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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第二章 サキュバスとエロ漫画野郎とクッコロさん
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3-3 エロ漫画野郎と踊り子さん またどこかで会おう

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 踊り子、風と言うのだろうか。

 褐色気味の肌を薄手の衣装が最低限包んでいる、良く言えば開放的な出で立ちをした、二十代前半に見える女性が俺を見下ろしていた。

 腰まで伸びている艶やかな黒髪と、見惚れる顔立ちに、切れ長の目から覗く赤い瞳の、背の高い綺麗なお姉さんだ。


 あれ、前にもこんなことあったような……。すっげぇデジャヴュ……あ、ナリアさんの時か。


 内心面食らいながらも、十八禁コーナーに慣れ、この世界に来てからはサキュバスや変態妖精、そしてセイジュさんの魔気甲冑(エンチャントアーマー)姿によって更に鍛え上げられた心を手に入れている俺は、平静を装いつつ返答した。


「何でしょうか?」

「単刀直入に問おう。貴様、魔法を撃ちこんだのではないか?」


 口調はキツめだが声音と雰囲気で妙なしっくり感があるなぁ。

 うん、現実逃避はそこそこにしておこう。今はそれどころじゃない。


「え?」

「とぼけても無駄だぞ? さきほど、貴様の指先からあの賊の足元に何かしらの魔法が放たれたのが見えたのだ」


 声を潜め、知り合いに向かって楽しげに話すように、彼女は俺の対面に座った。


「貴女は……」

「そう警戒しなくてもよい。ただ、自分の身に降りかかる火の粉を払うのでなければ、あまり他へは干渉しない方がいいと、少しばかり文句を言いに来たお節介焼きだ」


 そう言って肩を竦め、不敵に笑う様子に、俺は少しばかり毒気を抜かれかけた。


「先ほどのアレはな、本物の盗人ではなく、この街の冒険者や衛兵たちの訓練の一環なのだ」

「……ぇ」

「確か、新人の試験も兼ねていたか。まぁつまりだ。貴様が行ったのは、彼らの訓練や試験の邪魔だった、と言う訳だ」


 そう言われて、肩と背筋に冷たいものが走った。

 や、やっちまったぁぁぁぁぁっ!!


 顔がひきつるのを自分でも感じていると、女性は頬杖をついておかしそうに笑った。


「力を手に入れたばかりの者がよくやらかすことだ。ただ、貴様の場合は完全なる善意で行ったことだ。本物の賊であったなら問題はなかったであろうな。悪意や、力の誇示のためにやったのでないのであれば、今回の問題から反省すればよい」

「ですが、あの人たちの正当な試験結果が……」

「安心せよ。私の見た限り、貴様が手を出さずとも、あの者たちならば賊役を捕らえることができていたであろう。うむ、私が試験官なら全員合格点をやった。だから気にするな、とは言わんが、これから気を付ければよい」


 そう言ってもらって肩の力は抜けたが、気分は最悪だ。

 力を手に入れてから、調子に乗らないようにと気を付けていたのに、まさかこういう形でやらかすとは想像だにしていなかった。


「生真面目もいいが、今回は誰も損をすることなく、しかもお前は学ぶ機会を得た。それでよいではないか」


 見かねたらしい女性の言葉に、どうしてだろうか、もやもやとした心が晴れていく感じがする。

 そうだな。これ以上うじうじしていても進まねぇ。誰も傷つかず(スリ役の人には申し訳なかったが)、俺は新しく学べたんだから、この人の言う通り、これからは色々と気を付けていこう。

 とりあえず、今は目の前の女性にお礼を言わなければ。


「すみません、色々とありがとうございました」

「よいよい。……ふむ、いい顔になったな。若者はそうでなければ」


 女性が浮かべた柔らかい笑みに、頬が赤くなるのを感じる。照れ隠しも兼ねて言葉を返した。


「若者って、俺はこれでも二十五ですよ? 貴女の方が若く見えますが……」

「ははは、嬉しい事を言ってくれるな。しかし、二十五など、まだまだ若い若い」


 年上そのものの様子で楽しそうに笑う。

 もしかしたら、この人はハーフエルフなどのように、長寿種族の血縁者なのかもしれない。もしくは魔族……て雰囲気でもないな。

 どっちかっていうと、支部長やナリアさんみたいな感じがする。


 それはともかく、打ち解けた空気になったところで、給仕さんが近くを通りかかった。

 俺はコーヒーのお代わりを、女性はアップルティーを頼んだのだが、給仕さんの態度が少し、というか、かなり緊張した様子だった。

 その時初めて、周囲の空気がおかしい事に気が付いた。皆俺たちの周囲から離れて見て見ぬふりをしていたり、店に来ようとしていた人も回れ右でどこかに去って行ったり、通りかかった冒険者が驚いた様子になったりしていた。


