1-6 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 パーティー始動(仮)
「ところで、ご隠居ってどんな人なんだ?」
「噂だとエルフらしいわ。初代ギルドマスターの友人だったとかで、ギルド創設から数百年以上、ずっと関わっているそうよ」
「へぇ」
この世界のエルフも長寿だったか。ということは、女の人だったら美女である可能性が高い。もし男だったらイケメンだろう。
初代マスターの友達ということは、この世界の事をずっと見てきたということだ。もしかしたら、元の世界に帰るための答えを知っているかもしれない。できればこの人と会って話をしたいが、門前払いされるのが見えている。どうにか近づけないだろうか。
「ハルキが何を考えているのかわかるけれど、ご隠居と会えるのはギルドマスターか、王族だけだから」
「そうか……」
未練はあるが、会えないなら仕方がない。当初の予定通り、旅の中で見つけて行くしかないか。
「ギルドマスターも美男美女という可能性が……」
「メイプル、心の声が漏れてるぞ」
唐突に何を言い出すかと思えば。ギルドマスターは大概むさ苦しいおっさんと相場が決まっているだろうが。よしんば女の人でも怖いおば……お姉さんだろう。
「ギルドマスターは女性よ。今年で三十になるけれど、とても綺麗な人よ」
「マジでか!」
むさいおっさんじゃなかった! 綺麗な女性と聞いて心が弾むが、俺の隣でメイプルはなおも自分の世界に入り込んでいた。
「ここでギルマスがちっちゃいエルフだという可能性が微レ存……」
「お前ブレねぇな……」
「メイプルの言葉って意味の分からないものが多いわね」
森を抜けて、再び街道に戻ってきた頃には日が沈もうとしていた。
「今日は野宿ね」
「何かすまんな……」
「いいわよ。それに、調査が長引くことも考えて装備は準備してきているから、問題ないわ」
「そうか。あ、そうだ。じゃあ料理は任せてくれないか? 材料は持っているからさ」
「そうなの? 助かるわ」
「ならこのメイプルさんに料理は任せなさい! キャベツと玉ねぎでスープをご馳走してあげるから!!」
おぉ、転生者あるあるをリアルに見られるとは。妙に感動している俺とは反対に、エルナは驚いて目を見開いていた。
「え、サキュバスって料理するの?」
「す(↗)る(↘)わよ!! 元一人暮らし舐めんな!! この世界の魔物たちにも大好評だった私の料理をとくと味わうがいいわ!!」
こいつ、転生者定番ネタの一つを満喫してんじゃねーか。その長所を活かせば一人で世界に出れたんじゃないのか。まぁ、できなかったからここにいるんだろうが。
「シーフとアサシンとロリコンども」
「あ、うん」
深くは詮索しないが、色々とリスクを計算したんだな。後、天敵増えてた。
「それで、どう? 異世界の料理を食べてみたくないかしら?」
「そうね。うーん……じゃあ、任せてみようかな」
おぉ、GOサインをもらえた。
会ってすぐなのに、こうやって信用してくれているエルナの期待に応えようじゃないの。
メイプルも無い袖を捲るふりをしながら気合を入れていた。
「農薬の浄化作業は任せろー!」
「おう、任せた!!」
「……晴樹君や、ここは突っ込むところなんだが」
「え、魔法で何とかできるんだろ? やめろって言うの無粋じゃね?」
「サキュバスが浄化ってところとかめっちゃ突っ込みどころなのに!」
「ねぇ、二人って本当に初対面なの?」
そんな騒がしくも何だか楽しくなる時間が俺たちを包んでいく。
こうして、俺たちは出会い、共に旅をすることになった。
魔法と魔物が存在し、冒険者が駆け巡る、この世界を。
……なんて、それっぽく考えてみても、現実はこの体たらくだ。
何の覚悟もなく異世界に飛ばされて、特別取り乱すわけでもなく、速攻で現実を受け入れられた自分自身を超褒めちぎりたい。
っていうか、俺は本当に元の世界に戻れるのか? 全然そんな未来が見えてこないのは気のせいだと思いたいんだが!!
「俺、ただエロ漫画を買いたかっただけなのに……とほほ」
俺の心の声は、輝きだした星々がちりばめられた夕暮れの空へと消えて行った。
お読みいただき、ありがとうございます。