目覚め
少し不適切な表現があるかもしれないことを最初にお伝えしておきます。
俺が目をさますと、自分がどこにいるのかはすぐに分かった。見慣れた景色なのは当然である。今いる場所は俺の部屋だからだ。どう見ても異世界でないことは明らかだ。俺はそこで二つの可能性を考えた。
一つ目は、さっきの神は異世界転生などと期待させておきながら、現実を見せて俺をあざ笑うためのいたずらの可能性。もしそうだったら、いつかまたあの神に会うことができたら、問答無用でボコろう。
もう一つの可能性としては、さっきの(自称)神との会話や出会いはただの夢か幻想。おそらく俺は自殺に失敗して運悪く生き残ってしまったのだろう。どちらかというとこちらの可能性が高い。
もし俺の仮説が正しいとすれば事故から数週間たっていて、すでに5月の下旬のはずだ。俺は日にちを確かめようと机の上にあるスマホの電源を入れる。目覚めたばかりの目をこすりながら、スクリーンへと視線を向ける。
今日の日付は2018年5月14日月曜日
日付を見て俺は大いに混乱した。この日は忘れもしない、俺が車に轢かれた日だ。
いったい、何が起こったんだ!
俺は、空っぽの脳みそをフルに稼働させて考え始める。
・・・・、分からない。考え始めてから数分が経った頃、下から声がした。
「航、早く起きなさい。学校遅れるわよー」
声の正体は俺の母親だ。俺はいったん考えるのをやめて、朝食をとることにする。
「起きてるってば!今、行く」
俺は寝間着のまま階段をかけおりて、俺の指定の席へと座る。座ってすぐに母親が皿を置いてくれる。
「さっさと食べて、学校行きなさい。ちなみにお父さんはもう出たわよ」
「分かった」
今日の朝ごはんは、フレンチトーストのようだ。俺は置かれているフォークとナイフで小さく一口サイズに切り食べ始める。俺はもう一度確認のために母親に聞く。
「母さん、今日って何日?」
母さんは自分の朝食を作る手を止めて、俺にあきれた様子で答えてくれた。
「14日の月曜日だけど、昨日日曜だから遊びに出かけてたんじゃないの?」
俺は記憶をさかのぼる。
その日、航は朝からやることがなく暇だった。今日は久しぶりにラノベの新刊でも買ってこようかなと考えていると、自分の携帯が鳴った。
俺はロックを解除して最近若者で流行りのSNSアプリ「BOND」を開く。通知が来てるので確認すると、クラスの不良を束ねているリーダーの石田からだった。
「いまからツラ貸せや」
俺は正直迷った。
返信して今日潔く行くか、それとも、既読スルーして明日学校で朝一番に誤りに行くか。
どちらの選択をしても殴られるなり、荷物を持たされるなり碌なことがありやしない。
それ以外の選択肢はないかって?絶対にない。
「じゃあ、いまからカツラ郵送するね!」とか「いま、忙しいからまた誘って」などと冗談でも返信してみろ
間違いなく俺は家に帰ってこれない。たぶん家族が心配して連絡してくるころには既にミンチにされていることだろう。
「善は急げ悪は延べよ」ということわざがあるが、どちらを選んでも運命が変わらないときはどうすればいいのだろうか。
俺は悩んだ末に今日行くことにした。すぐに返信をして、母親に出かけることを言って家を出た。
指定された場所へ俺が着くと4人の不良はすでに来ていた。俺はとりあえず走ってきたふりをして、愛想笑いをしながら言った。
「遅くなってごめん」
「遅せーんだよ!」
金髪に染め、耳に大量のピアスをあけた下っ端の一人が俺の後ろにまわりこみ、飛び蹴りを入れる。
何も準備をしていなかった俺は受け身も取れないまま、前につんのめる。顔面強打。しかもアスファルト。
痛ってー。俺は血が出ている鼻をおさえながら立とうとする。しかし、俺が立ち上がる前にそこへ二人の不良も加わる。俺はまるでサッカーボールかのように蹴りの応酬をくらう。
あまりにも多く蹴られたり、殴られたりして痛覚がだんだん感じられなくなってきた頃、俺は考えていた。さすがにどんなMである人も、ここまでやられたら喜んでられないだろうな。
俺は、近くの人を通る人にも期待していない。彼らは目の前で目撃したものに衝撃を受けて一度こちらに視線を向ける。しかしそれも束の間、次に彼らはそれを見なかったように振る舞い、先ほどと同様に歩き出す。
下っ端三人が蹴るのに疲れて手数が減ってきたところで、赤髪の長身男性が俺のところに来た。俺を呼び出した石田だ。彼は俺の近くまで来てヤンキー座りをして、ゴミのように俺を見つめながら言った。
「休日中に悪いね。俺ら金が無くて困ってんだよ。だから金貸してくれねーか。もちろん、お前に拒否権なんてねーけど」
俺はしょうがなく財布を出しだす。これでようやく帰してもらえる。あとは彼らがどこかに立ち去るのを待つだけ。
しかし、その考えは甘かった。
「おい、お前もついてこい。荷物持ちが必要だろ」
俺は下っ端に引きずり上げられ無理に立たせられる。それから、4,5時間ほど重い荷物を持たされながら街中を歩き、ようやく解放されたのだった。
どうやら、母親は俺が遊んできたと勘違いしているようだ。
たしかあの日、俺が血だらけになって帰ってきたのを見て、母親は心配して俺に事情を聴いてきたんだ。
それに対して俺は無理があると思いながらも、ありもしない話を即席で話した。近くの公園を散歩していたら、きれいな風景がいくつもあったのでスマホのカメラで撮影していたら土手から落ちてけがをしたと説明した気がする。
「あー、そうだった。」
俺は適当にお茶をにごした感じで返事をして、それからは黙々と朝食を食べた。俺は食べ終わった皿を流しへ持ってった後、着替えや学校の用意などを急いで済ませた。
「行ってくる」
俺は学校の指定靴を履いて、玄関の扉を開ける。
とりあえず、学校までのあいだに何が起こってるか分かればいいやと考えながら玄関のドアを開ける。そして、俺が目にしたのは48階建てのビル。最上階にはアパレル大手M&Hの大型看板。そして、よく年末のテレビでよく見るニューヨークのカウントダウンが行われている一画がそのまんま家の前に存在しているのだ。
またしてや分からない状況に直面。とっさに俺は考える。俺の学校はどっちだ?というかここはそもそも日本ではないのか。
どうしよう
とりあえず下手に動くのは賢明ではないと思った。何も知らないまま町に出たら、いずれ迷子になる。けど、母親には行ってくると言ってしまった。俺が途方に暮れていると声がした。
「来たよー、航」
俺は晴香かと思い、そっちを向くと可愛らしい金髪の美少女が立っていた。
次話、色々なことが明らかになっていきます。今回の話を読んで、少し最後のところの展開が理解できなかったという方も次話を読んでもらえればわかっていただけると思います。