2.ユニコーン娘の登場
ギルドを去ったものの何かツテがあるはずもなく、小生は冒険者街をさ迷っていた。
元々、人が好きなわけではないのだから、自然と身体は人のいない場所へと向かっていき、いつの間にか川原の前へといる。なんだか小生らしいと思える。
さて、これからどうしよう。そう思いながら川原を歩いていると、草むらから何かの気配を感じた。
苦しそうな息遣いをしているが、いったい何だろう。
ビーストテイマーの力で気配を探ってみると、草むらに隠れているのはウマだとわかった。
「大丈夫かい?」
なるべく優しく声をかけると、ウマは視線だけを向けてきた。
「近寄らないで……私はいま病に蝕まれています。貴方にも感染ってしまうかもしれませんよ」
そのはっきりとした返答に驚いた。
今まで様々な動物と関わってきたが、人語を操れる者は非常に稀だ。ユニコーンの類かもしれない。
こうなると、ビーストテイマーの本能が一気に働きだしてしまう。さっき追放されたなんてどうでもいい。
もっと、彼女のことを知りたい。
「まってくれ。小生はビーストテイマーなんだ。君の体の様子を診たい」
そういいながら、スキルのひとつ【同化】を用いた。これは、動物に警戒されることなく近づくスキルで、ビーストテイマーにとっては名詞のような特殊能力である。
藪を掻き分けると、栗色でたてがみと尻尾が白いユニコーンか横倒しになっていた。顔色がとても悪く、身体中から汗を流している。
「…………」
「…………」
手をかざして診てみると、やはり身体の内部に異常があるようだった。
馬医でもなければお手上げ……と、普通なら思うのだろう。しかし、小生には違う考えがあった。
「角に触ってもいいかい?」
「は、はい……」
動物と共に生きていくのなら、モノが足りなくなることは珍しくない。
治療に必要な道具がないのなら、その辺にある道具から代わりのモノを作り出して何とかする。それが師匠からの教えであり、受け継いできた技術のひとつである。
ここは彼女自身についているユニコーンホーンを利用すべきだろう。スキルのひとつ【オーラ分配】を行うことにした。
角は一瞬だけ強く光を放ち、彼女は驚いた様子でこちらを見た。
「今のは……なんですか? 痛みが和らぎました」
「やはりそうか。待っていてくれ……なるべく早く治療する」
思った通り、彼女は十分な治癒能力を備えているようだ。それでも、自分自身の病気を治せないのは、身体が弱っているからだと考えられる。
ただ、ユニコーンのオーラ総量。通称MPやAPと呼ばれる値は人間の数倍はある。この娘に限って言えば更に倍はあるだろう。つまりは10倍……
小生の少ない生命力で安全な値まで満たすのなら、最低でも【オーラ分配】のスキルを高めて、変換効率を大幅に向上させないといけない。
小生は生まれてはじめて、【最高レアリティのスキル】を使おうと思った。
固く目を瞑ると、ビーストテイマーとしてのスキルが次々と脳裏に浮かんでくる。
今までは、自分の力量というものがよくわからなかったが、こうして数字に現されるとよくわかる。スキルの熟練レベルは10まであり、数値が高いほど効果が大きいようだ。
そして、スキルの中には興味本位で覚えただけで、まったく使っていないようなモノもあった。そういうものから剥がしていく。
集まったポイントを【オーラ分配】へと加算すると、変換効率がとても良くなった。
「少しじっとしててくれ」
そう言いながら、小生のMPを分け与えると、何と彼女の生命力は一気に全回復した!
「す、すごい!!」
ユニコーンは、たいそう驚いた様子で小生を見た。
「我々ユニコーンは人間の軽く数倍のオーラを持っているのですよ。それをこんなに簡単に回復させてしまうなんて……貴方は天才です!」
「いや、これはだね……」
そう言って目を逸したが、ユニコーンは角を光らせると銀髪の美女へと姿を変えた。変身能力まで持っているということは、かなり高貴な生まれだろう。
「私の名はメイプルセイバーと申します。貴方さまのお名前を教えてください!」
「小生はアルフレッドという」
「アルフレッド様。貴方ほどのビーストテイマーとは、一生に一度、お会いできるかどうかだと思います」
彼女は、まっすぐに小生を見据えた。
「どうか、私を家来にしてください! いえ……嫌だと仰られても勝手についていきます!!」
なんだか妙なことになってしまったが、こうなるともはや断れない。小生は戸惑いながらも同行を認めることにした。
それにしても、どうして急にメイプルセイバーのMPが全回復したのだろう。いや、それだけでなく、疲れや病気まであっという間に治っているように感じる。
後で、小生がどんなスキルを持っているのか、調べた方が良さそうだ。