 すぅー……あれ、もしかしてこの人、結構偉い人だったりするんだろうか。怖い人、なのかもしれないが、メイプルの聖域魔法に反応がないことから、悪人ではない、はず。

 ちょっとばかり戸惑っていると、


「そうだ、丁度いい。今の紅茶を奢ってはもらえぬか?」

「え?」

「授業料、という訳ではないが、何、忠告してやったのだから、それくらいのお礼はしてもらえぬか?」


 不敵な微笑みに、俺は苦笑するしかなかった。


 現代日本なら色々警戒する案件なのだが、聖域魔法からはやはり反応がない。本当に悪意も害意もないようだ。

 それに、本当は彼女が注文をした直後に、俺が言おうと思っていたことだった。ただ、周囲の様子に気を取られて言う機会を逃してしまったが。


 やがて給仕さんが未だ緊張した様子で近づいてきた。大丈夫だとは思うが、一応お節介を焼いておこうか。

 微量の精神回復魔法を不可視の状態で給仕さんへ向けて放つと、彼女は少しばかり落ち着いた様子になり、何の問題もなく俺たちの前にカップを置いた。

 その後ろ姿を見送ることなく、女性がやれやれ、と俺を見やった。怒っているのではなく、少しばかり呆れている様子だった。


「お人好しだな」

「お茶がこぼれたら、色々と面倒でしょ?」

「確かに」


 笑い合い、俺たちはカップに口を付けた。

 うむ、清々しい気分で美味しいコーヒーを飲むって最高だ。


「時に、この大陸では見かけぬ出で立ちだが、どこから参ったのだ?」


 俺は諸々の事情は伏せて、突然妹と一緒にこの大陸へ飛ばされてしまったこと、今は故郷へ戻るために旅をしている、という表向きの事情を話した。

 それを聞いて彼女は、ニヤリと笑った。


「ふむ、そうか……」


 あ、これ話したらダメなやつだったかもしれん。


「勇者の兄妹か。魔王もいないのに、一体如何様な理由で召喚されたのだろうな」


 はい、アウトォッ!

 よくわからんけど、貴族とか王族とか、多分その辺りの人だよこのお姉さん!


「えと、あの、俺たちは勇者じゃないんですが……」

「だろうな」


 先ほどの言葉とは裏腹に、あっさりと俺の言葉を肯定してくれた。肩透かしを食らった感じもするが、この世界で初めて俺の言い分を聞いてくれた人に出会ったぞ。


「しかし、先ほど二度も見せた力は尋常ではない。今もそうだ。我々の声が周囲に漏れぬように、何かしら魔法を施しておる」

「わかりますか」

「あぁ。だが、これを見抜ける者はそうそうおらんだろう。何やら、我々が談笑している風に周囲には聞こえるよう細工もしておるみたいだ」


 おぉ、そこまで見抜くか。

 もうこの人に隠し事って無理じゃね、と半ば諦観の念が浮かんだ。


「勇者でなければ……いや、よそう」


 いや、よさなくていいんで続きをお願いしたいんですが。


「その力、悪用はするなよ?」

「勿論です」

「なら、よい」


 再び俺たちはカップを傾け、ふぅと息を吐いた。


「そう言えば、名乗るのが遅れたな。私は……そうだな、リアと呼ぶがよい」

「晴樹です」

「ハルキ……ほぅ? ハルキ、か」


 リアさんが少し目を細める。

 俺は苦笑するだけだ。

 しばらくそうやって見詰め合っていたが、やがてリアさんが口端を緩めた。


「良い名前だ」

「ありがとうございます」

「ふふっ……今日は楽しかったぞ。またどこかで会おう」


 空になったカップを置いて、リアさんは席を立った。

 俺も席を立ち、彼女の方が俺よりも少しだけ背が高いことに気が付いた。


「確かに、十五、六の(おのこ)にしては、背があるな」

「ははは。リアさんも、カッコいいですよ……ちょっと、服装が開放的過ぎる気もしますけれど」

「言いよる。だが、そうだな、ふむ、心配せずともよい。私にそんな気遣いをするのは、お主くらいのものだ……が、まぁ、受け取っておこう」

「いえ、出過ぎた真似をしました」

「構わん。では、失礼するぞ」


 踵を返すリアさんに一礼し、その姿が見えなくなるまで見送った。

 やっぱり、彼女が通る時、人々の多くが道を開けていた。


「やばい人と出会ったかな?」


 だが、不思議と嫌な感じはしなかった。


「お前はどう思う?」


 収納魔法の中のタスラムにこっそりと問いかけてみるが、当然ながら返答はなかった。

 ただ、少しだけ淡く輝いた気がした。




メイプル「何かの気配が……消えた?」

エルナ「メイプル、さっきから何をぶつぶつ言っているの?」


お読みいただきありがとうございます。

まずはサキュバスとエロ漫画野郎と冒険者からスタートです。


二日から仕事ですが、頑張って更新していきます。

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