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9話 魔神美味しくする作戦


 苔むした洞窟の岩に座り込むのは、長い黒髪を垂らした妙齢の女神ポーラと、金の髪を肩まで伸ばしたうら若き聖女。

 二人とも白い衣を身に纏い、薄暗い洞窟に似合わぬ神聖な雰囲気を漂わせている。


「ポーラ様……全太様はどうすれば振り向いてくれるのでしょう?」


「多分、あと2年くらいしたら全太も変わって来ると思います」


「何故2年なのですか?」


「いわゆる思春期です。多分全太は今10歳くらいですので、二年ほど時が経てば全太の女性に対する意識も変わって来る事でしょう」


「わかりました! その時までに、沢山肉を食べて全太様に好かれるような美しい肉を身に付けなくては!」


「……当たり前ですが、はしたない事をしてはいけませんよ」


「はしたない事なんか考えていません! 全ての肉ははしたなくないのです! ……ああ全太様……成長した全太様の肉を見たい」


「どうやら一刻も早く全太に服を着させる必要があるようですね。それにあの件もどうにかしないと」


 ポーラは思わず顔を落とし、大きく息を吐いた。


「どうなさったのですかポーラ様?」


「実は……私は全太に魔神ガオラスを倒して貰う為に嘘をついてしまったのです。『魔神ガオラスの肉は途方もなく美味しい』と。誰もガオラスの肉など食べた事がある筈もないので実際のところは分かりませんが、多分そんなに美味しくないと思います」


「それは困りましたね」


「もし全太がガオラスの肉がそれ程美味しくない事に気付いてしまったら……腹いせに世界を破壊してしまうかも知れないのです」


「全太様をたばかるのは気が引けますが……世界の平和の為に何か策を考えておかなければなりませんね」


「そうなのです。肉の聖女として何かいい案はありませんか?」


 アリエルは少し考え込むと、神妙に眉根を寄せ口を開いた。


「……肉は、自身が摂取した食材によってその形質を大きく変化させます。つまり、ガオラスに全太様の好物を食べさせれば、ガオラスの肉を全太様好みの味に変化させる事も可能な筈です!」


「素晴らしい作戦ですアリエル! 早速全太の好物を……ヒイイイイイイイイイイイ!」


 ポーラが見たのは、夥しい数のハチを纏った人型の何かだった。

 その人型の何かが球状の物体を抱えて洞窟の中へと入り込んでくる。


「これうめえぞおおおおおお! すげえ甘いいいいいいいいい!」


 全太の声だった。全太はハチに刺されるのも構わず、ハチの巣を貪っているようだ。


「止めなさい全太! ハチに刺されますよ!」


「俺の体は頑丈だから痛くもなんともないぜ! それよりこのドロドロした奴うめえんだよおおおお! 今まで食べた中で一番うめええぜえええええええええ!」


「一番美味いですって!?」


「ああ! 文句なしに一番美味いぜ!」


 ポーラはアリエルと顔を見合わせた。


「ポーラ様! 何とかなりそうですね!」


「ええ! すぐに信徒達に神託を授けましょう!」


 ◇ ◇ ◆ ◇ ◇


 無間奈落の奥底へと、炎を纏いながら転移して来たのは、魔神軍を取り仕切る参謀の竜人ゼルバだった。


「ガオラスさんおはようございまーす」


「……おはよう」


 軍資金を補填する為の徹夜の鉱石回収作業による疲労で、魔神ガオラスの顔はげっそりとやせ細り、威厳を取り繕う余裕すらなくなっていた。


「今日はガオラスさんにいいニュースと悪いニュースがあります。どっちから聞きたいですか?」


「うむ……悪いニュースからで頼む」


「例のまずい粉を使った魔物メシマズ化作戦ですが……」


「上手く行ったか?」


「最初はいい感じに全太のやる気を削ぐ事が出来ていたんですが、肉の聖女とかいうのが出てきて魔物の肉を美味しく料理してしまってダメでした。南の森に続いてウガル荒野もキリ山脈も……魔神軍は壊滅状態です」


「おのれ肉の聖女め! 我が直々に討ち滅ぼしてくれよう!」


「止めた方がいいですよ。肉の聖女は全太と結構いい勝負してたらしいです。多分あいつ、ガオラスさんより一億倍以上は強いです」


「ぐぬううううううう!」


「そんなに落ち込まないでくださいよ。いいニュースもあるんです」


「何だ……いいニュースとは」


「何か水の神殿の辺りから、ハチミツが大量に転移魔法で送られてきました」


「ハチミツだと!?」


「何かの罠かも知れませんけど」


「構わん……我はハチミツが好物だしな……」


「ハチミツが好きとか可愛いですね」


「可愛いとか言うな! 我は魔神だぞ!」


「まあ毒は入ってないみたいですが一応気を付けてくださいね。じゃあ定時なんでそろそろ上がらせてもらいまーす」


「あ、ハチミツちょっとなら持って帰っていいよ」


「ありがとうございます。じゃあおつかれでーす」


「おつかれ」


 やがて、ゼルバの配下の竜人達がやってきて大量のハチミツ壺をガオラスの傍の岩場へと積み上げて行った。

 その光景にガオラスは思わず胸を躍らせるのだった。


「ガハハハハハ! 水の信徒共め! 我に恐れをなして貢物を持ってきおったか! 中々良い心掛けではないか!」


 早速ガオラスはハチミツ壺を大きな口へと傾けてみた。


「あまいいいいいいいいい! ガハハハハハ!」


 奈落の底に、魔神の悍ましい笑い声がこだましていた。


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