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終焉の幼女エルルと死なずのライザ  作者: 囲味屋かこみ
第一話 産まれたその時から生は。
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1-2 「世界最後、ロリコンの魔法使い」

——————




 男性は、お酒が飲めないとの事で、わたしと同じコーヒーを注文されました。


 どうやら相当の甘党のようで、手元に届いた漆黒の海に、さながら山のように角砂糖を入れ、一口。眉一つ動かさず、糖分の塊であるそれを摂取するその様子は、羨ましくもあり、とても真似出来ないと思いました。


 男性が人心地つくのを待って、わたしは言葉を繰り出します。


「重ね重ね、助けていただいてありがとうございます。あ、わたし、エルトゥールル・ハウルと申します」


 初対面の人に対する自己紹介のタイミングって、微妙に難しくありません? なのでわたしは、初っ端に無理矢理ぶち込みました。


「ライザ・テオドールだ」


 男性は、抑揚のない声で名乗ります。


「え、と……ライザさん。改めて、よろしくお願いします」


「ライザでいい」


「では、わたしのことは、エルルと呼んでいただければ。皆、そう呼びます」


「……分かった」


 少しだけ、間がありました。


 初対面の方を相手に、愛称で呼んでくれとは、やはり変なお願いだったのでしょうか……。


 うぅ、正解が欲しい……。


 初めての人と気さくにトークが出来るハウツー本が欲しい……。


 それに先程から、わたしは、苦手ながらもなんとか相手の目を見てお話ししようとするのですが、何度も視線を逸らされていました。


 まるで、幼き日に学舎にて経験した、男子との関わりを思い出します。


 あまり、好意は持たれていない様で……。


 既に心が折れかけているわたしです。


「えっと……ライザさ……ライザ。さっきのあれ、『魔法』、ですよね」


 ですので、強硬手段に出ました。会話の流れを全て無視して、前振りも無しに本題に入る荒技です。


 ライザは、少しだけびっくりしたように言います。


「そうだ。その歳で、よく知っているな?」


 その歳で。


 彼が言うその言葉の意味を、わたしはよく知っていました。


 13年前の事です。


 『魔法』が、この世界から失われたのは。


 より正確には、魔法を行使する——『魔法使い』と称される人々が、大規模な弾圧によって次々と処刑されたのです。


 『魔女の黄昏』と呼ばれたその出来事をきっかけに、人類は一気に機械文明への道を猛進する事になりました。


 今の子どもは、おそらく知らない歴史。


 それら一連の事件は、人道的にもタブーとされ、教科書にも載っていません。


 ライザが驚くのも無理はないでしょう。


 わたしが、見た目通りの年齢に思われている証拠でした。


 当たり前なんですけど。いまだに、ちょっぴり落ち込みます。


「ええ、わたしの『育ての親』が魔法使いだったもので。その……失礼ですが、もう残っていないものだと思っていました、魔法を使える方は」


 魔女の黄昏は、全ての魔法使いを対象に行われました。


 その様子は、理不尽そのもの。まさしく根絶といった具合に、魔法が使える者は、例え小さな子どもだろうが捕らえられ、火あぶりにされました。


 わたしの、育ての親もその一人でした。


 あの日——仲間を見捨てられないと言い遺し、まだ幼かったわたしの前から去って行った彼女。


 二度と、戻ってはきませんでした。


「そうだな……もう、残ってはいないだろう。俺が、最後の一人——さしずめ『世界最後の魔法使い』といったところか」


 最後の魔法使い。


 その言葉に、ずきりと胸が痛みます。


 もしかしたらの可能性。


 わたしは、実際に彼女が死んだところを見たわけではありません。ただ、伝聞によってのみその最後を知っただけです。


 実は、どこかで生きているかもしれない。そんな刹那の望みにすがっているのです。


 わたしが、ライザに聞きたかったのも彼女の事でした。


 同じ魔法使いであれば、何かを知っているかもしれないと、そう思ったのです。


「あの……『ナツメ』という人物に聞き覚えはありませんか? あなたと同じ、魔法使いなのですが」


「……いや、聞いたことがないな」


「そうですか……」


 わたしは、落胆をなるべく表に出さないように努めました。


 相手は、こちらの事情を知らないのです。


 あからさまに落ち込めば、気を悪くしてしまうでしょう。


 はたして、その試みは成功したのかどうか。


「その、ナツメとかいうやつを探す為に、旅をしているのか?」


 相も変わらず、目線を合わせる事なく、ライザが尋ねてきました。

 

「そうですね……それも、あるかもしれません。ただ、それだけでは——」


 わたしは、事情を説明しました。


 わたしが、元はグラマラスな大人の女性だったこと(ここ重要)。体を幼女化させた遺物を探していることを、伝えます。

 

「驚いたな。まさか、そんな遺物ものがあるとは」


 ライザは、荒唐無稽なわたしの身の上を、さして茶化した様子もなく、無表情ながらも真面目に聞いて下さいました。


 悪い人、ではないのかも。


 わたしの中で彼に対する印象が好転します。


「ライザは、どうして旅をしているのですか?」


 少しだけ肩の荷が降りたわたしは、調子に乗って聞いてしまいます。


 人には、それぞれの事情があるもの。


 本来なら、気軽に踏み込むべきではないのです。初対面なら、殊更ことさら


 ライザは、虚空を顔色一つ変えずに見つめ、答えませんでした。


「えっと……すいませんでした」


 秒で心が折れました。


 間に耐えられないわたしです。


 人との触れ合いが不得手な方は、この気持ちが分かるのではないでしょうか。


「——を、探しているんだ」


「え?」


 意識が他所を向いていて、よく聞き取れませんでした。


「だから、嫁を——結婚相手を探しているんだ」


「まあ」


 素敵な目的だと思いました。


 まだ見ぬ想い人を求めて、旅をする。


 とても前向きで、素晴らしいじゃないですか。


 乙女心にきゅんきゅん響きますよ。


「そうか。そう言って貰えると、こちらも助かる」


 ……うん?


 なんだろう、会話が微妙に繋がっていないような……?


 助かる? 何が?


「とある奴との約束でな。結婚それは、絶対に果たさなければならない。ただし、一つ問題があって——」


 僅かな間。そして彼は言うのでした。


「俺は、ロリコンなんだ」


「は?」


 衝撃のカミングアウト! 突然に性癖を暴露され、わたしはすっとんきょうに目を丸くします。


「さて——俺は先程、お前の事を助けたわけだが」


 既成事実を盾に、脅され、すかされ、あんなことやこんなことをさせられる……⁉︎


 わたしが美少女なばかりに!(錯乱中)


「だから——」


「はえ?」


 いきなり、手を、握られやがりましたですよ⁉︎


「あ、あの、ちょっ……!」


 ライザの、真剣で、真っ直ぐな眼差し。


 初めて、視線が合います。


 まるで青空のように綺麗な、碧色の瞳。


 端正な顔立ち。


 間近で注がれる、男性の熱意に満ちる視線に、少しだけどきりとしてしまいました。


 そして、彼の薄い唇が、開かれるのです。


 

「一目惚れだ。俺と、結婚してくれ」



 生まれて初めてのプロポーズは、変態さんにされましたとさ。


 もうわけが分からんですよ。

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