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TOKYO異世界不動産  作者: すずきあきら
第四章 マーメイドの部屋探し
23/31

4

今回は亜人の女のコたち4人のお風呂シーン! あー、イラストが欲しいw


「あはっ(はーと) ほんとに人魚だぁ! すっごーい! 人魚のシッポだよぉ! ねえねえ、アスタリ!」


 マレーヤの声が高い天井に反響する。

 あたたかい湯気にかすむ浴場。その湯舟にいま、


「なんでお風呂……」


「わたしも思いましたけど、でもあたたかくていいですね」


 キアとレイチェル、そしてもちろん、


「気持ちいい~! やっぱりお風呂だよぉ、人間はぁ! って、あたしも人間じゃないけど、あはは!」


「マレーヤ、声、大きい。恥ずかしいから」


 マレーヤとアスタリだ。

 もちろん、風呂に入るのだから全員が裸。水着なども着ていない。

 さきほどの閉店した江古田湯、ではなく、夷や地元の富士見湯。マレーヤたちの行きつけの銭湯である。最近はキアも。


「えー、ねー、レイチェルって言うんだー」


「はい」


「ふぅーん。ぁ、レイチェル、スタイルいい~! マレーヤより胸あるよぉ! ほらぁ!」


「ぁ、ぁの、きゃぁっ!」


 マレーヤが背後からレイチェルに抱きつき、その手がバストをつかんでいた。思わず悲鳴を上げるレイチェル。


「そういうの、ダメ! マレーヤ、手を離して!」


「えー、いいじゃーん! すごーい、やわらかーい!」


「あぁあー!」


 あわてて止めるアスタリと、顔を赤くして固まるキア。大量に湯も撥ねる。

 しかしなぜレイチェルもいっしょなのか。なぜ入浴なのか、というと、


『はぁーい! おっさん元気ぃ!? 辛気臭いお店にまたまた美少女JKがふたりも来てあげたよぉ! やっほー!』


 いったん夷やに戻った源大朗とキアにレイチェル。

 そこへ例によって夷やにコーヒーを持ってきたマレーヤたち。

 さっそくレイチェルを見つけたマレーヤ、さんざん絡んだあげく、物件の風呂屋繋がりからここ富士見湯へ。なかば強引に連れ出した、というところ。

 かぽーん。

 まだ四人以外に客のいない女湯。貸し切りのような状態の中、男湯からの桶の音が妙に遠くから響いてくるようでもある。


「ぁー、でもいいなー、やっぱりお風呂! はぁ~」


 もう何度目か、マレーヤがつぶやく。湯舟に肩まで浸かり、目を閉じ、息つく。


「いいですよねぇ、お風呂」


 と、こっちはレイチェル。ようやく落ち着き、マレーヤと同じ表情になっている。


「……」


「ふぅ~」


 キアとアスタリも、おおむね同じ。

 時間もとろけるようにゆっくりになっていく。そんな気分に浸りながら、


「ねぇ、やっぱりお風呂屋さんの部屋、いいんじゃない? ほら、そんなふうに、脚……じゃない、尾? も伸ばせるし」


 マレーヤが言う。その言葉のとおり、湯の中にはゆらゆらと、レイチェルの長い人魚の尾がゆらめいて、その尾びれが、パシャ! 湯面から顔を出しては、お湯の飛沫を小さく立てる。


