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吸血の勇者〜自分を疎んじていた家族により最凶最悪の迷宮に追放された少年魔術師は、唯一無二の職業と固有魔術の力で最強へと上り詰める〜  作者: シャイ
第一章

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第16話 マンチーニ家攻防戦⑦ —本当の奥の手—

0時にもう一話投稿します!

「サーナを離せ、父上!」


魔力弾(マジカル・バレット)】がディエゴを襲う。


「くっ……!」


 ディエゴが間一髪でかわす。

 サーナは地面に放り投げられた。

 床が迫ってくる。


 しかし、地面に激突はしなかった。

 受け身を取ろうとしたときには、ディエゴを襲った人物——ベニートに抱えられていた。


「ベニート⁉︎ あなたがなぜ——」

「良いからじっとしていろ」


 ベニートの手が拘束具の縄——【魔封縄(マジカル・シール)】に触れ、水色に淡く光った。

 体に力が湧いてくる。

 魔力封じの効力が失われたのだ。


 ベニートが縄を素早くほどき、サーナは自由の身になる。


「……どういうつもりっすか?」

「後で説明する。今は敵の制圧が先だ」


 ベニートの視線はまっすぐヴァレリオに向けられていた。


 疑問も疑念も残る。

 なにせ、ベニートはレオを監獄迷宮に送った張本人なのだ。

 裏があると警戒してしかるべきだろう。


「……了解っす」


 それでも、サーナは信じてみることにした。

 ヴァレリオを油断なく見つめるベニートの表情は、好感の持てる少年だったころの彼を思い出させるものだったから。


「ベニート様……どういうつもりですか?」


 ヴァレリオが眉をひそめた。

 理解に苦しむ、といった表情だ。


「どうもこうもない。俺は父上やお前と敵対した。それだけだ」


 簡潔に言い放ち、ベニートはAPD(エーピーディー)に触れた。




◇ ◇ ◇




「ぐわぁっ⁉︎」


 後頭部にサーナの【操縦弾(ドミネーション)】をくらい、第二分隊隊長のマッティーアが地面に倒れる。

 ピクリとも動かない。

 さすがに死んではいないだろうが、気絶しているのは明白だ。


「貴族のご令嬢のやることじゃないでしょう……!」


 ヴァレリオは焦っていた。

 サーナ、ロレンツォ、ビアンカだけでも手強かったのだ。

 ベニートまで加われば、苦戦は必至だった。


 彼自身の攻撃力は、サーナどころかロレンツォやビアンカにも及ばない。

 代わりに多種多様な小技を持っていた。

 足止めをしてきたり、ヴァレリオたちの攻撃を逸らしたりと、他の三人が戦いやすいように立ち回っている。


 まだ勝負が決していないのは実力が拮抗しているからではない。

 ロレンツォとビアンカがベニートを信頼していないからだ。

 相手の連携がうまく取れていなかったため、なんとか致命傷を避けられていたという状態だった。


 しかし、ここにきてついにマッティーアが脱落した。

 ヴァレリオもダニエーレもすでに満身創痍だ。

 このままでは全滅するのは時間の問題だろう。


 劣勢なのはヴァレリオたちだけではなかった。

 人質を失ったディエゴは、ソフィとエドアルド相手に逃げまわるので精一杯。

 他の騎士も次々とダウンしている。


 ここで負ければマンチーニ家は終わる。

 ヴァレリオは覚悟を決めた。


「——ディエゴ様!」


 ディエゴと目が合う。

 彼はうなずいた。


 ヴァレリオはAPDを操作し、二つの魔術にすべての魔力を注ぎ込んだ。

 一つは魔力を(よろい)のようにまとって攻撃を防ぐ最高強度の防御技【魔鎧(アーマー)】。

 そしてもう一つは——、


「できれば使いたくはありませんでしたが……仕方ありませんね」


 現在のような絶体絶命のピンチに陥ったときのための、本当の奥の手。


「さあ、出番ですよ。私のかわいいペット」




◇ ◇ ◇




 ヴァレリオから大量の魔力が漏れ出している。

 大技を使おうとしているのは明らかだった。


 サーナはロレンツォやビアンカとともにヴァレリオを集中砲火した。

 徐々にヒビが入り、【魔鎧】が破れる。


 追撃は行われなかった。

 なぜなら、


「なに、あれ……!」


 煙の中から、およそ五メートルはあろうかという影が出現していたからだ。

 突然現れたということは——、


「召喚魔術……!」


 召喚魔術は転移魔術と並ぶ高等技術だ。

 それだけでも驚愕(きょうがく)に値するものだったが、その場にいた者の関心はすぐに召喚されたものそれ自体に移った。


 奇妙な生態だった。

 クマのような毛に覆われたガッチリとした胴体に、竜のように長くて太い尻尾が生えている。


 なにより恐ろしいのは、枝分かれした首から二つの異なる頭が生えていることだった。

 一つはクマ、もう一つは竜のような見た目をしている。


 見たこともないはずのその異様な生き物に、サーナはどこか既視感を覚えた。


「これは、まさかっ……グリベアとサラゴンの……キメラ⁉︎」


 ソフィがうめき声をあげた。


「ご名答です」


 魔力を使い切ったのだろう。

 地面に座り込んだヴァレリオは、しかし、満足そうにうなずいた。


 そうか。

 既視感があると思ったら、二つの頭はそれぞれ魔物のものだったのだ。

 それも、危険度ランクでいえば上から二番目にあたるSランクの。


