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5話 僕…未来が見えます

「うーん。そうだけどー?」


「被害者の安全を配慮しつつ、誘拐後油断したところをゴーン警部達に確実に確保していただく計画でした。しかし、この男が犯行に及ぶ直前に話かけたのです。そしてあろう事か金銭を渡すなど……」


キッと睨みつけてくるファインさんの鋭い視線に背筋が凍る。


「で、でも……事実を記録して報告するのみってあの時ファインさんが……」


「? アナタは何をおっしゃっているのですか? 私はアナタにそのような話はしておりませんが。」


思わず口を滑らせる。


でも未来の欠片では母親らしき人にああ言っていたのに……。


「すみませんでした……僕のせいで多大なご迷惑をおかけしてしまいました……この償いは必ずします」


「誤って済む問題だとお思いで? 貴方はこのまま憲兵警団に引き渡します」


「――! それだけは勘弁していただけないでしょうか……お金はなんとか用意いたします!」


憲兵警団にお世話になるのだけはダメだ!

なんとか頭を振り絞って考えていると低い声が飛んでくる。


「ボーイー? アナタなんでそんなにお金がないのにあの男にお金を渡したの〜? 正直アナタの言動から悪い子ではないと思うけどあの行動だけは理屈に合ってないのよね〜。ましてや相手は『ヴァクリシュ』ときてるのに」


「――! もしかして貴方はあの汚らわしい民の仲間ですか!? お姉様、フィリー様『ヴァクリシュ』の仲間を事務所に招いたなどと方々に触れ回られては厄介です。やはりここは憲兵警団に突き出しましょう」


ファインさんは勢いよくテーブルから立ち上がる。


しかし、大人二人は腕を組んだままじっと動かない。


「ファイン嬢の言いたいことも一理あるよー? でも私は平和主義者なのだよ。まずはこの子の言い分も聞こうじゃないか。それに今みたいな差別的発言はオーナーとしては頂けないなー」


「――申し訳ございません」


「ファイン落ち着きなさいよ。それに本当に疾しい事があればアナタが話しかけた時にとっくに逃げているはずよ〜?」


最初はふざけていると思っていた大人二人だったけど意外としっかりとした考えを持っていて少し安心した。


しかしファインさんは腹の虫がおさまらない様子でむすっとしたまま下を向いている。


「で? まずは君のお名前から聞いてもいいかな?」


深緑の瞳が真っ直ぐこちらを見ている。


その視線は何もかもを見通しそうなほど力強いものだった。


「ウェリア・アルバレス18歳です」


「うんうんウェリア君だね。すまない部下の暴言を許してくれないかい? ファイン嬢は曲がった事が嫌いなだけで悪い子では無いんだよ」


「大丈夫です。僕が紛らわしい行動を取ったのが原因ですから」


「君は今回の少女誘拐の件は知らなかったのかな?」


「いえ、新聞で見かけた事があります」


「それで話は戻るけど君はなんで容疑者にいきなり話しかけたんだい?」


「それは……お金に困ってそうだったので渡しました」


すると彼女はコーヒーを啜りながら眼鏡をクイっと上げる。


「はい。嘘」


「――え?」


「君さ嘘をつく時言葉の始まりの母音が少し上ずる癖があるんじゃないかい? 今の質問といいさっきの陶器が好きか? という問いにも今みたいな反応だった。デビスからの質問は……まぁ恐怖が先行しただろうしノーカウントにしておこうか」


メガネの奥の奥に光る瞳は変わらずこちらを凝視している。


「極め付けは人間の特性である嘘をつくときや空想を話すとき左脳側に無意識に目の玉を動かす仕草がそれにピッタリ当てはまるんだ」


このとき僕はもはや何も言えなかった。

ここまでバレていながら口を動かしても状況を悪くするだけだろう。


「ウェリア君、真実のみを語ってくれないかい? 私は先ほども述べた通り平和主義者だ。君が本当の悪党でもまずは文化的解決から望むよ」


「――真実を言えば……信じてくれますか……?」


もはやなりふり構ってはいられない。


このまま誤認逮捕でもされようものなら僕は一生路頭に迷い、そして最後には本当に悪の道に引き摺り込まれる。


「僕は……未来が見えるんです」


「――ほぉ……これまた僕の推測とはかけ離れた事を」


「貴方どこまで我々を馬鹿にすれb――」


デビスさんは激昂するファインさんの口をすぐさま塞ぐと


「は〜いお姉ちゃんとお買い物でも行こうかしらねぇ〜。鶏胸肉のストックがもう無いの思い出したの♡」


デビスさんはファインさんの小さな体をヒョイっと担ぎ上げるとそのまま外へと出ていった。


「あっははーごめんよー。元気なお嬢様も去った事だし話を再開してもらってもいいかな? ものすごく興味深い言葉が聞こえたのだけれども……!」


この時僕は嬉しかった。


幼い頃、自分だけが持つ特殊な権能について相談しても誰一人として信じてくれなかった……いや厳密には一人いるけどその程度だった。


しかし、目の前に座る女性は馬鹿にするどころか興味津々に目を輝かせてくれている。


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