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第2話 選定の儀② —追放—

21時、22時、23時、24時にも2話ずつ公開するので、そちらもゼひご覧ください!

 祭壇(さいだん)では牧師のダヴィデが待っていた。

 教会内にいるのは彼とレオ、フランチェスカ、そしてディエゴとベニートと二人に付き従う付き人のみだ。


 それ以外の騎士などは教会の前で待機している。


「それでは、選定の儀を()り行います」


 ダヴィデが抑揚のない声で告げた。


 簡単な説明が行われた後、レオは指示に従って水晶玉に手を乗せた。

 水晶玉が発光した。

 刺激が走り、体がビクッと揺れる。


「っ——」


 誰かが息を呑んだ。

 水晶玉が発光するのは、職業(ジョブ)を持っている人間が触ったときのみ。

 そして、ジョブ持ちということは、同時に固有魔術持ちでもあるということだ。


 レオは目を輝かせてダヴィデを見た。

 ——牧師は、目を見開いて固まっていた。


 レオの中を嫌な予感が駆けめぐった。

 ダヴィデは震える声で告げた。


「レオナルド様のジョブは……吸血の勇者です」


 空気が凍るとは、まさにこのことだろう。

 しばらくの間、誰一人として言葉を発しなかった。


 静寂(せいじゃく)を破ったのは、場の雰囲気にそぐわない笑い声だった。

 ディエゴだ。


「ガッハッハ!」


 レオの義父は、しばし愉快そうに肩を揺らした。


「いやはや、まさか吸血の勇者が誕生してしまうとは……備えはしておくものだな! なぁ、ベニート」

「そうですね、父上」


 べニートの声が遠くから聞こえた。

 いつの間にかディエゴのそばから離れていたレオの義兄は片膝をつき、左の手のひらを床に触れさせていた。


 否、床ではない。

 その上に置いてある幾何学的な模様が描かれた紙に触れているのだ。

 模様が水色に発光した。


「魔術陣……!」


 レオはその場を離れようとするが、遅かった。

 足元に幾何学的な模様が出現し、周囲を水色に輝くドーム状の壁が取り囲んだ。


 それが何なのかはレオにもわからなかったが、脱出しなければならないことはわかった。

 触れると弾かれる。

 ならば魔術で——、


「——えっ?」


 魔術が発動できなかった。


「……どういうことだ?」

「ガッハッハ、魔術が発動できないか? そうであろうな! その強制転移陣には対象の魔力を封じ込める術式も組み込まれているからな!」

「強制転移陣……⁉︎」


 足元で水色に光り輝いている特徴的な模様に目を向ける。

 たしかに記憶にある転移陣によく似ていた。


「どうだ⁉︎ 手も足もでまい! その壁は生身の人間では到底壊せない。魔力を封じられたお前などただのガキだ。お前にできることは、ただ転移が発動するのを待つのみなのだよ!」


 ディエゴの言葉には耳を傾けず、レオは様々なアプローチを試みた。

 その結果、一つの事実が判明した。

 ——今のレオでは、どう足掻(あが)いても状況を打破できない。


 片膝をついたまま呼吸を整えているべニートをにらみつけける。

 強制転移陣は相当高度な技だ。

 それを一発で完璧に発動してみせる技術の高さはさすがという他ない。


「……どこに転移させるつもりだ」


 だんだんと輝きを増す足元の転移陣を見ながら、レオは尋ねた。

 身一つで砂漠や辺境地帯にでも追放するつもりだろうか。


「お前が我がマンチーニ家の恥晒しとなるようなら、砂漠にでも追放しようと思っていたのだがな。世界を滅ぼす吸血の勇者となれば話は別だ——ベニート」

「はい、父上」

「かわいい弟に行き先を教えてやると良い」

「わかりました」


 ベニートの冷えた視線がレオをとらえる。

 無表情のまま、淡々とした口調で告げた。


「転移先は、監獄迷宮だ」

「なっ……⁉︎」


 レオは開いた口がふさがらなかった。


 監獄迷宮。

 またの名を冒険者の墓場とも呼ばれる、最高難度の迷宮。


 半年前、最強の冒険者パーティである勇者パーティーが全滅して以来、かなり厳しい挑戦条件がつけられるようになった、正真正銘の地獄だ。


「さ、さすがに嘘だろ?」


「残念ながら本当なのだよ。マンチーニ家に一つだけ保管されていた強制転移陣の行き先は監獄迷宮だったのだ。さすがに使うことはないと思っていたが……世界を滅ぼす吸血の勇者を世に放つわけにはいかないからな。許せ、息子よ」


