5-4 エロ漫画野郎と破壊神さん ヘスティアの炎
ダメ押しにもう一話。
だとしたら、リアさんが俺にこうして接してきている理由は……。
「リアさん」
「何だ?」
「……もし俺が勝ったら、どうするんですか?」
「……。……お主が気にすることはもうない。今のうちに遺言を用意するといい」
「俺が勝ったら、いつの日か戦神と戦うんですよね?」
「だから気にするなと」
「戦神って、大食いですか?」
「大食い……? あぁ、そうだな。きっとそいつだ」
「でっかい棍棒持ってる、無敵超人」
「そうだが一体何を」
「俺、アイツが神だって聞いてないんですよ」
その瞬間、リアさんの目が見開かれた。
呆気にとられたって感じで。
「ぇ?」
間の抜けた声。リアさんのものだ。
それは、先ほどまで殺気を纏っていた荒ぶる神ではなく、昼間に見たリアさんの表情に近い気がした。多分。
「リアさん」
「……何……だ?」
「俺たちを試していましたか?」
あれ、なんで答えてくれないんですか。
違うんなら違うって答えてくださいよ。だんまり決め込むんならそれでいいんですけれど、ちょっと目を逸らしてどうしたんですか。
コッチヲミロ。
「試してたんですね?」
そう、この人は試していたんだ。
大食いともう一度戦うらしい俺たちの力を。
「……。仮の話なんですが……。リアさんは、状況もわからないまま、大事な人を巻き込こんだ誰かに、本気でお前ら殺すぞと言われて実際に半殺しにされて、その実、試されていたと知ったら、どうしますか?」
「うむ……それは、多少思うところはあるが、私のためであるのだから、終わったら水に」
「流しませんよね? 殺しますよね? 滅ぼしますよね? よくって半殺しにしますよね多分、というか百パーセント」
確信を込めて言うと、リアさんが呻きながら身を少し退いた。
「ぐっ……かも、しれんな」
かもしれんな、ではない。
俺がセイジュさんたちから聞いた破壊神に関する逸話、実話は、どこぞの国を傾けた昔話だけではない。
そのほとんどにおいて、破壊神ヴァーヴァリアスは加害者、敵対者、または悪党に対して暴虐の限りを尽くしていたのだ。
親しい人たちが害されたのであれば、苛烈さもより増すという具合に。
つまりこの人は理由が何であれ、自分や知人に害をなした奴は殴るだろうと予想したのだが、当たっていたようだ。本人にも何かしら覚えがあるのだろう。
まぁ、それは置いておくとして、だ。
怒りは、ある。
けど、その向けるベクトルが変わった。
「しかし、だからどうした? 私がお主を倒すことに代わりはない。彼奴を倒せないようでは、お前たちがこの世界を救うなどできないからな」
開き直ったよ、この人……いや破壊神……。
「……。あ、一ついいです?」
「質問の多い奴だな。何だ」
そう言う貴女も律儀な奴ですよね。
「俺たちが世界を救うんですか?」
「そうだ。お前がこの世界に呼ばれて、力が与えられたのもある目的のためだ」
「わかりました……この戦いに勝ったら、俺のこの力を添付した奴のこと、教えてくださいね?」
よし、覚悟完了。
「勝てたら教えよう。まだ本気を出していない私に、お前が勝てるはずもない」
轟音が聞こえた。
恐らく、鳩尾に拳でも叩き込まれたんだろうが……本気を出していないらしいリアさんのボディブローは、腹部前に展開した小型化エーテル・ランパートで完全に止められていた。
怖っ、食らったら確実に内臓がヤバい事になる奴だ。
もう、食らうつもりはないが。
障壁に突き立てられた拳が引かれる前に、その手首を掴む。
しかし、次に見たのは、小さく見えるリアさんと山頂の景色で……。
吹き飛ばされたと気が付く前に、リアさんの姿が消えた。
「がぁぁぁぁぁッ!!?」
背中に激痛と衝撃を覚えた直後に、地面へと叩き落とされた。
身体強化とメイプルの防護魔法がなされた体でなければ死んでいただろう。
メッチャクチャ痛いが、メイプルが外部から回復魔法を施してくれているらしく、すぐに楽になった。そして、湧き上がる怒りにまかせて立ち上がる。
一方的で、身勝手で、フザケタ理由で、俺だけじゃなくて仲間まで殺されてたまるかっての。
「いい顔だ。ようやく、駆け出しの戦士くらいにはなったか」
「おかげ様で」
「しかし、そろそろ日が完全に沈む……終わりにしよう」
この状況が、どうやらリアさんの狙い通りらしいというのが腹立つが、掌の上で転がるのであれば、いいぜ転がってやる。
ただし、転がしているものが反撃も怖くない格下だと思うなよ?
