8-5 サキュバスと冒険者 もっと楽しくなりそうね
本日二つ目です。
「ところでセイジュ、ゴードンはやり過ぎていなかったかしら?」
戻ってきた侍女が注いだお茶を楽しんでいたルナージュの質問に、セイジュは肩を竦めてみせた。
「やり過ぎて、ハルキ君にキツい一撃をもらっていました」
「まぁっ! あの子ったら、一体何をしたの?」
ルナージュは一為政者として、人を見る目には自信がある。彼女から見て、晴樹はとても温厚で、悪く言えば世間知らずだが、お人好しで好感が持てる少年だった。
一方のゴードンも、無愛想だが、貴族や騎士の地位だからと必要以上にえばらず、領民や国のために働く真面目な青年である。
突然現れた勇者の実力を測ろうとすることは予想していたが、どんな事をして晴樹の怒りを買ったのだろうか。
「さんざん邪険に扱って挑発しても反応がなかったからでしょうが、彼を軟派者呼ばわりしていました」
とても下らない理由だったが、何が相手の怒りの琴線に触れるかはわからない。周囲には女性ばかりだから、晴樹にも思うところがあったのだろうと、ルナージュは推測した。
「そう。それで、あの子はその後どうだったの?」
「彼を認めたようです。ラベルを出る前に、私をくれぐれも頼むと、彼にしつこいくらいに念押ししていましたが」
「ふふっ、素直じゃないわね」
ゴードンは、どうでもいいと思う相手に大事な存在を任せたりはしない。口でどう言おうと任せると言うことは、彼が信頼を寄せたという証明だった。ただ、自分より年下の少年に任されたのが悔しかったのだろう、ちょっとだけ意地悪な言い方になっているところが、まだまだ子どもなのだと、ルナージュは個人として微笑ましく思った。
ともあれ、将来有望な二人の若者が、少なからず仲間として意識を持っていることと、娘と彼らが世界のために行動してくれることが、彼女にとって大きな喜びだった。
なるほど。
一人で納得している間にも、エルナはゴードンへ詰問し続けていた。
「ハルキを試して、どうでしたか?」
「……凄まじいものだった」
口を開いたゴードンは苦笑いで答えて、部屋を出る。その際、振り返らずに、独り言をしゃべるように、
「セイジュさんたちの邪魔を元よりするつもりはないが、もしアナタたちの出立を誰かから止めさせろと言われても、私では到底、無理だろうな」
そう言って、ドアを閉めた。
エルナはドアをしばらく見ていたけれど、やがてため息をついて、ソファにもたれかかった。
「お疲れ様」
「……ゴードンさんが敵でなくてよかったわ」
「あら、もし国王側だったとして、わざわざ敵の伝言を届けに来るかしら?」
「それはそうだけれど……あれ?」
エルナは上半身を起こすと、半眼になって見つめてきた。
「ねぇ、ゴードンさんが敵じゃないって、最初からわかってたの?」
「どうしてそう思うの?」
「貴女ほどの力なら、人の心を読むことなんて朝飯前じゃない?」
「アンタは人を何だと思ってるのよ?」
「サキュバス。それも常識外れの力を持ってる」
「あら、ありがとう」
「褒めてないからね?」
そんなに睨んでも、可愛いだけよエルナ。
「人がどう言おうと、自分で確認した方が安心でしょ?」
「もぅ……」
私が余裕の態度で笑っていると、諦めたらしく、天上を仰いだ。
「……そう言えば、最初は誰にも自分たちの力や、勇者であることは明かさないって言っていたのに、色々な人に知られちゃったけれど、よかったの?」
「えぇ。進んでひけらかすつもりはないけれど、別に知られてもその時はその時ってことで」
「十二分にひけらかしていると思うわよ……?」
「何の事かしらねー?」
確かに、当初の予定と違って、色々な人に私たちの力を見せてしまっている。けれど、ちゃんと相手は選んでいるし、それ相応の対策はしてある。
それにね、エルナ。
力を見せることで得られるメリットは大きいの。
「エルナ、貴女はどこから情報が国王に入ったかわかるかしら?」
私の質問に、エルナは少し考える素振りを見せた後に頷いた。
「……多分、大食いと二度目に戦った時に、セイジュさんの監視者たちに見られたんだと思う」
「なるほどねぇ」
まぁ、城壁にいた兵士からも私の魔法と大食いが見えたくらいだし。何の隠蔽もせずにあれだけド派手に巨人とドンパチしてたら、そりゃ見つかるわよね。
「うーん、女王とゴードンは私たちの味方だし、頼もしい仲間が増えたと考えれば、まぁこれはこれでいいかしらねぇ」
「あっ、心じゃなくて、遠視してたのね!」
「そこは気にしちゃだめよエルナ。それよりも、国王の勧誘をどうにかしないと」
どうにかすると言っても、無理やりにでも突破するだけだけれど、ね。
エルナも私と同じ考えに至ったみたいで、額を抑えて呻き声を漏らしている。
「邪神や大食いと戦う前に、お城の人たちと戦うことになりそうだわ……」
「その時はスリープで眠らせればいいわよ」
「それもそうね……」
「そうそう」
エルナとセイジュは国家反逆罪とかになりそうだけれど、その辺りは女王様が何とかしてくれるでしょう。多分、きっと。
その辺り、何とかしてもらえるかしらね、晴樹の女神さま? っと、遠視の魔法が、閉まろうとしているラベルの門に、スライディングで文字通り滑り込む晴樹の姿を捉えた。
「あら、晴樹が戻ってきたみたいよ?」
「どうやって王都からここまでそんな短時間で戻って来られるのよ……?」
取り乱すことも、慌てることもなく、エルナは苦笑いを浮かべた。
ねぇ、エルナ。
私たちの力を見て、貴女は少し変わったわよ。多分、いい方向にね。
「フフフ……もしかしたら近いうちに体験できるかもしれないわね」
「できれば、そうならないことを祈るわ」
ふふっ、この先、アンタたちとの旅はもっと楽しくなりそうね。




