2-1 エロ漫画野郎と女神様 ちょっと照、れ……た……?
大変長らくお待たせいたしました。
「およそうございます、晴樹さん」
聞き覚えのある挨拶。
優しい声音に誘われるようにして目を開けると、金髪美女の運命神ナターシャさんが佇んでいて、心臓が少し跳ねた。
夢……じゃないクリアな意識だな。周囲を見渡しても、自分とナターシャさん以外が上手く認識できない、不思議な場所。と言うことは、ここは昨日と同じ、ナターシャさんが作り出したコミュニケーション空間か。
啓示通りにダンジョンへ潜って、突破したから今晩辺りに来るんじゃないかと思っていたから、昨日ほど驚きはしなかった。いや、ちょっとは面食らったけれどな?
挨拶を返し、気を取り直したところで、ナターシャさんが柔らかく微笑んだ。
「今日はお疲れ様でした。何か旅のお役に立ちそうなものは見つかりましたか?」
「えぇ、たくさん」
ナターシャさんは運命神だから、今日の出来事は全て知っているはずだ。そう思っていたのだが、何故かナターシャさんが少しむくれたような表情を浮かべた。
アレ?
「いくら私が運命神だからと言っても、晴樹さんが見て感じたものまでは知りえません」
「え? は、はぁ」
「ですから、話してください。晴樹さんがダンジョンで見てきたものを」
何だか釈然としないが、女神さまのリクエストだ。ナターシャさんのむくれ顔も可愛いが、笑ってくれている方がいいかな、いろんな意味で。
それから俺は、今日タガネル・ダンジョンで体験したことをかいつまんで話した。初めてのダンジョン探索、メイプルの超魔法、セイジュさんとの出会い、落とし穴で最下層まで滑り落ちて行ったこと。ダンジョンマスター・ロール、そして大食いとの死闘。大食いに何やら認められて、淡く光る不思議な玉をもらったこと。
思えば今日一日で結構濃い経験をしているように思える。まるで何か月もそこにいたかのような錯覚に一瞬陥りかけたほどだ。
……この世界にも、竜宮城みたいなところあるのかな。
話し終えると、時々相槌を打ってくれながら静聴していたナターシャさんが、ゆったりとほほ笑んだ。
「どうやら、本当に多くの宝物を見つけることができたようですね」
「えぇ、おかげさまで」
ナターシャさんが手に入れて欲しかったものはわからないが、今日手に入れた全てが俺に取っ手の宝物なんだろうな。
「ふふっ、詩人ですね」
「うぅ……」
しまった、心読まれてるんだった。恥ずかしい!
さ、さぁてそれはさておいて、色々質問したいことがあるんですがいいですかね。
「どうぞ」
「じゃあえと、大食いって何者なんですかね?」
「私も初めて聞く名前ですね……すみません、流石にその情報だけでは何とも言えません」
「いえ、いいんですよっ! 教えてもらえればラッキーってくらいに考えてたので」
申し訳なさそうな表情のナターシャさんに、両手を振ってフォローを入れた。どうやら、これに関しては本当にわからないようだ。運命神が知らない巨人って、一体何者なんだよ。
これ、そっとやちょっとパワーアップした程度じゃ、勝てないんじゃねえのかな、俺たち。
次、会うことがないよーにと祈りたいが、絶対会うって予感が囁いている。泣きたい。
「ところで、先ほどのお話しで大食いから受け取ったという光の玉を見せてもらえないでしょうか?」
どんよりした空気を醸し出した俺に、今度はナターシャさんが慌てた様子で言葉をかけてくれた。気を遣わせてすみません。
念じてレプリカを作り出そうとしたのだが、突如収納魔法の入口が目の前に出現し、淡く輝く光玉が掌の上に転がり落ちてきた。
その途端、ナターシャさんのオーラで和らいでいた精神が、更なる安堵と暖かさに癒されていった。
ふわぁぁ……これが、天国か……じゃなくて。
「あれ?」
「本物のようですね」
頬に手を当てて事も無げに言うナターシャさん。
流石は神様が作り出したフィールド。精神世界に確固たる物質を移動させるとは。
「……やっぱり」
顔を上げると、ナターシャさんが近くに来て、ほっとしたようにつぶやていた。
「晴樹さん、その子は癒しの力を与えるだけではなく、邪悪を討つ力も持っています」
「邪悪を討つ?」
何その聖剣みたいな力。まさか、これがないといけないラストダンジョンや、倒せないラスボスがいるとかそんな感じだろうか。
咄嗟に思考に浮かんだ冗談はさておき、何やら凄いシロモノを渡されてしまったようだ。大食いの奴は何がしたいんだ。
ナターシャさんに言われて光玉を渡すと、彼女の掌の上で浮かび始めた。それと同時に、向こうの方で虹色の輪が出現した。
「本来の使い方と少し違いますが、晴樹さんなら扱えるでしょう。こう、こうして」
言葉に合わせて光玉が滑らかな動きで彼女の周囲を飛び、
「こうです」
手を前に振るうと、光玉が一筋の光となって飛んでいき、虹の輪のど真ん中を通過していった。
え、何今のレーザー?
