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吸血の勇者〜自分を疎んじていた家族により最凶最悪の迷宮に追放された少年魔術師は、唯一無二の職業と固有魔術の力で最強へと上り詰める〜  作者: シャイ
第二章

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第46話 ただいま

 自分の中の葛藤(かっとう)、レオへの(ねた)み。サーナへの想い……。

 それらすべてを、ベニートは包み隠さずに語った。


 今でも、なぜ自分がレオを憎んでいたのか不思議でならない。

 しかし、言い訳はしなかった。

 そんなことができる立場ではないと、わかっていたから。


「俺がしたことは、決して許されることじゃない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


 そう言って、ベニートは話を締めくくった。

 嘘偽りのない本音だった。


 レオに殺されたとしても、それは因果応報だ。

 そうなる未来も覚悟していた。


「……俺は、別にお前に苦しんでほしいわけじゃねえ」

「なっ……⁉︎」


 ベニートは目を見開いた。


「ベニートは嘘ついていねーと思う。謝罪の気持ちも懺悔(ざんげ)の心も伝わってきた。だから、俺からなにか罰を受けろとか言う気はねーよ」

「レオ……」

「けど、勘違いすんなよ。信じ切ったわけじゃねーからな」

「……わかってる」


 ベニートはゆっくりと、そして深くうなずいた。

 わかってる。決して許されたわけじゃない。


「お前がくれたチャンスは無駄にはしない。必ず、これから行動で示していく」


 レオは一つうなずくと、扉へ向かった。

 ドアノブに手をかけ、彼は振り返った。


「ただいま——兄貴(・ ・)

