7 ハイキング
私が二人の記憶に残りそうな事を考えていると…。
「じゃあみんなでチューだね。」
と恵奈がファインプレーを見せた。
(恵奈ナイス!それよ!キスとか絶対に記憶に残りそう。)
「良いよ!そうしよう!さあさあ!」
二人はキョトンと私を見ている。
(ちょっと勢いつけ過ぎたかな?でもそのままいっちゃう!)
私は二人の口にキスをした。
(ついでに舌もいれちゃえ!)
子供の二人には刺激が強かったようだ。なんだか二人ともボーっとしている。
「大人のチューよ。今度から三人でしようね。」
「けーちゃんおとな…。」
「すごかった…。」
(インプリンティングって奴よ。定期的に続ければ二人とも絶対忘れないでしょ。)
「みーたーぞー??」
(もしかして全部見られた!?)
「三人でチューしてたな?」
樹母が特に怒っている様子はない。舌まで入れた事には気付いてなかったのだろう。
「樹のママもチューして良い?」
「それはダメ。」
「え?なんで?」
以外な事を言われたと思ってる顔だ。
「樹君のお母さんは恋人じゃないし。」
「さっき三人でチューしてたのは良いの?」
「三人で恋人だから良いの。」
「それは変じゃない?」
変とは失礼な。将来三人で付き合ってた私達に謝って欲しい。
「大丈夫。」
「恋人って普通男の子と女の子だよ?」
「樹君がどっちも恋人にするから問題ないよ。」
「あれ?それなら…良いのかも?」
樹母は納得してくれそうだ。
「んー?でも良く考えたら二股っていうのになっちゃうよ?良くない事なんだよ?」
(ちっ、気付いたみたいね。)
「何で良くないの?」
「え?それは……あっ、そうそう。取り合いになっちゃうでしょ?」
「恵奈も慧も樹君も皆で好きだから大丈夫だよ?」
「ん?んん?やっぱり変よ。三人で恋人って言わないよ?」
「それじゃあ恵奈と慧、どっちかは樹君を諦めて泣かなきゃいけないって事?」
「えっと…それは…そのー……。」
もう一押し。
「樹君は一人しかいないけど、恵奈と慧は二人いるんだから三人で恋人になるしかないよ?」
「う゛…うーん……。」
樹母は頭を抱えて考え込んでしまった。
「なんかむずかしいおはなし?」
「樹君のお母さんに三人で恋人って教えてたの。」
「そうなんだ。」
「親に挨拶しておかないとダメだからね。先にしておいたの。」
「へえー。」
私達のやり取りを見ていた樹母は、うちの息子随分モテるな…本当にうちの子か?と呟いている。
その日は三人で仲良くオママゴトをして遊んだ。
それ以後…私は二人に会う度キスし、二人にとってもそれが習慣のようになっていた。
(あとは私が忘れなければ良いんだけど…いったい何があったのか……)
今日は山でハイキング。メンバーは樹君、恵奈、私、加えてその母ズ。
三人で手をつなぎながら山を登っていく。恵奈ははしゃいで何度か転び、擦り傷が出来ていた。
そうして山頂に到着。
「お弁当にしましょうか。」
「はーい!」
「うん!」
「わかった。」
休憩所があり、そこでお弁当を食べた。母ズは御歓談中。そして食べ終えた私たちは鬼ごっこ。
樹君は恵奈を追いかけ人気のない方へ走っていく。
(流石に止めなきゃ。)
「待って!」
二人は走るのに夢中で気付いていない。
(早く行かなきゃ!)
私は急いで追いかける。しかし、自身も四歳児なのだ。なかなか二人に追いつけない。
ようやく二人に追いつく頃には、私まで帰り道を見失っていた。
(どうしよう…。でも、きっと大丈夫だよね?)
私達三人は2022年まで生きていた。この山で遭難して息絶えるなんて事にはならないはずだ。
(こんな出来事があったのに、全く覚えていない私って何なの?)
「ここどこ?」
「わかんない…。」
二人は不安になってしまっているようだ。
「大丈夫。そのうちお母さん達が迎えに来てくれるよ。」
私がそう言ったのを聞いて二人は安心した表情に戻る。
「よかった。」
「今度は何して遊ぶ?」
今は遭難中なのであまり動かない方が良いだろう。
「疲れたからちょっと休憩。」
二人を座らせ、自身もその場に座り込む。
「ねえ、あのひとなにしてるの?」
恵奈が指さす方向を見ると、魔法少女の恰好をした女の子が丸太を振り回し、生き物を吹っ飛ばして戦っているように見える。
(あれって…時計をくれた魔法少女?)
普通の人間ではないと思っていた。それでもあんな光景を見せられるまでは、日々の忙しさにかまけて深く考える事をしていなかった。
戦いの決着がついたようで、魔法少女は丸太をポイっと放り捨てると、こちらへ向かって尋常ではない速度で走ってきた。
突然の行動にこちらが動けないでいると…。
「ねえ…見ちゃったの?」
既に私達の元へと辿り着き、笑顔で質問してくる彼女が……