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第4話 監獄迷宮での生活② —強敵の出現—

22時、23時、24時にも2話ずつ公開するので、そちらもゼひご覧ください!

 レオが監獄迷宮で二度目の大便を試みていると、遠くのほうで魔物の気配を感じた。


「やべっ、これ、結構つえーぞ」


 レオの視力は平均的だが、たとえ相手がレオの直線上にいたとしても姿を視認できないくらいには距離が離れている。

 にも関わらず気配を感じるということは、それだけの実力なのだ。


 現状で最善の手は、大便を切り上げることである。

 しかし、長年の経験からレオは悟っていた。

 すでに、大便が途中棄権を許さない最終フェーズに突入してしまっていることを。


 一瞬で判断を下す。


「もう、出し切るしかねえ……んぐぐ!」


 魔力をお尻に集中させ、すべてを解放する。

 いつもの三倍は速いだろう。

 なにがとは言わないが。


 テンションが高かったときに思いつきでやってみたこと——神速大便とでも名付けよう——が、まさかこんな場面で活きてくるとは。

 何事も試してみるものだ。


「——人間を見るのは久々だな」


 前方から大きな声が聞こえた。

 喋れる魔物とは珍しい。

 さすがは監獄迷宮だ。


 まもなくして視界に映ったのは、ライオンが巨大化したような見た目の生物だった。


「ヒュージ・リオンか……」


 レオは顔をしかめた。


 ヒュージ・リオンは、危険度でいえば上から三番目のAランクに分類される魔物だ。

 人語を解するほどの知能を備えているとなれば、かなり厄介だ。

 最上位のSSランクまではいかないとしても、Sランクレベルなのは間違いないだろう。


 普段なら強敵だと両手をあげて喜べるが、現状を考えればワクワクと不安が半々といったところだ。

 なお、半分はワクワクしてるんかい、とツッコむ者はここにはいない。


「おいおい、そんな顔をするな。悲しいではないか」


 レオにゆったりと近づいてくるその姿は自信に満ち溢れていた。


「殺しはなしって約束してくれるってんなら笑えるんだけどなぁ」


 レオはAPD(エーピーディー)を操作した。

【並魔剣】の代わりに【汎魔剣(ブロード)】を装備する。

身体強化(アクセラレート)】も発動させておく。


「フハハ、それは無理な話だ。久しぶりに人間の肉が食えるのだからな」

「ちぇっ」


【汎魔剣】は強度を自由に変えられる剣で、耐久力重視で太くなるデュラビリティモードと、切れ味に特化した刀身の細いシャープモードがある。

 魔力消費量は増えるが、おそらく【並魔剣】だけでやり合える相手ではない。


 最初はシャープモードにしておく。

 持ち手の部分にボタンがついているため、切り替えは容易だ。

 もっとも、レオはほとんどデュラビリティモードを使ったことはないが。


「あぁ、あと俺さっきうんこしたばっかだから、ここら辺わりとくせーぞ。良いのか?」

「フハハ、そんなものが野生の魔物に通用するとでも? 自分や他の魔物の糞尿などそこら中にある」


 ヒュージ・リオンが胸を張った。

 四本足なので、正確にはそんな気がしただけだが。

 心なしか顔がドヤっている気もする。


「過酷な環境だな……」


 レオは同情と尊敬を同時に抱いた。

 自身も野生児などと呼ばれることはあるが、トイレはあるし水で流すこともできれば掃除もできる。

 まだまだ野生で生きる強者たちには及ばないようだ。


「さて、覚悟はできたか人間よ。我の食欲はもう限界だ」


 ヒュージ・リオンがわずかに姿勢を低くした。

 ——くる。

 体を左に傾けた。


 一瞬の後、右頬に風を感じた。

 ヒュージ・リオンの爪がかすめたのだ。

 頬に赤い線が走る。


「っぶねぇ〜」


 少しでも動くタイミングが遅れていたら喉元を引き裂かれていただろう。


 一息吐いている余裕はなかった。

 間髪入れずに追撃がくる。

 

 ギリギリまで待ってからしゃがみ込んだ。

 ヒュージ・リオンの右前足が頭上を通過する。

 振り向きざまに【汎魔剣】を振り上げるが、そのころには相手はレオの射程範囲外だった。


「お前、めちゃくちゃ速えな!」

「貴様も人間とは思えぬぞ!」


 互いに地面を蹴る。

 レオは相手の体の中心やや右を目がけて突きを繰り出した。

 ヒュージ・リオンが左に跳ぶ。


 狙い通りだ。

 突きを中断して左に剣を振り下ろす。

 完璧なタイミングに思われたが、ヒュージ・リオンは皮一枚で回避してみせた。


「マジか!」


 一直線にレオに突っ込んでくる。

 レオは咄嗟にデュラビリティモードに切り替え、その攻撃を受けた。


 衝撃を消し切れず、弾き飛ばされる。

 地面が迫ってくる。


 なんとか受け身を取り、ダメージは最小限にとどめることはできた。

 しかし、最悪の状態を回避しただけだ。

 劣勢を(くつがえ)したわけではない。


「そらっ、そらっ!」

「くっ……!」


 シャープモードに戻して反撃をする余裕もないまま、レオの体にはどんどん傷が増えていく。


 しかし、レオは慌てなかった。

 実力差はあるが、ひっくり返せないほどではない。

 反撃のチャンスは必ずくる。


 そしてさらに幾度かの攻防を繰り返した後、そのチャンスは巡ってきた。

 レオに攻撃を弾かれ、相手の体勢がわずかではあるが崩れたのだ。


「——ここだ!」


 レオはシャープモードに切り替え、最速で斬りかかった。

 仕留められなくとも、一太刀は確実に浴びせられる——はずだった。


 しかし、またも皮一枚で(ひるがえ)された。


 レオは悟った。

 今の千載一遇のチャンスは相手が意図的に作り出したものだったのだと。


 誘われていた。

 大振りで攻撃をしたレオと、その攻撃を読み切って最小限の動きで回避をしてみせたヒュージ・リオン。

 どちらが次の行動に素早く移れるのかは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。


 当たればレオの体を容易に切り裂くであろう鋭い爪が迫ってくる。

 剣で受け止めて致命傷を避けるのが精一杯。

 デュラビリティーモードに切り替える余裕もなかった。


 耐久力に劣るシャープモードで攻撃を受け止め切れるはずもなく、レオは吹っ飛ばされた。

 背中から壁に突っ込み、土煙が立ち込める。

 右手に握られていた【汎魔剣】は、中心からポッキリと折れていた。

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