「顔を左に傾けて!」
メイプルの指示に従い、顔を左へ傾けながら体の表面に光のベールを展開。
次の瞬間、凄まじい衝撃と共にリアさんの上段突きが真横を通過するが、全身を覆うベールによって衝撃波によるダメージはない。
「何っ?!」
はいそこで足払いっ!
避けられた上に踏んづけられかけた。危ない、もう少しで文字通り足を潰されるところだった。
だが、その勢いを利用して跳躍、リアさんから少し距離を取ることができた。
「晴樹、それ以上後ろに行っちゃ駄目よ!」
メイプルの激が飛んできた。
どうやら、すぐ後ろは例の歪んだ空間らしい。触れた部分だけがダメージを受けるのか、それとも巻き込まれて即アウトか。光のベールも無効化されそうだ。
どの道、背水の陣ならぬ背壁の陣って感じだ。
正真正銘、後がない。
「言い残したいことはあるか?」
そう言えば、この世界に来て数日、一日一回は死にそうな目に遭っている。
突然異世界へ飛ばされて、サキュバスの群れに襲われ、変態妖精に何度も襲われ、啓示を受けて行った先のダンジョンで無敵巨人に試練という名の殺し合いを挑まれ、そして昼間に知り合った破壊の女神からも試練という名の殺し合いを強要されている。
正直言って、言い残したいことよりも、今までと、これからも理不尽を押し付けてくる輩に言いたい文句ならある。
「ないか……なら、終わりだ」
あぁ、終わりだよリアさん。
背中に展開しておいた、小型の魔法陣から群青色のジェットを噴き出させ、リアさんとの距離を一気に詰めた。
避けることなく、いなすことなく、リアさんは拳で俺を受け止めようとしてくれている。
ありがとうリアさん。
もしこれが失敗したら恐らく死ぬだろうから、言っておくぜ。
「ありがとうございますっ!!」
「ッ?!」
突き出した右掌から巨大な炎が出現し、リアさんを包み込んだ。
俺は突っ込んだ勢いのまま、突き出された拳を小型エーテル・ランパートで受け流し……損ねるが、どうにか吹き飛ばされることは阻止できた。
「何だ……これは?」
リアさんは茫然としていた。
熱くもなく、体も服も燃やさない炎に抱かれながら、先ほどまで苦しく感じるほどだった殺気を鎮め、拳を降ろした。
「まさか……お主……」
「終わりです」
最後に、もう一段階火力の増した炎が、俺もリアさんもまとめて包み込んだ。
炎の中で、リアさんの姿が鮮明に浮かび上がる。
彼女の表面を覆っていたベールも、殺意も、闘志も、そして負の感情の一切が消えていた。
「ヴェスタ・フレイム!」
締めの言葉を静かに紡いだ。
暖かで優しい炎が消えていく。その際に、柔らかな笑う声が聞こえてきた気がした。
そして、山の向こうで微かに残っていた陽光も消え、夜が訪れた。
月と星が広がる天海の下で、俺とリアさんは向き合っていた。
「……最初から、試すって言ってくれればよかったんですよ……」
「……言ってしまえば、お前たちの本気を引き出せないだろう」
「理由を言ってくれればよかった」
「言ってしまえばお前が怯えるかもしれない」
「あんな理由で殺されそうになる方が怖いですよ」
あーもう、文句はたくさんあったってのにな。
自分自身も魔法に巻き込んだせいで、こっちの怒りも消えてしまったようだ。
「んで、貴方を倒せてないんですが、俺の負けですかね?」
「……確かに、私が考える勝利ではないな」
ダメだったか……タスラムにメイプルたちの脱出を伝えようとしたが、リアさんが軽く手を挙げた。一瞬、攻撃されるのかと思ったが、待てという意味だった。
「だが、この私を止めて見せたことは認めよう。そして、その炎が将来的に世界を救う一助となることも」
リアさんが指を弾いた。
周囲の景色から、違和感が消え去る。
それと同時に、リアさんの体が現実世界へ戻り、俺もステルスモードを解除した。
「合格だ、ハルキ」




