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3話 白銀の美女

 金髪のモヒカン頭、不自然なまでに真っ白く塗りたくられた化粧、そして今にも胸筋ではち切れそうな赤い女性用ワンピースに身を包んだ男性が女の子の背後から現れたのだ。


 それも不恰好なオカマ口調で喋りながらでだ。


 僕なんかよりも遥かに怪しさ満点の変態はブロンドの髪の毛を乱暴にクシャクシャと撫でている。


「うん! この方には謝るからファインの事嫌いにならないで?」


 先程までのピリついた雰囲気を豪速球で投げ捨てた女の子は、あろう事か満面の笑顔で後ろに立つ怪物を見上げる。


「ええ。このボーイの事をもう疑わないってアタフィと約束できたら許してア・ゲ・ル……!」


「分かった! ファインもうこの人の事疑わない!」


「あら! イイ子ね〜。あとで鶏胸肉あげちゃうわね♡」


 怪物に懐く天使とでも表現しようかだろうか?

 もうわけが分からない。


 とりあえず僕はこの異様な場所から去りたい。それしか思わなかった。


「疑いが晴れたという事ですか? それでは僕は失礼します」


「あ〜ら〜つれないボーイねぇ〜。こんな可愛いボーイにイジワルされたらイジりたくなっちゃうじゃない。あそこを! ってアンタや〜だ〜何回言わせんのよ〜♡」


 筋肉隆々の化粧お化け男性は気味の悪い言葉を並び立てながら近づいてくる。


「勘違いしたらだめよ〜? カッとなりやすいこの子にはもう疑わせないけどアタフィはまだめちゃくちゃ疑ってるんだからね〜?」


 更に接近する筋肉の塊。


 そしてついに真顔の化け物は僕の鼻頭に当たるほどまで近づいた。


「公的な捕縛権は無いけど力ずくで逮捕しちゃってもいいのよ〜? それが嫌ならアタフィ達の事務所でティーでジョインしな〜い?」


「は、は、はい……。ご、ご一緒させて……いただきます……」


「あら♡  聞き分けがいいボーイはモテるわよ〜? じゃ早速いくわね〜!」


「うわ!!」


 真顔から一気にシワだらけの笑顔に変化したオカマは軽々と僕を担ぐとそのまま走り出した。


 あれ?

 これ僕が誘拐されてないか?



 化け物に担がれて10分程度が経った頃、ようやく地面に戻ってきた。


「と〜ちゃ〜く。ここがアタフィ達『エクリア』の本拠地よぉ!」


 大声で紹介された建物は古風な煉瓦造りの立派な家屋。


 一般的な家に比べても一回り大きいサイズの建物には『エクリア探偵事務所』と筆記体で書かれた大きな看板もあった。


「すごい立派な建物ですね……」


「でしょ〜? でもこれは貴族だったファインがお爺様の遺産相続で貰ってきただけなのよね〜」


「フン。本当ならば貴方のような素性の知れない者の出入りはお断りさせていただきたいのですが仕方ありませんわ」


 どうやらやっとファインさんとやらはツンケンモードに切り替わった様子だ。


 貴族様は何もしなくても財産の方から転がり込んでくるというのだから羨ましい限りだなぁ。

 僕なんか3枚のファンブル銅貨でも泣く泣く渡したというのに。


「それじゃいくわよ〜?」


 そしてモヒカン男性が扉を開けるとそこには何重にもモコモコの毛布を被り、立派な暖炉の前でガタガタと震える女性の姿があった。


 丸めた背中を撫でる白銀の長い髪の毛と横顔からでもハッキリと分かる精巧に創り上げられた顔立ちの女性はこちらを振り向く事なく暖炉を眺めている。


「ボーイはそこのテーブルに座ってて〜。アタフィはあそこのお姫様を引っ張り出してくるから」


 そう言われてテーブルに座り、内装を見回す。


 全体的にクラシックなイメージの内装。

 壁一面には整頓された本棚が埃ひとつ被る事なく並んでいる。

 使い古された中に気品を感じるコーヒーミル機やアンティーク調のソファーはやはり貴族の財力を感じずにはいられない。


「フィリーちーん? ただいま超絶美人姉妹と愉快なオトモダチが帰ったわよ〜?」


 しかし、それでも反応がない。


「あ〜も〜。ファイン! 悪いんだけどあれ作ってあげて〜」


 やれやれと言った表情でお願いする筋肉男。


「うん! 待っててね《《お姉ちゃん》》!」


 はい?

 聞き間違いだろうから一旦スルーしたけど……。

 この二人本当に姉妹なのか……?


「フィリーち〜ん? いつもの出来たからテーブル来て〜?」


「――やだ……寒い……ツラい……」


 細々と発せられた拒否反応。


「いいのぉ〜? 絶好の金鶴を連れてきたのになぁ〜」


 次の瞬間、大量の毛布に身を包んだ女性は大急ぎでテーブルに着席した。


 あまりの純朴な金銭欲に少し軽蔑しそうになるのをなんとか抑え込む。


「金!? 金鶴ってこの子!?」


 失礼すぎる暴言を吐き、眼前に飛び込んできた彼女は翡翠のように美しい瞳を爛々と輝かせていた。


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