「いいんですけど。よかったんですけど……」


「家賃が。ふたりでシェアしても高いし、四人はちょっと無理そうだし」


「そっかー。いろいろあるねー。うーん、おっさんちゃんと仕事しろよなー! ったく!」


 バシャッ! 大きく湯が飛び散った。マレーヤが拳を突き出すように、両手を急に湯から出したからだ。


「ふぁっくしょ!」


 なぜかタイミングよく男湯側から、くしゃみの声が届く。


「ん? ……でも、そっかぁ。惜しいなぁ。家賃ねえ……四人なら、四人……ぅーん、四人!? あっ!」


 ザバッ! こんどは大きな飛沫と大波。湯舟の中、マレーヤがとつぜん立ち上がったのだ。


「きゃぁ!」


「なに?」


 レイチェルとキアが声を上げる中、


「いるじゃない四人!」


「え」


「いるよ! ここに! あたしとアスタリと、キアとレイチェル! 四人だよ! この四人でそのお風呂屋さんに住めばいいじゃない!」


 興奮して叫ぶマレーヤ。


「ぁ……」


「わたし、たち、みんなで」


「四人」


 まるで虚を突かれたようだった。四人全員が、言葉を失う。


「ぶっ!!」


 またも、噴き出す声が男湯から。

 しかしそんな声もいまは気にならず、


「そうだよ、四人いたの! すごいすごい! あたしってすごい! 天才かも! ね、ねっ!」


「あ、ぁの」


「だっていま、あたしとアスタリはコーヒー屋さんの上の一部屋にいっしょだし、キアはあの夷やの二階に間借りしてるんでしょ?」


「そう、だけど」


「いまのままでいれば、家賃なんてタダみたいなもんだけど、狭いし不自由だし、女のコがいつまでもいるって感じのところじゃないし、お金ならお給料あるし! ね! みんなで住めるよぉ!」


 圧倒的。圧倒的盛り上がり。マレーヤの言葉に、誰もが心を奪われる。


「みんなで」


「住める」


「あの、物件に」


 顔がみるみる紅潮してくるのは、お湯の温かさだけではないはずだ。

 そのとき、全員の脳裏に、四人での銭湯共同生活のイメージが浮かんでいたのは間違いない。


「ぁ、でも」


「けど」


 レイチェルとキアが気づく。

 いまの盛り上がりに水を差すのに抵抗があるのか、すぐに切り出せずにいると、


「なぁに? マレーヤとじゃイヤなの? たしかにマレーヤ、ちょっと寝言は多いって言われてるけど、でも部屋は別なんじゃん? だったらよくない? アスタリは、寝つきが悪いし、でも寝たら歯ぎしりが……」


「ちょ、っと! マレーヤ! やだ」


「あはは、ごめん! でもそういうの、先に言っておいたほうがいいかなー、って。ほら、あとから、そうは思ってなかったー、ってのより、さ!」


「違う。そうじゃなくて」


「四人で割れば、六万円ちょっとなんでしょ? お風呂入り放題だしさ! だったら」


「いえ、お金はいいんですけれど……」


 ここでやっと、風呂物件の現状をキアとレイチェルが説明し、


「ええっ? ボイラーが壊れてるの? お風呂が沸かせないってこと?」


 うん、うん、とうなずくふたり。


「お風呂屋さんに住むのに、お風呂はじゃあ、入れないんですか」


「そう、なる。水は張れるけど」


「えええええー! なんでなんでなんで!? お風呂屋さんなのにお風呂沸かせなくて入れなくて、じゃあ、お風呂屋さんに住んでるのにお風呂屋さんにお風呂入りに行かないといけないのぉ!?」


 風呂屋風呂屋と連呼するマレーヤ。

 しかし気持ちはわかる三人。

 ひとしきりマレーヤが吐き出し、その間も全員必死に考えたが、


「……ダメかな」


「ダメ、です」


「みたい」


 と萎む空気。


「ああーーーー!! もぉ! もぉお! おっさんのバカ! 源大朗、いい加減に、しろーーーー!!」


 バッシャァアア! 高々と上がる水柱。マレーヤが思い切り湯を蹴ったのだ。もはやマレーヤのとつぜん、には慣れていたはずが、


「きゃぁっ!」


「うぉぅ!」


 お湯を浴びた三人も、軽々と仕切り板を超えていったお湯が落ちた先の男湯からも、声が上がる。

 だけでなく、カラッ! 浴場のガラス扉が開くと、


「おまえたち、騒ぎすぎだよ! ほかのお客さんが入れないじゃないか!」


 そこに仁王立ちの老婆婦人。


「お時さん」


「あー、やっちゃった」


「だから騒いじゃダメだって……」


 ふだんは静かに番台に座っている時だが、こういうときは容赦ない。毅然、断固たる態度には、


「ごめん、なさい……」


 四人、もちろんレイチェルも、裸であやまるしかなかった。


明日も更新します!

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