聞きたいとのことだった。
勇者パーティーの活動拠点もロット領にあるので、ロット領で良かったんじゃないかと思う側面もあるが、彼らは忙しい身だ。
スケジュール的に、こちらのほうが都合が良いのかもしれない。
指定された店は、大通りを逸れた入り組んだところにあった。
いかにも一見さんはお断り、というお店だ。
オーナーらしき人物に勇者パーティーに会いに来た旨を告げると、奥の個室に通された。
中には四人の人間がいた。
男性と女性が二名ずつだ。
カルロ以外のメンバーと顔を合わせるのは初めてだった。
女性メンバーのセレーナとグレタは笑顔で挨拶をしてくれたが、ルイージという男はあからさまに歓迎していなかった。
こちらを見下しているような節もある。
軽く調べたところ、勇者パーティーの中では一番情報が少ないのがルイージだった。
大方、訳ありの貴族の坊ちゃんなのだろう。
それならばこちらを見下そうとするのもわかるし、サーナも貴族界に揉まれて生きてきた身だ。
その程度のことでは腹も立たない。
ちなみにレオは挨拶が済むなりメニューに釘付けになっている。
ルイージの態度など毛すらも気に留めていないだろう。
「カビルンさーん。これ、どんな飲みもんなんだ?」
「アホ」
サーナは、レオの頭にチョップをかました。
「カビルンじゃなくてカルロさんっすよ」
「名前を間違えるのはいいとして、その間違え方はやめてほしいね。なんだか汚く聞こえるから」
「あぁ、わりぃわりぃ」
カルロの苦笑まじりの苦言に、レオが軽い調子で謝る、
ちっとも悪いと思っていなさそうだ。
代わりにサーナが頭を下げると、カルロは気にしていないとでも言うようにひらひらと手を振った。
セレーナとグレタも苦笑している。
良かった。少なくとも表面上は、立場を笠に着る人たちではないようだ。
ルイージのレオを見る目線にはっきりとした侮蔑の色が加わる。
勇者パーティーは政治への不介入を謳っているが、それでも様々な立場の人間と接する機会はあるだろう。
ここまでポーカーフェイスの下手な者がいて大丈夫なのだろうか、とサーナは心配になった。
それぞれが飲み物の注文を済ませると、カルロが単刀直入に切り出した。
「さて、それではレオ君。話してくれるかな。監獄迷宮で何があったのか」
◇ ◇ ◇
人語を解するヒュージ・リオン。
キアーラの霊。
彼女を含めた先代勇者パーティーを全滅させた人型生命体や、その色違い。
レオの【第二の扉】。
そして、パナセアとハオマ。
とてつもない情報量だ。
勇者パーティーとしてもっとも詳細をたしかめなければならないのは、人型生命体についてだろう。
しかし、カルロは別の話題から切り出した。
「君が途中で出会ったという少女、ミアちゃんは無事なのかい?」
そう尋ねたのは、ミアが色違い——水色の人型生命体に襲われ、重傷を負ったという話があったからだ。
「おう。脇腹からドバドバ血が流れてやばかったけど、パプリカのおかげですぐ治ったぞ」
「パナセアでしょ。パプリカはうまいすけど、怪我は治せないっすよ」
サーナがツッコミを入れる。
「おう、それだそれだ」
「……パナセアは実在したということか。それで今、ミアちゃんはどこに?」
「すぐ実家に向かったぞ」
「そうか……」
カルロは安堵の息を吐いた。
彼女の母親であるイレーネとは、つい先日に会った。
健康体とはいえなかったが、今日明日にどうこうというほどの容体でもなかった。
パナセアがあれば大丈夫だろう。
ミアの父親であるブルーノも、さぞ喜ぶに違いない。
「けれど、パナセアやハオマは監獄迷宮の限られた場所にしか生えていないのでしょう? ということは、生息するためには魔力濃度の高い環境が必要なはず。地上に持ってきて、枯れたりはしないんですの?」
セレーナが尋ねた。
「おう。外気に触れるとダメになるけど、高濃度の魔力で包んでれば大丈夫みてーだぞ。ほら」
レオが二つの箱を取り出した。
水色に光っている。
ひと目見て、高濃度の魔力で作られているとわかる。
一方には緑色に光る花が、もう一方には青色に光る花が、それぞれ複数枚入っていた。
「おぉ、すげーな……ですね」
グレタが感嘆の声を上げた。
「たしかに高濃度の魔力を感じますが……本当に効能は保てているのですか? これで結局効果切れでした、なんてことになれば、ミアさんたちがあまりにも不憫です」
「ルイージ」
カルロは最年少メンバーをたしなめた。
言いたいことはわかるが、まるで全責任がレオにあるかのような言い方はあまりにも失礼だ。
サーナが鋭い視線をルイージに向ける。
しかし、当の本人のレオはまったく気にしていないようだ。
「おう、多分な。カリパ村で重傷を負っていた女の子とサーナは、パナセアを飲んだらすぐに治ったぞ?」
「魔力もハオマで全回復しましたしね」
サーナが言い添えた。
「なら、大丈夫そうですわね」
セレーナが話をまとめにかかった。
いつもなら、ここでルイージも引く。
しかし、今日の彼はしつこかった。
「……では、パナセアとハオマについては信じましょう。しかし、人型生命体や【第二の扉】については話は別です」
「ルイージ、いい加減にしないか」
カルロは、本気でルイージを叱責した。
しかし、彼は引き下がらなかった。
「いいえ、カルロさん。勇者パーティーとして、真実は明らかにしておくべきです。監獄迷宮から生還したのですから、ある程度の実力はあるのでしょう。しかし、ただ運が良かっただけで、話を盛っている可能性もあります。第一、彼は実家を追放された問題児——」
「おい」
冷たい声。
サーナだった。
ルイージを見据えるその顔には、何の表情も浮かんでいない。
しかし、感情だけはカルロにもヒシヒシと伝わってきた。
殺意。
しかも、凄腕の暗殺者にも引けを取らないほど濃密な。
背筋に悪寒が走り、制止のタイミングが遅れる。
しかし、カルロが危惧した事態にはならなかった。
「まぁまぁ、そうカッカすんなって」
レオがサーナの肩をポンポンと叩いた。
途端に、殺気が消える。
ルイージが一息ついた。
平気そうな顔をしているが、あの濃密な殺気を向けられていたのだ。
プレッシャーは相当なものだっただろう。
実際、彼の額には汗が浮いている。
部屋は、少し涼しいくらいだ。
「……不要な発言があったことは謝罪しましょう。しかし、疑いが晴れたわけではない。ですから——」
眼鏡をクイっと持ち上げ、ルイージは続けた。
「私と戦いなさい、レオナルド・マンチーニ。戦って、己の正当性を示しなさい」
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