1-2 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 勇者以外の何者でもないかな
大変お待たせいたしました。
冒険者ギルド。
数百年前、秘境や未開の地を探索する専門職の人々が、この世界に突如として現れた魔物やダンジョンと言った存在を調査・研究、またはその脅威に対抗するべく結成した少数精鋭の組織を発端とする。現在では国や海を越えた巨大なネットワークを形成する、国際同業者組合のことである。
熟練の冒険家でギルド結成初期メンバーの初代ギルドマスターやその仲間たちによって制定されたルールにより、出身、性別、身分に関係なく、簡単な面接と書類の作成をすれば誰でも組合員=冒険者になることができる。
今もなお世界に生まれ続けているダンジョンや、人々に危害を加える魔物の調査や討伐が主な仕事だが、一般の人々からの依頼を受けて活動することもある。
特に、駆け出しの冒険者は一般依頼を受けることが多いと言う。
ただし、その内容は誰にでもできるものでは決してない。
薬草類の調達、市民や他ギルド、国が必要としている貴重な素材や資源、鉱物類などのほぼ全てが、森や山など誰も好んで入りたがらない、魔物たちが跋扈する場所に多く存在している。
つまり、そこまで出向いてしっかりと目的の物資を入手し、依頼主が満足する状態を維持したまま、なおかつ生きて帰ってこなければならないのだ。
薬草類や少数の素材集めなら問題ないらしいが、魔物を生きて捕獲する依頼だと、生け捕りにするまでが辛い、連れて帰るまでの間片時も緊張感が抜けない、下手したら仲間を呼ばれるためそれを阻止しないといけない、などの依頼料に見合わないリスクをしょい込むことになる。
一般依頼と言っても、それは『冒険者』にしかできない、命を懸けた仕事なのだ。
そんな凄い奴らの世界に素人が片足でも突っ込んだらどうなるか。
さらに、その素人が当人も驚くようなブっ飛び能力を持っていたら、どうなるか。
答え――――出現したてのダンジョンを踏破して、ダンジョンマスターと召喚契約を結んで帰ってきました。
ありえんと一蹴できる、荒唐無稽で嘘みたいな話だが、事実だ。
エルナからダンジョンでのあらましを聞いて、「冗談、よね?」と眉を潜める支部長を前に、「事実です、支部長」とエルナがトドメをさしてから数時間。
俺たちはギルドの支部長室で、伏せておきたい案件以外の出来事を報告した。ついでに、セイジュさんが帰ってくる前に件のダンジョンマスターを紹介しようと思ったが、それはまた後でいいと支部長に止められた。
「しかし、そのダンジョンマスターよりも強い、謎の巨人ね……」
「どう思いますか、支部長?」
「さぁ……聞いたことのない名前だし、目的や行動も無茶苦茶だし、今は何もわからないわねぇ」
色々とぶっ飛んだ話を聞いても、支部長は少し驚き、またはため息をつくだけで、目に見えて取り乱しはしなかった。
エルナ曰く、ギルドマスターの友人で元上級冒険者だったそうだ。なら、もっと破天荒で荒唐無稽な輩や状況を体験してきていてもおかしくはない。
それに、支部長はギルドマスター同様に、俺とメイプルが勇者かもしれないという話しを知っているとも教えられた。
俺たちの旅を許可してくれた時に出された書類の中にも、ダンジョンの出入りが自由になる許可証があった。普通は調査隊かギルドで正規の手続きを受けた冒険者に期間限定でしか出されないものだが、俺たちのは無期限だった。
ダンジョン撃破という事態は想定済みだったのかもしれない。
「私を含めたラベル支部の職員たちは、君とカエデちゃんが暫定勇者であることは知っているのよ。そして、ギルドマスターから報告を受けたご隠居や他の上層メンバーからも、もしかしたら勇者かもしれないと、話が来ているの」
「でも、もう魔王いませんよね……?」
「この辺りにはね。君の前にやってきた勇者が倒してくれたから」
支部長はそう言って、俺の顔をじっと見つめてくる。何だろうか。
「……もしかしたら、君も彼女と同様に、何か大きな使命を背負っているのかもしれない」
「魔王もいないのに、どんな使命があるって言うんですか……」
「そうね、今回みたいにダンジョンマスターと召喚契約を結びながら、魔王になりそうなダンジョンを撃破してく、とか?」
「ぐはぁっ!!!」
あ、ありえる。言われてみればすごくそれっぽい。
だ、がぁんっしかし! 違うと言ったら違うのだ!!
ハイッ、魔王と戦いはしたくないですっ! とんずらしてもボス戦では逃れられない!! 世界の半分をくれてやろうとか言われても「いいえ」しか選べないからどの道戦う運命になるんです!!
身体強化したままちょっと姿を消せて、他人の魔法を見ただけで即座に改良したものが使えるだけの一般人に、一体何ができるっていうんですか!!
「いや、もう十分だから。君個人の現戦力は、恐らくだけれど先代勇者に匹敵するから。話を聞くだけだと防御関係に関しては歴代随一だから、魔王の一撃も軽々と受け止められるんじゃないかしらねぇ」
「ねぇハルキ、流石に巨人の強化された全力突撃を真正面から受け止められるのは、勇者以外の何者でもないかな……?」
「おにいちゃん、にんげん、あきらめがかんじんだよっ♪」
支部長だけでなく、エルナからも容赦のない正論を受け、メイプルからはトドメの一言を浴びせられた。
「勝ったと思うなよ……」
「もーしょーぶついてるよー♪」
想像を絶する悲しみに暮れていると、セイジュさんを筆頭に、タガネル・ダンジョンへ潜っていた調査隊や冒険者たちがギルドへ到着したと、副支部長から連絡があった。
支部長室に入ってきたセイジュさんは口にこそしなかったが、「よし、ちゃんといるな」と考えていることを、メイプルからこっそり聞かされた。
戦友だろ、信用してくれ。
その後、セイジュさんたちからも報告を受けた支部長から、じゃあ一度その力を実際に見せて欲しいと言われて、それを承諾したのだが……十数分後、事件は起きた。