「魔物の中でも有数の強さを誇るグリベアとサラゴン。私たちはそれらの合成に成功したのです! どうですか⁉︎ これこそ最強の兵器といわずしてなんと言うのでしょう!」


 ヴァレリオが狂ったように笑った。


「くっ……!」


 見かけ倒しではなく合成に成功しているのだとしたら、強敵なんてレベルではない。


 サーナはベニートを見た。

 彼は目を見開いて固まっていた。


 どうやら、彼もキメラの存在は知らなかったようだ。


「さぁ、私のかわいいペットよ。ヤツらを殺してしまいなさい!」


 キメラはまるで、わかったとでもいうようにうなずいた。

 そして、ヴァレリオの一番近くにあった足を持ち上げ——、


 ヴァレリオを踏み潰した。


 ぐちゃり、という嫌な音。

 キメラの足元から、赤色が波紋のようにじわじわと広がっていく。


「っ……」


 サーナは思わず漏れ出そうになる悲鳴を必死にこらえた。


「ヴァレリオ様!」


 マンチーニ家騎士団から悲痛な叫び声が漏れる。


「まずいですね……あれは人間の制御下にない、ただの怪物です」


 ソフィが顔を引きつらせた。

 彼女の言葉通り、キメラはマンチーニ家、反乱軍関係なく攻撃を始めた。


「皆さん、まずはこのキメラを仕留めるのが先決です! マンチーニ家の人たちも手伝ってください!」

「ふざけるな!」


 ソフィの指示に一人の男が声を荒らげた。

 マンチーニ家の騎士だ。


「逆賊がなにを偉そうに! まずは貴様らを——」

「馬鹿か!」


 キメラを攻撃しつつ、エドアルドが一喝した。


「こいつを外に出したらタレス領は滅ぶぞ! 今だけは力を貸せ! 自分たちの領地を守るのが騎士としての最優先事項だろうが!」

「ぐっ……!」


 騎士が押し黙った。


「彼らの……言う通りです」


 その声は、部屋の入り口付近から聞こえた。

 サーナはチラリと視線を向け、ぎょっとした。


 男が地面にはいつくばっていた。

 服はところどころ破れ、赤く染まっている。

 その正体は——、


「フェ、フェデリコ様⁉︎」


 副団長の見るも無残な姿を見て、マンチーニ家の騎士たちが動揺の声を上げた。

 何人かは駆け寄ろうとする。


「フェデリコ様、ただいま治療を——」

「馬鹿者!」


 フェデリコが叫んだ。


「現状の最優先は、ここにいるすべての者で力合わせてキメラの討伐することでしょう……領民を守ること……それ以上に大切なことは何もないはずです!」


 息切れしつつも力強いフェデリコの言葉が決め手となった。


 マンチーニ家、タレス領の冒険者、そしてイヴレーア家。

 その場にいるすべての魔術師が、キメラへの攻撃を始めた。

 否、すべてではなかった。


 サーナは気づいた。

 現在の緊急事態を作り出したもう一人の当事者であるディエゴが、今にもこの場を逃げ出そうとしているのを。


「あいつ……!」


 サーナはその背に手のひらを向けた。


「やめろ」


 ベニートに手で制される。


「なんすか? やっぱり父をかばうんすか」

「そうじゃない。この距離なら父上の固有魔術があれば避けられる。あのキメラは強い。魔力を無駄にするな。それに——」


 彼は表情を歪ませた。


「——お前の知りたいことは、おそらく俺が全部知っている」


 サーナはベニートの目を見た。

 彼は逸らさなかった。


「……わかったっす」


 嘘を吐いているようには見えなかった。

 サーナはキメラに意識を戻した。




◇ ◇ ◇




 キメラはとてつもない攻撃力と防御力を持っていたが、幸いスピードはなかった。

 速さと数の利を活かしつつ、確実にダメージを与えていく。


 このまま倒せるかもしれない——。


 希望が芽生え始めたころ、キメラがなんの前触れもなく咆哮(ほうこう)した。


 これは——っ!

 ソフィの中で危険信号が灯った。


「皆さん、気をつけて! なにか仕掛けてきます!」

「おう!」


 油断の感じられない頼もしい声がいくつも返ってくる。

 それなのに、


「ぐわっ⁉︎」

「あがっ!」


 盾役の者たちが、キメラのしっぽによる攻撃で次々と弾き飛ばされた。


角状結界(シールド)】ごとやられている。

 めちゃくちゃな威力だ。


「今まで本気じゃなかったってのかっ、ふざけんなよ……!」


 エドアルドの悪態は、おそらく全員の気持ちを代弁していただろう。

 命の危険を感じて、初めてキメラは全力を解放したのだ。


 竜の大きな口がぽっかりと開けられる。


「まずいっ、ブレスが来ます! 全員【角状結界】を展開してください!」


 ソフィの言葉が終わらないうちに、炎が勢いよく吐き出される。

 いくつもの結界が破壊されて、(またた)く間に残りは数枚となった。


「このやろう!」

「怪物め!」


 結界を破られた者たちが、ならばとキメラを攻撃する。

 それでもブレスは止まらなかった。


 すべての結界にヒビが入り始める。


「この……!」


 ソフィはありったけの魔力を込めた。

 しかし、必死の抵抗をあざ笑うかのようにヒビはどんどん広がっていく。


「くっ……!」


 まずい。

 このままでは街に被害が出る。


 ソフィの脳内を、焼け野原となったタレス領の風景が駆けめぐった。

 まさか、こんなことになるとは——、


「——やれやれ。最近の若者は、ちと根性が足らんのぉ」

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