7-2 サキュバス幼女一行とクッコロさん ノーカラテ・ノーウィザード
本日二つ目の投稿です。
ソーシャさんの呼び出しから十数分後。
貸しきり状態の訓練場のど真ん中で、俺は仰向けに倒れていた。
「よっとっ!」
ヘッドスプリングの要領で飛び起きると、数歩離れた場所にエルナが立っていた。
「後ろに飛んだ?」
「あぁ」
頷いて、籠手に覆われた拳を構える。
エルナ自身の体を隠すように前へ押し出すように構えられた盾のおかげで、木剣が見えない。
剣を避けた後、嫌な予感がして咄嗟に後ろに下がるのと同時に盾で殴りつけられ、背中から倒れてしまったが、これが実戦だったら剣を突き立てられて終わりだったな。
「骨は折れていない?」
「問題ない」
異世界へ飛ばされた翌日からずっとメイプル式トレーニング序章とやらをし続けているおかげか、身体強化を使わなくても肉体の強度があがっているようで、強烈なシールド・バッシュを受けても内出血すらしていない。ちょっと痛いと思う程度で済んでいる。
防御力だけではなく、他の能力も向上しているのだが、それは同じトレーニングを積まされたエルナにも言えることで、
「それじゃ、次」
「っ?!!」
一瞬で目の前に現れたエルナが殴りかかってきた。盾で。
それを避けながら、エルナの左側……盾を構えている方面へ体を滑り込ませるが、次の瞬間、脇腹に鋭くも重たい痛みと衝撃を覚えた。
エルナとの距離がものすごい勢いで離れていく。浮遊感を覚えるが、すぐに背中が地面にぶつかって、視界に朝焼けの空が入ってきた。
脇腹が少し痛むが動けない程ではなく、さっさと起き上がり、迎撃した場所から動かずに盾を構えているエルナへ目がけ、突撃する。
後、半歩ほどで激突する、というところでエルナの姿が消えた。
「移動の際に重心がブレてないのはいいけれど、視線で狙おうとしているところがわかるよ」
「ですよねー!」
斜め下から腹部にかけて衝撃を覚え、俺は朝焼けの空へ舞い上がった。
この世界へ最初に来た時、エルナは俺やメイプルを鍛えてくれると約束してくれていた。
しかし、毎日のドタバタでそれどころではなく、俺はすっかりそのことを忘れていたが、エルナ自身は律儀にも覚えていて、約束を果たすと言ったのだ。本当に律儀な奴だ。頭が上がらん。
それで、改めて俺の戦い方を見たい、という事で、身体強化を含めて魔法は使わないという取り決めの元、試合をしていたのだが……さっきからフルボッコにされている。ソーシャさんに呼び出される前にもやっていたから、実は今朝からずっとだ。
ノーカラテ・ノーウィザード。
近接戦闘ができない、魔法に頼っている魔法使いは、魔力が切れたらただの人。
転生無敵超幼女のサキュバス、メイプルの言葉であり、この世界の戦闘職全員の共通認識だ。古文書にもそう書いてあるとかないとか。本当に古文書にそんなどこぞのニンジャ世界みたいな事が書いてあるのかどうか。多分メイプルのネタだと思うが。
まぁそれはどうでもいいとして。
基礎ができていないという大食いの指摘通りだ。能力や魔法、咄嗟の判断だけで戦っていたため、対人経験もあるというエルナには通じず、ずっとぶっ飛ばされ続けていることが証拠だ。
そして、本日何度目になるかわからない衝撃と痛みの後で、俺は倒れることなく耐えきったが、追撃のミドルキックをドテッ腹に食らい、メイプルが張っていたバリアにゴールインした。
「はいそこまでー」
メイプルがぽんっと手を打って終了の合図を出した。
それと同時にバリアが消え、俺はそのまま地面へと落下するが、前受け身を取って難を逃れる。
立ち上がってエルナと挨拶を交わし、見守ってくれていたメイプルとセイジュさんの下へ。
「お疲れ様、二人とも」
「メイプルも、魔法障壁を張っておいてくれてありがとう」
「えっへん。それじゃあ、先に行って待ってるわ!」
そう言うと、メイプルはセイジュさんと一緒に踵を返した。
その際、セイジュさんは俺を一瞥して、何やら言いたそうだったが、結局何も言うことなく行ってしまった。後で聞けるのかな。
俺とエルナはギルドの入浴施設で汗を流し、食堂へ向かいながら訓練について話し合った。
「動き自体はあんまり問題ないかもしれないけれど、駆け引きや、立ちまわり方がまだまだって感じがするかな」
「そうなのか」
「ええ」
言われて、うーん、と目を瞑る。
その瞬間、セルフスリープを行い、夢の世界で先ほどの試合でのエルナの動きを再現し、それに対応できるように動きを調整していく。その最中にまた何度もかっ飛ばされたが、その回数も次第に減っていき、最終的には今回の試合に限って言えば全て回避できるようになった。
後は、現実世界でまた訓練してもらった時に反撃の練習もしてみよう。
セルフ反省会&訓練終了。
夢の世界から現実へ帰還し、何事もなかったように目を開いた。
エルナからは、俺が瞬きをしたようにしか見えないであろう、刹那の出来事だった。
「まぁ、慣れていくしかないか」
「ハルキならすぐに対応できるようになるかもね」
たった今対応できるようになりました。言わないけど。
「次はクォータースタッフを装備してもらおうかな」
「そうだな。折角買ったのに、数えるほどしか使ってないし」
「その使い方も特殊だったけれどね」
こういう風に会話をしていると、高校生だった頃、同好会関係で知り合った同級生のことを思い出した。
アイツ、元気にしているかな……就職先でしっかりやっているだろうか。やっているだろうな。しっかりしてたし。
先輩やアイツらも元気かな……元気だろうな。特に先輩たちは。
今は俺自身の心配をしよう。帰って写真を見せて、驚いて喜んでもらうためにも。
気を取り直し、今後の予定を少し話したところで飲食スペースに着き、先に座って待っていたメイプルたちと合流した。
開業前のギルドは、当たり前だがとても静かで、受付の方で寝落ちしたお姉さんの静かな寝息さえ聞こえてきそうだ。その対面に座る、以前に見た女性剣士の冒険者さんが俺とエルナに手を挙げてくるが、仕事中ということか、話しかけてくるようなことはない。
昨日のオムライス騒ぎが嘘のような静けさに、不思議な感覚を覚える。
その騒ぎの元凶たるオムライスの残りを収納魔法からこっそりと取りだして、朝食を取ることになった。剣士のお姉さんにもおすそ分けした。受付嬢さんは……匂いを嗅いで飛び起きたので、渡しておいた。それでいいのか、夜勤担当。
食べ始めてすぐに、セイジュさんが声を潜めて話しかけてきた。
「ハルキ君、先ほどの試合を見ていて思ったのだが……」
あ、さっき言おうとしていた事か。何かアドバイスかダメだしでも聞けるのかな。
「君はどこかで、何かしらの戦闘経験を積んだことがあるのか?」
「いえ、この世界に来て初めてですよ」
「そうか……」
なにやら釈然としない様子だったが、セイジュさんはそれで会話を終えてしまった。
なんだったんだろうな。
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