6-4 冒険者とクッコロさん 眠れない理由
本日三度目の投稿です。
「セイジュさん、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ、エルナ」
ふぅ……。
また戻ってきちゃったなぁ……明日、シャーリィと女将さんになんて言おう。笑われるかな。それとも呆れられるかな……? うぅ、恥ずかしい。
……メイプルとハルキは、まだヴァーヴァリアス様と話をしているのかな。
何を話しているんだろう。
試練、魔法、勇者……異世界。気になるけど……メイプルが防音しているな、これは。
気になるなぁ。
どれも気になる……ヴァーヴァリアス様は、二人に何を話すんだろ?
ヴァーヴァリアス様が異世界から来た、なんて、本神から聞いていなければ半信半疑でいただろうなぁ。
それも、いくつもの世界を旅してきたって。
どんな場所だろ……胸がドキドキする。
この大陸は広いし、海の向こうには見たこともない場所があるし、魔界だって未知の領域。なのに、空に輝く星海たち全てが誰も知らないフロンティア、宇宙。
そしてこの宇宙の他にも別の宇宙があって、また別の世界があって……色々な姿形、定義の未踏領域。
私の一生を使っても回れない、不思議な世界たち。
怖いかもしれないと思っても、いつか……行ってみたい。
メイプルが使っていたボルカニックゲイザー。別世界の魔王の魔法。他の世界の魔王って、どんな存在なんだろう。やっぱり、人間に危害を加える魔族なのかな。 メイプルはボルカニックゲイザーを魔界経由で習得したと言っていた。魔界には、色々な世界の魔法が集まっている……?
もしかして、魔界は他の世界へ行くための中継地点……?
だめ、明日もまた早いんだし。これ以上は起きてから考えよう。
でも……眠れない。
どうしてだろう。昼まで眠っていたからかな。
「はぁ……催眠魔法、欲しいなぁ」
ハルキみたいにできたら……。
こう、ネイトさんたちを眠らせたみたいに……掌をかざして、
「スリープ……」
うん、やっぱり何も起きないよね。
何やっているのだろうか、私。
「何をしているんだ?」
「ひゃっ!」
セイジュさん、起きてたの!
完全に寝てると思って油断してたぁ。うぅ、そんな目で見ないで。
「眠れなくて」
「ははっ、昼間まで眠っていたからな」
「セイジュさんも眠れませんか?」
「あぁ。城壁で囲まれた街の、冒険者ギルドという安全な場所のベッドに寝転がっているのにな。全く眠れないんだ」
普通は、街に入って宿やギルドのベッドに寝転がれば、それまで元気だったとしてもすぐに寝つけるのに。
「こういう時、催眠魔法が使えればいいなって思います」
「そうだな。瞑想法も師匠たちに教わった方法も全部ダメだったし、こういう時にアニスがいてくれたらな、と思う」
「同感です」
そう言えばアニス、帰ってきていないけど、大丈夫かな。うぅん、私が上級冒険者の心配をするなんておこがましい……でも、気になる。
「アニスなら大丈夫だ」
「心を読まないで下さいよ」
表情に出さないようにしているのに。
「こういう時にお前が考えそうな事はわかる。アニスの考えもな」
「わかるんですか?」
「恐らく、だがな。アニスはお前が心配だったんだろう。サキュバスの巣窟を探索して、サキュバスたちに見つかったらどうしよう、とな」
むっ、それは……。
「お前は中級冒険者に近い実力を持っているが、サキュバスの群れ相手に見つかったら、っとそう思ったんだろうな。自分もサキュバスの血を半分受け継いでいるんだ、サキュバスの事なら私たち以上に詳しい。それに……」
何だろう。
「メイプル君はアニスを知っていた。という事は、お前が探していたサキュバスたちの中には、アニスの血縁者や友人がいたのだろう。いくら冒険者だからといっても、親族たちと友人が傷つけ合うのは嫌だろうし、お前がサキュバス達の虜になることも懸念していた……と言った具合だ」
「え、でも、サキュバスの巣窟の探索依頼を受ける時にアニスは近くにいましたが、特に何も言いませんでした」
いつも通り、淡々と「そう」って言っただけで、何かを心配する様子はなかった。
「ま、今のは全て私の予想だ。アニスが本当は何を思っていたのかはわからないし、ジョギングに出掛けたまま帰ってこない理由もわからない。だが、アイツの性格を考えると、さっきの予想ができるわけだ」
「そうなんですね」
私よりも付き合いが長いから、かな。
でも、そうかもしれない。
「アニスだってお前の実力はわかっているはずだ。私が考えたこととは全く違う理由で出かけたのかもしれん」
「本人に会って聞くしかないですね」
「そういうことだな」
ラベルに滞在している間に帰ってきてくれるかな。
……うぅん、やっぱり眠れない。
「……セイジュさん、起きていますか?」
「あぁ。眠れそうな気がしたんだが、さっぱり眠れん」
わかる。
「メイプルにお願いして、催眠魔法をかけてもらいますか?」
「最終手段として考えておく。それに……」
それに?
