11.メイプルの弟たち
アムアス大森林の前には、今年こそ成り上がろうとする乗り手たちが集まっていた。
その数は12名。40代中頃という様子のベテランから、10代と思われる新人まで様々な年層の人たちがいる。
そして、彼らのお眼鏡に適おうと、30以上のユニコーンやウマが集まっていた。
こちらも、7歳馬……人間で言えば30歳を超えた牡から、まだ2歳……人間で言えば13.4歳の牝まで、様々なウマたちがいる。
小生も人間化したメイプルと共に、乗り手のフリをして人間側からウマたちの品定めをした。
【マッスルビースト ユニコーン牡7歳 レア度SR− 総合霊力70 飛行✕ 変身✕ 治療○ 調薬△ 除霊△】
【グラスキュート ユニコーン牝4歳 レア度R+ 総合霊力50 飛行✕ 変身✕ 治療△ 調薬✕ 除霊◯】
【コーナーインパクト ユニコーン牡2歳 レア度R 総合霊力40 飛行○ 変身✕ 治療✕ 調薬✕ 除霊✕】
レア以上はこの3頭だけだった。
ウマスキルの【相馬眼】がなければ、無数の馬の中からこの3頭を選び出すのは至難の業だろう。
ここに集まった野心あふれる男たちなら、誰しもが心得ている……かと思いきや、総合霊力25で特殊能力なしのユニコーンモドキの周りに人垣を作っていた。
「メイプル」
「何でしょう?」
「相馬眼って……どれくらい珍しいスキルなんだ?」
そう質問すると、メイプルは表情を変えて小生を見つめてきた。
「も、もしや……相馬眼までお持ちなのですか?」
黙って頷くと、彼女は髪の毛を逆立てるほど驚いていた。
「相馬眼さえあれば、それだけで一生食べていけると言われているほどのスキルです」
どうやら、この能力を開花させるためだけに厳しい修行をしたり、文字通り命をかけてウマに乗り続ける者もいるという。
「ちなみに、私も持っていませんが……どういうふうに見えるのでしょう?」
「メイプルセイバー ユニコーン牝2歳 レア度LR 総合霊力120 飛行○ 変身○ 治療○ 調薬○ 除霊○ 特殊能力:ジニアス」
そう読み上げた後、小生の勘が鋭く気配を感知した。異様に強い気がふたつ、森の中から姿を現す。
【サイレンスアロー ユニコーン牡1歳 レア度SR+ 総合霊力100 飛行△ 変身✕ 治療○ 調薬◎ 除霊○ 特殊能力:ペネトレーション】
【ブラウンスポット ユニコーン牡1歳 レア度LR− 総合霊力128 飛行✕ 変身✕ 治療✕ 調薬△ 除霊◎ 特殊能力:フォーティテュード】
メイプルセイバーの弟なのは、身体の小さなサイレンスアローの方だ。スキル【相馬眼】には、ウマやユニコーンの血統を見抜く力もあるので、すぐにわかった。
「…………」
そして、隣にいるブラウンスポットという牡ユニコーンは、更に気になる存在である。
何と彼の両親はただのウマだ。名馬というものは、父や母が名馬であることが非常に多いため、彼の存在はあまりに異端だと【相馬眼】が赤文字で記していた。
現れた2頭の未来の名馬を見ても、集まっていた乗り手のたちは横目でちらりと見るだけで、総合霊力35でデメリット能力付きの牝馬を取り合っていた。
才能あふれるウマがいても、それを見抜くことのできる乗り手はやはり少ないようだ。
「姉さん!」
サイレンスアローが話しかけてくると、メイプルは嬉しそうに答えた。
「久しぶりですね。森の皆は元気ですか?」
「うん。ついさっき、キノコは危ないから食べるなと、お父さんたちから怒鳴られていたよ」
その言葉を聞いたメイプルは、険しい表情でサイレンスアローを叱りつけた。
「当たり前でしょう! どうして貴方が注意してあげないのですか!!」
「音を立てずに、矢文で密告るからこその……サイレンスアロー!」
「ふざけるのもいい加減にしなさい」
この様子だと、弟君の方が一枚上手かもしれない。




