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6話 探偵助手

「笑わないんですか? 未来が見えるなんて……」


 すると彼女は湯気をなくしたコーヒーを啜りながら目を瞑る。


「そうだねー。君のような年頃の少年であればそのような空想的でファンタジー溢れる妄言を吐きかねないね」


「そうですよね……こんな話信じるわけないですよね」


 昔から誰に言っても信じてくれなかった。

 信じてもらおうと覗き込んだ未来を話しても無視されるか、この歳で気が振れて可哀想だと言う顔で見られてきた。


 そして僕は《《あの日》》、この不気味な権能を自分の心だけにしまうようになった。


「それで? 君はどんな未来を予見したのかな?」


「――え?」


「君は突然誘拐犯にお金を渡した。そのことの説明するのに君が見たであろう虚構の未来は重要な要素なんだろう?」


 呆然と彼女を見つめる。


「はい……」


「うん。では話してくれないかな? 大丈夫ゆっくりでいいよ」


「はい」


 僕は今日河川敷で見た未来の欠片について詳しく説明を始める。


 夕暮れの河川敷で泣きじゃくる男の子、母親に頬を平手打ちされるファインさんについて、そして誘拐犯を取り逃がした事全てを話した。


 何の証拠も存在しない話を彼女は優しく微笑しながら耳を傾けてくれた。


 しかし、僕が全て話し終えると彼女は吹き出すように笑い出した。


「あっはは!! これは凄いや! そこまで鮮明にファインの言動を言い当てられてしまっては信じるしかないよー」


 それは軽蔑や侮辱のいみを含んだものじゃなく、むしろ感心とも思える笑い声だった。


「そうか、デビスや憲兵警団が所定の場所で未遂犯を捕獲している事を知らない君だ。ファインが被害者の家族と話している場面を切り取って覗き込んでしまった為に未遂犯が犯行を犯す前に手を打った……これが私の大まかな推理だけど齟齬はないかなー?」


 得意げに自分の推論を話すフィリーさんはどこか嬉しそうにも見えた。


「はい。嘘を付いてしまいすみませんでした。そして犯人の確保にもご迷惑をおかけする事になってしまい……」


 その時、フィリーさんは人差し指を天井に向けて突き立てると、俯きながら落ち込んでいる僕にある提案をしてきた。



「ねぇ少年。臨時探偵になってみるつもりはないかい?」



 あまりにも唐突すぎる言葉に反応できなかった。


「今回、我々と君の間での大きな問題は『犯人を取り逃してしまった』この一点に全て集約出来ると思うんだ。犯人さえ捕まえる事が出来れば予定通り我々には報奨金が舞い込んでくるし、君も血反吐を吐いて働かなくても済む。どうだい? 妙案だと思うんだけどなー?」


「でも……僕探偵なんてやった事ないですよ? 推理なんて出来ないですし」


「探偵と言っても僕のような推理を専門とする『マキリシュ』以外にもファイン嬢やデビスのような諜報、追尾などを主に行う『レドヴァ』と呼ばれる人間もいる。まぁ仮入所の君には僕の助手でもしてもらおうか」


 助手……。

 しかも探偵の助手なんか僕に出来るのかな。


 でも迷っていられる立場でもないことは僕が一番理解していた。


「わ、分かりました……! 犯人逮捕までここで仮入所させてください!」


「うん。若々しい青葉のような良い返答だねー」



 この日から僕は未来への干渉で生じた借金を回避回避する為、『エクリア探偵事務所で』働く事になったのだった。



 眩しい朝日が僕の目を突き抜け、木枝の上で整列する鳥の合唱団は寒朝から元気に歌っている。

 買い替え時を3周は過ぎたボロボロのベッドから這い起きた僕は急いで初出勤の準備を進める。


 ――行ってきます。今日も遅くなるかもしれないので晩御飯は作っていただかなくて大丈夫ですーー


 叔母様の寝室のドア元に淡白な置き手紙を残し家を出た。


 叔母様の家から歩いて15分ほど歩くと昨日見た大きな看板と立派な建物が目に入る。


「Absjhdpwfjbefw」


 まずは大きな挨拶からだ。

 司書官様に言われた毒毒しい言葉を思い浮かべながら口のストレッチをする。


「――よし」


 ストレッチを終え、初出勤の扉を元気よく開ける。


「失礼します! ほ、本日から仮入所でお世話になります。ウェリア・アルバレスです! よ、よろしくお願いします!」


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