「眠れない理由はわかっているつもりだ」
「なんですか?」
「メイプル君たちのことだ。あの二人と同じ出身地だと知って、今更ながら心が震えてしまってな。それが原因だ」
あぁ、そういうことか。
セイジュさん、勇者夫婦好きだもんね。それは興奮して眠れないか。
私も驚いているけれど、
「あぁ、だが……」
あれ、何で悲しそうになったの?
「ココロ君とハルキ君を会わせても、意味がないとわかってな……」
あぁ……。
セイジュさん、本当にココロ様の事を大切に思っているんですね。
「そうですね……」
私も、ハルキと出会った時には、ココロ様ともしかしたら同郷かもしれないから、会えば少しは互いの心の助けになるかもしれない、って思ってたな……すぐにそれができないってわかってしまったけれども。
「でも……ハルキとメイプルは、きっと、ココロ様と会うと思います」
「そうだな。旅先で、出会うかもしれないな」
「それもそうなんですけれど……」
恐らく、
「邪神との戦いでは、ココロ様の力も必要となるかもしれない、から」
勇者が邪神を倒せるかもしれない、というのであれば。
「ココロ様も倒せるはずです。あの方は、魔王ドリューシャを倒したんです。世界最強の勇者が、これから邪神を倒す勇者と出会わないはずがない。神々が邪神を倒すためにハルキとメイプルの力を必要とするのであれば、きっと光の運命神が三人を導くはずです」
現実で、物語じゃないけれど、私はそう信じたい。うぅん、きっとそうなる。
私が、二人と出会ったことも、きっと神々の導きだと思う。
セイジュさんも、そう思ってるよね……目、輝かせて笑っているし。
「……あぁ、そうだな」
「えぇ」
「もしかすれば……私たちが出会ったのは、かの女神の導きなのかもしれんな」
あながち、間違いではない気がするなぁ。
「で、あるのであれば、だ。私たちも、邪神と戦えるようにならねばなるまい。そのためにも、まずは魔王を倒せるようにならねばな」
「……そうですね。その前にまた大食いが来そうですが」
魔王を倒せるヴィジョンなんて浮かばない。でも、ヴァーヴァリアス様の言った事を信じて、私はやるだけ。……ちょっと、不安。
「……しかしエルナ、いいのか?」
「大丈夫です、私、もっともっと強くなりますから」
「それもあるが、お前なら強くなれると私も思っている」
うっ、セイジュさん、いきなり褒めないでよ。
「私が言いたいのは、お前の家の事だ」
……はぁ、家かぁ。そっちかぁ。
「まぁいい。だが、勇者の旅に同行するのであれば、色々と考えておいて損はないぞ?」
「……はい」
お母様、お父様……うぅん、私は私のやりたいことをやるだけ。今はそれでいい。
さて、もう寝よう。
明日は朝起きたらハルキとメイプルを連れて訓練場に……約束していたハルキの訓練をしないと。
今のままじゃ、ただ力任せだから、大食いのような本当の強者が本気でかかってきたら、あの子は勝てない。
それはつまり……私だと、まだまだ全然勝てない。火力が、四人の中で一番低いから。
ヴァーヴァリアス様に言われた通りで、でも、私は強くなる。元々、あの二人の旅に着いて行くつもりで……あぁもうだめ、頭の中がぐちゃぐちゃだ……はぁ。
ヴァーヴァリアス様の言うとおり、私は本当に強くなれるのかな……。
「なぁエルナ」
「なんですか?」
「焦ってもどうにもならない。地道にやっていくしかないんだ」
「はい……」
「まぁ、あの二人がいれば、近いうちに嫌でも強くなりそうな気はするが」
「へ?」
どういうこと?
「ふっ、もうお前は経験しているはずだ。さぁ寝るぞ」
気になるっ。答えを教えて欲しい……あ、あれ、何を……壁に向かって?
「メイプル君、すまんが私たちを眠らせてくれっ」
「は?」
何をしているんですかセイジュさ……あ……これ……メイプ……催m……Zzz……。
メイプル「ハイ・スリープッ!」
リア「お主も律儀よなぁ」




