21.リリィとの再会
何とかシャドーホース一行をやり過ごすと、小生はダバマックスに礼を言った。
「ありがとう。君が駆けつけてくれなければ……仔馬たちと小生は助からなかった」
「いいってことさ。ブラウンスポットも友達のサイレンスアローも、おいらから見れば大事な子供たちだからね」
そうは言われても、ありがとうだけでは小生の気はすまない。
何かお礼をするものがあるだろうかと考えたとき、スキル【ステークスワイド】の効果を思い出した。
「それでは小生の気が済まない。少ないが……これを受け入れてほしい」
そっとダバマックスの額に触ると、先ほどのレースで手に入れたスキルポイントが脳裏に浮かんだ。
1着のスキルポイントが280。2着は112。そして3着は70ポイントである。
獲得した70ポイントのうち、ウマの取り分にできるのは8割の56ポイントまでだ。上限いっぱいまでダバマックスに贈ると、彼は不思議そうに周囲を眺めていた。
「頭の中に不思議な文字が……それに意味までわかる!」
「それは恐らくだが、君の持っているスキルだ。試しにどんなものがあるのか教えてくれ」
「……よだれの増量」
は? と言いたくなった。まさかそんなスキルがあるのか?
「ほ、本当にそう書いてあるのか?」
「うん。ほかにもあって……おなら活性化」
お、おなら……確かに、ウマの病気には腸が関わるものもあると聞くが、腸そのものを丈夫にするようなスキルはないのだろうか?
「ほ、ほかには?」
「ノミ避け」
ノミは確かにうっとうしいが、人間と仲良くなればノミ退治くらいはしてくれそうに思える。
「ほかには?」
「最後は……」
「最後は……?」
「異性への泣き落とし!」
作戦としてはアリだが、それをダバマックス自身のプライドが許すかどうかという問題がある。それに、現場をブラウンスポットに見られたら、凄くかっこ悪いと思われるだろう。
「うーん……ここは泣き落としにしようかな?」
寄りにもよってそれにするのか!
ダバマックスの将来が心配になるのだが、まあ本人がそう思うのなら小生に止める権利はない。
恐らく、泣き落としレベルを3にしたであろうダバマックスは、さわやかに笑いながら言った。
「名騎手アルフレッド。今日は本当に気持ちよく走れた。また機会があれば一緒にやろう!」
「ああ、今度こそ君に1勝をプレゼントしたい。その日が来るまで小生は努力を続けていくつもりさ」
「幸運を!」
「ああ!」
ダバマックスはさっそうと走り去った。あとで彼が泣き落としを使うところを想像すると、なんだかなと思うが、幸運を祈ることにした。
小生もサイレンスアローたちと合流しようとしたとき、覚えのある気配を感じた。
「君は……」
「覚えていて下さったのですね。光栄です」
そう言いながら現れたのは、小生と入れ替わりでダンゲル隊に入った少女のリリィだった。
彼女は嬉しそうにこちらを眺めている。
「ここにいるということは、ダンゲル隊長とはソリがあわなかったのか……」
「あの身勝手な男とはすぐに縁を切りました。それより……」
彼女はゆっくり近づくと、上目遣いで小生を見てきた。
「先程のレースを見せて頂きましたが、貴方のビーストテイマーとしてのお力は、間違いなく王国で最も技術があります」
彼女は深々とお辞儀をした。
「どうか私を弟子にしてください!」
その言葉を聞いた小生は、内心ではとても困惑していた。彼女にそう言ってもらえるのは凄く嬉しいが、小生の指導が必要ないほどにリリィは優秀なビーストテイマーである。
「君は既にビーストテイマーとして抜きん出た力を持っている。小生の元などてはなく、もう一人前の冒険者として現場で働くべきだ」
そう答えると、リリィはとても奇妙な表情をしていた。
自分の力が尊敬する人物から認められた喜び。自分の想像していたのと違う答えが返ってきての困惑。尊敬する人物に拒絶されての落胆。尊敬する人物と一緒にいる者への羨望。欲しいものを自分のものにしたいという独占欲。
それらを混ぜ合わせると、恐らくだがこういう顔をするのだろうと直感した。
彼女は身を震わせながら叫んだ。
「私はまだまだ未熟なのです。自信をつけるために……お願いします! 弟子にして下さい!!」
その熱の籠もった言葉に小生は思わず身を引いた。このまま、少女を抱き寄せて自分のモノにしたいという感情が、理性を押し潰そうとしてくる。
しかし、そんなことではいけないという思いも小生の心には強くあった。自分の中の悪い心と正しい心がぶつかりあい、激しい答えが出てきた。
「自信は誰かから与えられるものではない! 自からの力で勝ち取って来い!!」
リリィは、まぶたを真っ赤に晴れ上がらせながら、アゴまで震わせて言葉を絞り出していた。
「わ、わかりました……では、私も……貴方に勝ち得るウマを連れて、再び……来ます!」
それでこそビーストテイマーだと思った。元々才能もあるのだから小生を師匠などとは思わずに、超えていく過程にいる障害程度に考えてほしい。
「よく覚えておく」
そして小生とリリィは、別の方向を目指して進んだ。