 ディエゴはよよと泣き真似をしていた。

 やがて我慢できないとてもいうように、そのでっぷりと突き出た腹を抱えて笑い出す。


「お、お待ちくださいディエゴ様!」


 フランチェスカが声を上げた。


「吸血の勇者が世界を滅ぼす存在であるという確証はないはずです! そもそも、ジョブが人格に影響を与えるという証拠もないのですから!」

「ふむ。だからどうした?」

「はっ?」

「証拠など関係ない。私が危険だと思うから追放する。それだけのことなのだからな! ガッハッハ!」


 ディエゴが大笑いする。

 レオの追放を取りやめさせる気がないのは明らかだった。


 なぜ、根も葉もない話を理由に追放されなければならないのか——。

 レオの中で怒りがふつふつとこみ上げた。


 それは風船のように際限なく膨張し続けた。

 なにも考えられなくなる。


「……殺してやろうか」


 半ば無意識にレオがそうつぶやいたとき、


「レオ様!」


 フランチェスカが駆けてきた。

 真っ直ぐにこちらに向かってくる侍女を見て、レオは正気を取り戻した。


「——来るな!」


 フランチェスカはびくりと動きを止めた。


「魔術の使えないフラが来ても、足手まといになるだけだ」

「っ……!」


 フランチェスカが唇を噛みしめた。

 本当に転移陣に飛び込んでくるつもりだったのだろう。

 無茶なやつだ。


「付き人を巻き添えにしないとは良い判断だ。お前は我がマンチーニ家の汚点だが、せいぜい最後まで戦って名誉の戦死を遂げたまえ。魔物にマンチーニ家は腰抜けだと馬鹿にされたくはないのでな。ガッハッハ!」


 ディエゴがここぞとばかりに挑発をしてくるが、レオは特に苛立ちもしなかった。

 人間が他者に怒りを覚えるのは、決まって相手になにかを期待しているときだけ。

 彼にはなんの期待もしていないため、なにをされても感情が動かないのだ。


 もちろん現在の理不尽な状況には怒りを覚えているが、ディエゴがなにを口にしたところで、それが膨張することも鎮まることもない。

 ただ、少しだけうるさかった。

 だから、レオは義父に向かって言った。


「黙れよ」

「っ——」


 ディエゴが息を呑んだ。

 レオが睨み続ければその額に脂汗が浮き、ついには目を逸らした。

 恐怖ゆえの逃避行動であるのは、震えた膝を見れば明らかだった。


 当然だ。

 レオはここ数年はずっと冒険者の最前線で戦っている。

 犯罪者を相手にすることもあるし、手にかけたこともある。


 領主の権限を濫用(らんよう)して毎日遊び呆けているだけの彼が、レオの本気の殺気に耐えられるはずもない。


「心配すんな、フラ」


 レオは己の唯一の侍女に笑いかけた。


「俺は必ず戻ってくっからさ」

「レオ様っ……!」


 フランチェスカの目に涙が浮かんだ。


 強制転移陣がよりいっそう強く輝き、レオの体はまばゆい光に包まれた。


「き、貴様は死に、私は領主であり続ける! どちらが勝者でどちらが負け犬かは明白だな! 貴様は所詮はその程度の存在だったのだよ! せいぜい私を恨んで死ぬといい!」


 転移直前、震えを帯びた声が聞こえた。




 軽いめまいを覚えた後、レオは薄暗い洞窟の中にいた。

 これまでにないほど空気中に(ただよ)っている、濃密な魔力。


 監獄迷宮を除く難度の高い迷宮に潜ってきたレオだからこそ、はっきりとわかった。

 現在、自分のいる場所が監獄迷宮であることを。


 知らずのうちに、レオは身震いしていた。

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