「っ……!」


 絶句するベニートの返事を待たずして、彼は部屋から出ていった。




 弟の去り際の一言により、ベニートは感情を処理し切れなくなった。


 チャンスをもらえた嬉しさと罰せられなかった苦しさが、胸の中を渦巻いている。

 苦しみのほうが大きかった。


 衣服のこすれる音。

 ベニートは動いていないので、サーナのものだろう。


 レオが退室する素振りを見ても、彼女は座ったままだった。

 気を遣ったのだろう。


 ベニートとサーナの間で、数年前までのように雑談が花を咲かすことはない。

 一緒にいる理由もないので、部屋を出ていくのだろう。


 そう思った矢先、頬に衝撃を受けた。


「がっ……!」


 ベニートの体が吹っ飛ぶ。

 床に叩きつけられた。

 右半身に鈍い痛み。受け身も取れなかった。


 拳を振り下ろした姿勢のまま、サーナが見下ろしていた。


「本当は、もっと早くこうしたかったんすよ」


 ベニートは体を起こした。

 重症ではないだろう。


「でも、私も信じ切れていなかったから、協力してもらうために殴らなかった」

「……そうか」


 ショックはなかった。

 自分が信用に値する人間でないことは、ベニート自身が一番よくわかっている。


「最初はもっと殴る予定だったっすけど……これまで苦しんでいるの見てきたから、今はこれくらいで許します。けど——」


 サーナの目が鋭くなる。


「今度あんたがレオのことを裏切ったら、誰に止められようと、私はあんたを殺すっすよ」

「あぁ、わかってる」


 脅しではないだろう。

 サーナは、レオのためならそれができる人間だ。


 しかし同時に、人を殺して平気なタイプでもない。

 自分のせいで彼女が人殺しになるのは、絶対に避けなければならない。


 もしも再びレオを裏切りそうになったら、そのときは自分で——。




◇ ◇ ◇




 ベニートと話した後、レオは事情を知らない冒険者や市民と交流していた。


 サーナは傍から見ているだけだったが、贔屓目なしに多くの人間がレオの帰還を喜んでいた。

 老若男女問わず、涙ぐむ者も何名も見受けられた。


 反対に、マンチーニ家の人間は居心地が悪そうだった。

 その中で一人、フェデリコだけが表立ってレオに謝罪をした。

 サーナは苦手意識を抱いていたが、少し好感度が上がった。


 そのことをソフィに話すと、タレス領冒険者ギルドの女ギルド長は「堅物ですけど、悪人ではありませんから」と苦笑いを浮かべた。


 サーナは彼女の隣に並んだ。

 少し離れたところには大きな人だかりがあり、男たちが酒を片手に騒いでいる。

 その中心にいるであろうレオに、サーナは心の中で合掌した。


「サーナ様」


 横から名前を呼ばれる。

 現在、サーナの近くにいるのはソフィのみだ。

 彼女の表情は硬い。


「ベニート様……どうでしたか?」


 すぐに、レオとベニートの対話について聞きたいのだとわかった。


「レオも言ってたっすけど、反省や後悔、懺悔はちゃんと伝わってきたっすよ。罪を背負って生きていく覚悟も、できているように見えました」

「そうですか……」


 ソフィは、しばし黙り込んだ。


「……私は未だに、今のベニート様とレオ君を追放した彼が同一人物だとは思えないのですが」


 サーナはすぐには答えなかった。

 呆れたからではない。

 もっともな意見だと思ったからだ。


「なんだかレオの話と似てるっすね」

「ベニート様の職業(ジョブ)は吸血の勇者のような特殊なものではないので事情は異なると思いますが……サーナ様は転移魔術についてどこまでご存知ですか?」

「転移魔術?」


 また唐突な話題転換だな。


「基本的には二つでワンペアになっていて、双方向への転移が可能。でもたまにベニートがレオに使ったような特定の場所に転移させられるものもあって、これは現代では再現も複製も不可能……って感じっすよね?」

「その通りです。では、自分の知っている場所限定とはいえ、任意に転移できる転移陣があったらどうですか?」

「便利なんて言葉じゃ言い表せないっすね。魔術界の革命っす」

「そうですよね。それを、ベニート様は開発なされたのです」

「えっ……」


 サーナはまじまじとソフィを見つめた。


「……マジっすか?」

「マジです。大量の魔力を消費するようですし、迷宮の第何層や建物の何階などはさすがに指定できないようですが……サーナ様からご連絡があったちょうどその日に、転移陣が完成しました。自ら探しに行くというベニート様を止めていたところで、サーナ様からのお手紙が届いたのです」

「間一髪っすね。もう少し手紙を出すのが遅ければ、ベニートは一人、監獄迷宮に取り残されていたわけですか」

「えぇ。首尾よくレオ君を発見できる算段もなかったし、ベニート様は攻撃も防御も得意ではありませんから、ほぼ間違いなく死んでいたでしょう。弟を追放するような人が、そんなリスクを冒してまで弟を助けようとするでしょうか」

「私もその違和感は感じるっすけど……影武者、なんてことはないでしょう。誰にも気づかれないなんてことはありえないっす。それこそ、記憶を操作でもされていない限りは——あっ」


 顎に手を当てて考え込んでいたサーナは、ゆっくりとソフィに目を向けた。


「まさか……ソフィさんは、ベニートになんらかの脳への、あるいは精神的な干渉があった、と考えているんすか?」

「人が変わったような、という言葉がありますが、ベニート様はその言葉通り、人格が変わった——いえ、昔に戻ったように見えます。フラも洗脳という表現をしていましたし……その可能性はあるんじゃないかと思います」

「うーん……」


 サーナは首をひねった。


「私の固有魔術も精神に関係するものなので一概にないとはいえないっすけど……精神系の魔術って、まだロクに研究も進んでいないっすよね?」

「そうですね」

「なら可能性は低いと思うっすよ。ソフィさんが知らない魔術があるとも思えないし」

「それは買いかぶりですよ」


 ソフィが苦笑した。

 彼女は、世界で数人しかいない女性ギルド長としてだけでなく、魔術の知識が豊富なことでも知られている。


 年齢は三十前後という話だが、実はもっと年上なのではないか、と疑ったこともある。

 それくらいの知識量なのだ。

 ちなみに、見目に関しては二十代前半といわれても違和感はない。


 ソフィはギルドにもどるということなので、サーナも屋敷に引っ込んだ。




 レオがヘトヘトになりつつも酔っ払いの監獄から抜け出してきたのは、それから数時間後のことだった。

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