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「ひゃぁっ!?」
驚き、身をすくめるミナ。
「はぁ~い!」
けたたましい音とともに入って来たのは、
「マレーヤ、アスタリ!」
ふたりの少女。
そのいで立ちは、黒のワンピースに白のピナフォア。ようはモノトーンのエプロンドレスで、まさしくメイド、ウェイトレスのそれ。
頭にはやはり白のヘッドドレスまで。
「おまえら、急になんだ。呼んでないぞ」
「なぁーに言ってんの! コーヒー、持って来てやったんだぞお!」
と、胸を張るほうが腰まで届く長い髪のマレーヤ。トレーにコーヒーカップを乗せている。
「こ、こんにちは……」
やはりトレーに、コーヒーポットを乗せて持ってきたのは、もうひとりの控えめなほうの少女で、肩にかからない程度に切りそろえた髪の、こっちがアスタリらしい。メガネを掛けている。
そして違うといえば、ヘッドドレスよりも高く、頭の上、ピョコンと突き出した獣耳。マレーヤは鋭く高く、アスタリはちょっと丸みを帯びて小さい。
「ど、どうぞ」
しかしアスタリがテーブルの上に置いたコーヒーカップはふたつ。
ひとつはミナ。もうひとつは、
「……」
無言でコーヒーを見つめるキアム。
「なんでふたり分なんだ。オレがこの店の店主なんだが」
あきらかに不満そうな源大朗を横目に、
「……んっ」
コーヒーカップを取り、口を付けるキアム。
「飲むのかよ!」
「まぁまぁ、おっさんは、お金だけ払ってくれればいいからさあ!」
「いいから、って、そこがおかしいだろ! 自分が飲んでもいないコーヒーだぞ」
「す、すいませんぅ」
恐縮するのはアスタリ。
「あはは、いいじゃんいいじゃん! かわいい女子高生のウェイトレスがふたりも顔を出してやってんだから。それだけでほら、この辛気臭い店がパーッ、と明るくなったみたい! でしょ?」
「どこが辛気臭い店だよ。たいがいにしろよ」
「あはは! 怒ってる? 超ウケるんだけど!」
「すいません、すいませんぅ」
口に手も当てず笑うマレーヤ。ずっと謝ってばかりのアスタリ。ふたりともに、超ミニのワンピースの裾が揺れる。
髪の長いのがマレーヤ、ショートボブがアスタリ。
ほかにも表情やメガネの違いはあるが、その顔はそっくり。ふたごなのだ。
じつはふたり、夷やの向かいの喫茶店のアルバイト。
こんなふうに注文を受けると、通りを渡ってコーヒーを届けに来る。
「ふふっ、そのくらいにしてくださいね。ぁ、コーヒー、召し上がってください。お茶、醒めちゃいましたから」
どうやら頼んだのはラウネアらしい。
「……」
キアムの分は、
「源大朗のおごりにしておいたから!」
「誰が源大朗だ」
「あはっ! おっさん、じゃイヤだと思ってさー」
「す、すいません」
「むっ」
口を「へ」の字につぐむ源大朗を置いて、マレーヤ、
「こんち~! ごめんねえ。騒がしくて! コーヒー、飲んで飲んで! おいしいよお!」
ミナに笑顔を向ける。
「ぁ、はい」
「おいおい、お客さんにからむなよ。用が済んだらさっさと帰れって」
「えー、なによお。いいじゃん、ちょっとくらい。ねえ? あ、あれでしょ、彼女も異世界から来たんでしょお。うんうん、当ててあげる! ええっと……」
じっとミナを見つめて、
「あ、あの」
「わかった! 彼女……あれでしょ、サキュバス!」
「ち、違います!」
「そう? じゃあ~、コカトリス! そのサングラスは、目線で相手を石にしないための配慮! よね」
「い、いえ」
「また違うの。うーん……」
「やめろやめろ! 思いつきで言ってるだけだろ。この人はなぁ……」
「透明、人です。あの」
とうとう、自分からミナが告げる。マレーヤ、みるみる目が大きく見開いて、
「ぇぇえええ! すっごぉおおおおい!」
「うぁ、うるさい!」
「ねえねえ! ほんとに透明なの? 透明になってみて! え、もう透明になってる? じゃ、年中透明なの!? すごいすごいすごぉい!」
「あ、あ、あの」
「こらぁああ! いい加減にしろ!!」
とうとう源大朗が一喝して、事務所の中はいっしゅん無音に。
「……こくっ」
キアムの、コーヒーを飲む音だけが妙に大きく響く。
「ま、まあ、マレーヤたちもさ、スピンクスだし」
「スピンクス……?」
尋ねるミナに、気を取り直してマレーヤ。
「そうそう! マレーヤたち、スピンクスのふたごの姉妹なんだあ! もちろん異世界から来た、ね!」
そう言ってピナフォアのスカートの裾をわずかに持ち上げて見せる。パニエに隠れていた長いシッポがシュルン、と現れた。
マレーヤほどではないが、アスタリも短めのシッポが揺れている。
髪の獣耳しかり、スピンクスはライオンの身体と人の顔を持っている、と言われるゆえんである。
ここでアスタリが、
「……朝に四本足、昼に二本で、夜に三本足、な、なんですか」
「え、クイズ?」
「とうぜん! スピンクスって言ったらなぞなぞ、クイズっしょ?」
見た目はふつうの人間の少女、ちょうど女子高生、といったところのマレーヤとアスタリ。
クイズ好きなのは、スピンクスの特性なのだ。
「まぁーたクイズか。迷惑だから止めとけっての」
あきれたように源大朗。しかしミナ、
「あ、それ……人間、です、よね」
答える。
言うまでもなく、旅人を通せんぼしたスフィンクスが出すクイズとしては有名なものだ。とすればミナの答えで合っている。
人の一生を一日とすれば、朝、つまり生まれたばかりの人間は手足全部で這い、成長して二本の脚で歩き、老人になると杖を着くから三本、という。
が、
「ぶーーーー!」
「えーっ」
「答えはあ、夕方ねん挫した猿でしたー!」
「はあ?」
虚を突かれるミナに、マレーヤ、得意げに語る。
「朝は寝ぼけてるから手足を使って歩くでしょ。昼間は木の上で二本脚。手だけ使って移動もできるし、でもねん挫しちゃったから夜にはまた片手をついて、で三本足! へっへーん! ぁ、熊とかでもいいよ!」
胸を張る、スピンクス。
「アホ! 答えがいくつもあって、どうにでもなるクイズなんてあるか。そんなことより……」
源大朗が席を立つ。手を伸ばすとそこへ、待っていたようにラウネアがコピーの束を渡した。
一瞥して源大朗。
「よし、行くぞ」
「えっ、行くってどこへ?」
「物件を実見しに、に決まってるだろう。てかおまえらいつまでいるんだ。もう帰った帰った! さ、ミナさん、行くよ」
「あ! は、はい!」
あわててカバンを手に、立ち上がるミナ。
夷やは不動産屋である。
申し込み者とともに賃貸物件を実際に見に行くのは当然、ではあるのだが。
「しかたないなぁ……またね、キアムくん、がんばってねー! ミナさんも、バイバーイ!」
「お、おじゃま、しました」
マレーヤとアスタリが言う中、事務所を出ていくのは源大朗たちのほうだ。キアムはあいかわらず無言。
そうして全員が出払ってしまったあと……。
「……お茶でも淹れましょうか。いただいたマドレーヌがあるんですよ」
とラウネア。にっこりと笑う。
「わぁーい、そうこなくっちゃ!」
「は、はい」
次回は21日に更新予定です(^-^)