2-2 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 まさかの魔法(物理)?!
ともかく、こいつの魔法のおかげで、俺たちはこうやってキャンプみたいなノリで過ごせていると言う訳だ。
魔法さまさまである。
ちなみに、熊は冒険者が野営で会いたくない魔物以外の生物第三位に入り、堂々の第一位はタイラントバードという生物だ。
メイプル曰く、ティラノザウルスに似ているけど結構鳥っぽい奴らしい。魔力をほぼ持たないドラゴンの一種として見られているそうだが、そいつはきっとドラゴンじゃなくて、名前のようにでっかくて凶暴な肉食の陸鳥だ。または恐竜。メイプルも同意見だった。
こいつに関しては、幸いなことに生息域が限られており、生息数も少ないらしく、該当地域でなければ会うことはない。エルナはそう教えてくれたが、旅をしていたら、そいつともご対面しなきゃいけない時がくるかもしれない。
「タイラントバードは本来、国が軍を動かして戦うような相手だから。熟練した冒険者でも一人での討伐は難しいけれど、魔法使いがいれば比較的早く、楽に倒せるわ」
「メテオとか冷凍魔法使うんですねわかります」
後は毒系みたいな絡め手か。
しかし、エルナはきょとんと目を見開いて首を振る。
「口の中に爆薬を放り込んで終わりだけれど」
「まさかの魔法(物理)?! 魔法使いじゃなくてもよくないか?!」
「劇薬とか爆薬は魔法使いや学者みたいな専門職じゃないと作れないし、彼らの方が扱いにも慣れてるから。私たち前衛が引き付けて、隙を見てって感じかしら。知り合いの魔法使いは、一人でやろうと思ってできなくはないみたいだったけれど、そう言う人は滅多にいないわ。タイラントバードは群れでよく行動するから、対人外複数戦に熟知した冒険者でも最低二人のチームを組んで戦うの」
エルナの説明に、メイプルも追従して頷く。
「私は実物を見たことないけど、個体によったら魔法を使う中型ドラゴンの下の下レベルを相手にできるって聞いたことがあるわ。下手したら、私たちの知っているティラノサウルスよりも強いかもしれないわね」
「……」
そんな奴に立ち向かえるこの世界の魔法使いは、きっと魔力が切れても強いと確信した瞬間だった。サキュバスが瞬動を使えるのだから、ゲームみたく魔法使いが近接戦闘に弱いはずがないと思い至った。きっと関節技を使えるに違いない。
まぁこれは冗談だとしてもだ。
じゃあこの世界の冒険者たちや軍隊が苦戦する生物・魔物ってどんだけ強いんだよ。
そして、軍を動かすような相手に難しいけどソロ討伐できる熟練冒険者って本当何者なんだよ。
エルナの知り合いの魔法使いさんが一番何者だよ。
閑話休題。
この会話でわかったことは、熊は俺のいた世界と変わらず恐れられていて、それよりも色々とヤバい魔物や恐竜もいて、そして魔法が使えるドラゴンがいる、と。
現実的だと思ったらガチガチのファンタジーまで混じってやがるこの世界観……。
俺が何とも言えない気持ちになっていると、メイプルが悪戯を思いついた表情になり、
「安心しなさい。ドラゴン種なんて滅多に出会わないわよ。グレートドラゴンなんて、ダンジョンか一部の山奥にしかいないから。旅の最中に気をつければいいのはワイバーンとか翼竜の類だから」
「どっちも会いたくねぇよ」
今の俺じゃ、野生のオオカミや猪にも勝てないだろうに、ワイバーンとかどうしろってんだ。グレートドラゴンなんて絶対会いたくない。
俺の反応を見てメイプルは満足したのか、一転、苦笑を漏らしながら手を軽く振った。
「まぁ、散々脅しておいてなんだけど、今のは戒めよ。エルナを見ていればわかるだろうけど、ここは現代日本の一般人がそうやすやすと転移からの無双とかできるところじゃないから、調子に乗って行動しないことね」
「わかってるよ」
そも、そんな漫画みたいな超すごい能力があるなら、サキュバスに囲まれたあの時点で撃退してるか逃げてる。
「わかっているならよろしい。私もサキュバスに転生して八年経つけど、素人の人間と下級の魔物以外に勝てる自信はないわ」
「一応人間には勝てるのか」
やはり、魔法があるというのは強いか。まだ子どもとはいえ、例えば火の魔法が使えるだけでも十分脅威だろう。
「そう、私の必殺技……死闘顔面打ちでね」
「メイプル、お前もか」
シュッシュッと、自分の眉間の高さで構えた手刀を素早く振るうメイプルを見てそれしか言えなかった。しかも滅茶苦茶キレが良くてコメントに困る。空気を切り裂く音が鋭すぎて乾いた笑みが浮かぶ。
魔法だと思ったらまさかの近接格闘だった。
よくわからんが、死闘の勢いで破壊するのか。元々恐ろしい技がさらにヤバいことになっている。やっぱりこの世界のサキュバス怖い。マジで震えてきやがった。
お前、戦闘能力ないとか嘘じゃねーか。それでアサシンとかシーフ倒せよ。変態どももそれで撲滅させればいいだろ!
「さて、晴樹のプルプル震える顔を堪能したところで」
「お前後で校舎裏」
「ここは異世界の森よ。それより、街についてからどうするかを考えないと。旅の道具を揃えたり、食料や武器も人数分必要になってくるわ」
「それに、二人を鍛えないといけないし……特にハルキね」
「晴樹が問題ね」
「サーセン」
戦う術も武器も、魔法も使えない俺が一番の問題だった。サキュバス幼女でさえ格闘術が使えるというのに……。
「俺も魔法が使えたらある程度は戦えるんだろうか」
「甘いわ晴樹。さっきから言っているでしょう。近接戦闘ができない、魔法に頼っている魔法使いは、魔力が切れたらただの人よ」
「なるほど、ノーカラテ・ノーウィザードというわけか」
「正解」
やっぱり、そうそう簡単には行ってくれないか。