「はい、これがこの子の力です」
そう言うナターシャさんの掌の上に、いつの間にか光玉が浮いていた。いつ戻ってきたんだ。
「自動で手元に戻ってくるので、気にしないでバンバン投きゅ……投げてくださいね」
「はい」
今投球って言おうとしたね? ナターシャさん、もしかして地球の文化にある程度詳しいのかな。昨日も俺が出した某弾幕シューティングのネタに対応してたし。
まぁいいか。
光玉を返してもらい、俺も練習をさせてもらう。
掌に浮かせるのは……うん、できた。魔法の一種なんだろうが、何も知らないで見たら超能力で浮かせているようにしか見えない。メイプルがオタマやボールペンを動かしていたのもこの力なんだろうか。
俺が動きをイメージすると、その通りに光玉が動いてくれる。ナターシャさんのように自分の周囲をくるくる飛ばすこともできた。
ちょっと遊び心でその最中に急ブレーキをかけてみたが、それまでの勢いがあったのにも関わらずピタリとイメージ通りに停止したのには驚いた。それから、上に放り投げて、掌の上に瞬時に戻ってくるイメージを浮かべたら、漫画よろしく一瞬で手元に出現した。
うん、ファンタジーだ。
ウォーミングアップを終えて、俺は虹の輪を見据える。
そして、そのど真ん中を狙って、GO!
念じるのと同時に光玉が飛び去り、瞬時に虹の輪を潜り抜けたが、狙っていた位置と若干ずれてしまった。勢いが強すぎたかな。
「初めて使って、あれだけ扱えれば十分合格……と言いますか、普通五分もしないうちにここまで使いこなせる人はいないですよ?」
「くっ、微調整が必要か……あ、入った! っしゃぁっ、ど真ん中ぁ!」
「ナイスシュートですね」
ナターシャさんが優しい笑顔だったが、ちょっと困ったような雰囲気があった。
すんません、ちょっと調子乗りました。
「あ、いえ、そうではなくて……どうやら、晴樹さんの事を気に行ったようですね」
「はい?」
気に入った? もしかしてこの光玉、意志があるのか?
「はい。その子の名前はタスラム。神器の一つです」
「え?」
タスラム?
それって、ケルトの……。
「あの、ナターシャさん、これをなくして困っている神様とかいませんか?」
「いえ、今のところ、その子を探しているという知り合いはいません。もしどこかでそう言う話しを聞いたら、こうやってまた晴樹さんにお伝えしましょうか」
「お願いします」
「ふふっ、ではそれまで、晴樹さんと一緒に旅をさせてあげてください。先ほども言いましたが、タスラムは晴樹さんを気に入っていますから、力を悪用しなければ、一緒に戦ってくれますよ?」
「えと、戦闘中とかにもし壊れたりしたら……」
「そう簡単には壊れないようになっていますから、安心してください」
流石は神器、見た目とは裏腹に滅茶苦茶頑丈なんだな。
ひとしきり関心した後、今後の方針や世間話をしてから、ナターシャさんを見守られ、俺の意識は暗転していった。
「それでは晴樹さん、また近いうちにお会いしましょう」
「はい。おやすみなさい……」
「!……はい、おやすみなさい」
あれ、ナターシャさん、ちょっと照、れ……た……?
お読みいただき、ありがとうございます。
次回はメイプル視点です。




