執事がお嬢様の私にイヌのエサを出してくる
「おはようございます〜!!!朝ごはんですよ〜!!!」
朝の優しい陽射しで目覚めた私の目の前に出されたのは、トースト・ベーコンエッグ・サラダ・ホットミルクという金持ちの一人娘に相応しい優雅な朝食
ではなく、イヌのエサ(ビ◯ワン)だった。
「オイ、クソ執事。テメェ、ちょっと来い」
私は執事を大声で呼び寄せた。
「コレはなぁに?」
慌てて飛んで来た執事に私は努めてにこやかに聞いた。
「朝ごはんですよ〜!!!」
執事はニコニコ顔で言った。
「こんなモン食えるか!!!クソ執事!!!」
私は怒鳴ってビタ◯ンの入った皿を蹴飛ばした。
執事はそれを見て困った顔をした。
「やれやれ困ったお嬢様ですねぇ…どうしたものか。あっ!そうだ!」
執事はガサガサと棚を漁ってから小さなお菓子を取り出した。
「はい、好物のクッキーですよ〜!!!これと一緒にご飯も食べましょうね〜!!!」
確かに私はクッキーが好きだ。
しかし、今はクッキーなんて食べたくない。
私は顔を背けた。
「食べてくれないと私が叱られてしまいます。機嫌を直してください」
執事はそう言って私を背後からそっと抱きしめた。
昔は私が拗ねると執事はよくこうやってあやした。
幼い私はこれですぐに機嫌が直ったらしく、父からはよくこの事を揶揄われた。
さすがに今の年でこれをされるのは羞恥心の方が勝る。
慌てて私は執事の腕から飛び出した。
「やぁ、おはよう」
父がリビングにやって来た。
かつては大企業の社長らしく丸々と太っていた父も今はすっかり痩せている。
「旦那様、おはようございます!!!」
「…おはよう…ございます…」
父は執事と私を見て小さくため息をついた。
「やはりなかなか食べないのか」
「はい。ショックが大きかったのでしょう。
旦那様もあまり眠れておられないように見えます。もう一度、寝られては?」
「いや、大丈夫だ。ここは私に任せてくれ」
「ちゃんとご飯は食べないとダメだよ『マロン』」
父はそう言って私の頭を撫でた。
「やはりマロンもお嬢様が亡くなって寂しいのでしょうか…」
「そうだろうな。あれだけ『美月』に懐いていたのだから、目の前で死ぬのを見てしまったマロンが1番辛いのやもしれんな」
執事はそれを聞いて慌てて手の甲で目元を拭った。
私はこの2人がなぜこんなに悲しい顔をしているのか分からなかった。
美月ならここにいるというのに。
「お前は今やたった1人の家族だ。どうか私を困らせないでおくれ。
そんなところまで娘に似ないでおくれ。お前は美月の分まで長生きしておくれ」
父の手は昔と同じように暖かった。