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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第一章 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者
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8-8 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 最後の試練

『ふぅ、あー、これダメだわ。何々……動けるのは……ふぅん、精々一分ってところかね。……仕方ない。でも、一撃くらいは反撃させてもらうよ?』


 大食いはそう言って、ゆっくりと上半身を起こした。シールドバッシュで聖域魔法の範囲外に出てしまったようだが、問題はそこではない。


「何で動けるんだ、アイツ?!」

『非常用動力に切り替わったのよ。一分しか動けないってことは、さっきの攻撃で予備のコアが全部壊れたんでしょうね。私の方はほとんど無傷なのに、どうして切り替わらないのよ……』


 ダンジョンマスターが嘆いている間に、大食いはさっさと立ち上がってしまった。六万トンの超重量を思わせない軽やかな動きに驚かされる。

 しかし、一分しか動けないというのは僥倖だ。このまま合体聖域魔法を使えば接近を抑えられる、と思った矢先、メイプルの体がよろけた。


「……ちょっと、やり過ぎたわ……」


 その時、ダンジョンマスターの体も少し揺らいだので、慌てて鎖を引き上げてバランスを取らせる。そのうち、メイプルが使っていた鎖の何本かが霧散して消えたのが見えた。

もしかして、ダンジョンマスターの体が揺らいだのは、メイプル側の聖域魔法が切れたからかもしれない。


「もしかして魔力切れか?」

「少しふらついただけよ。それより、まずいわね……」


 メイプルの言葉で視線を戻すと、大食いが膝立ちになるところだった。

 もしかして、実は限界だったのかと淡い期待を抱いたが、俺の勘違いだった。

 大食いが持っていた棍棒を胸部へと近づける。そう言えあの棍棒、あれだけの猛攻を浴び続けていたにも関わらず、無傷だ。

 瞬間、嫌な予感に背筋が凍りつく。そして、こういう嫌な予感と言う奴だけは勘違いではないのだ。


『スリーカウントやるから、生き残ってみな。(スリー)ぃ、(トゥー)ぅ、(ワン)……』

「っ?!!! 全員、私の下へ集まりなさい……!」

「二人とも、早くこっちに来てくれ!!」


 メイプルの声が少し小さかったので、代わりに眼下に呼びかけると、それに応じてエルナとセイジュさんが駆け戻り、ダンジョンマスターの装甲を蹴って上がってくるが間に合わない。

 大食いのバイザー奥から二つの爛々とした輝きが見え、真っ赤に煌めく攻撃的なデザインの魔法陣がその巨大の背後に大きく浮かび上がった。

 これから何が起こるのかわからないが、まさかあれはロケットの……?!


 セイジュさんたちが後少しで俺たちの下へ来る、という状態で、大食いの体が持ちあがった。


「間に合わない?!」

『最後の試練!!』


 メイプルの悲鳴を遮る大食いの咆哮が、衝撃波となって俺たちに襲い掛かる。


大突撃(グラン・ダッシャー)!!!』


 背後の魔法陣からロケット発射を思わせる爆炎を吹かせたのが見えたその瞬間、空気が爆発した。

 音の壁と聖域魔法をぶち破った大食いが、巨大な弾丸となって襲い掛かってきたのだ。

 そう理解したのは、大食いがダンジョンマスターから少し離れたところで、鎧の破砕と拉げる不快な金属音をまき散らしながら、空中で停止しているのが見えたからだ。


『怖ぁぁぁぁぁっ、漏らすかと思ったじゃないっっ!!!』


 泣きまじりの悲鳴か怒号か、ダンジョンマスターの絶叫で頭が痛い。

 すると、大食いが思わず、と言った様子で笑い声を漏らした。


『くはっ、お前さんっ、まさかソレを使う気になったとはねぇ』

『うるさいっ! 私はまだまだゴーレム研究したいし造りたいし、大学や、馬鹿にした奴らも見返したいのに、こんなところで終われないわよっ!!』


 話しを聞く限り、どうやらダンジョンマスターが大食いを止めているようだが、凄まじい力だ。アホの子だと思っていたが、やはりダンジョンマスターということか。


 ん、止める……?

 巨大で、凄まじい攻撃を……防御をそのまま力に……そうか!


「マスター、そのままそいつを止めておいてくれ!」

『えぇっ?!! 長く持たないから早くしてよ!』


 マスターの悲鳴を他所に、俺の周囲に収納魔法が無数に展開される。イメージするのは、先ほどのメイプルの必殺魔法だ。

 収納魔法から出てきたのは、割れていながらも、なお美しい色合いと輝きを持つ透明な結晶破片たち。

 ダンジョンマスターのゴーレム鎧、そのコアだ。

 実は、壊した際にいくつか収納魔法の使用実験も兼ねて回収しておいたのだ。その数、大小合わせて百。


 まだ終わらない。この土壇場で思い出した魔法がある。

 もしできなければ、ダンジョンマスターと俺の命が散るだけだ。メイプルの先ほどの口ぶりからすると、何かしら脱出手段を持っているんだろう。それを使って、エルナとセイジュさんを連れて離脱してくれると期待する。


 メイプルの必殺魔法その壱と、思い出した魔法を組み合わせたらどうなるか。

 破片たちが魔法剣同様に輝き出し、破壊光線ではなく、コアと同じ色合いをした巨大な透明壁を、大食いとダンジョンマスターの間に瞬時に構築し、その動きを止めた。


『何ッ?!!』


 大食いは戸惑った声を漏らしながら、ジェット噴射の如く輝く魔法陣を背負って壁を突破しようとしている。

 だが、ダンジョンマスターの不思議な力で勢いを削られた勢いで突破できるほど脆くはないらしい巨大壁は、光の破片を霧散させながらも突撃をしっかりと受け止めていた。


『……嘘』


 力を解除したのか、少し疲れた声音のダンジョンマスターがつぶやいた。信じられないと言う感情が伝わってくる。

 俺も信じられないというか、ここまで頑丈とは予想外だった。


「改良って、防御能力も向上するんだな」

「晴樹、アンタまさかこれって……ラベルの……城壁の……」

「あーそれじゃない」


 ラベルの城壁に使われていた防御魔法も色々考えている際に思い出したが、あれは壁に魔法を付与していくものだと聞いたので即没案になったため、使ったのは別のものだ。


『見事だ……が、所詮は小手先の策だねぇ!!!』


 大食いの嘲笑と共に魔法陣がさらに凶暴性を増した輝きを放ち、群青色のジェットを噴き出し始め、巨大壁を押し返し始めた。


「う、ゎぁああっっ……!!?」

「晴樹、もう少しだけ持たせなさい!!」


 そうは言っても、奴の力は増々強くなっていて、このままでは数秒もしないうちに衝突、圧倒的破壊エネルギー塊と化した大食いにより、ダンジョンマスターもとろも全滅だ。


 その時、大食いの巨体が動きを再び止め、壁に押し返され始めた。

 一体何事かと思っていたら、ダンジョンマスターのバイザーの向こうで、目が輝いていることに気が付いた。


『あぁもう早くしなさいよ、あんまり持たないんだから!!』


 先ほど、大食いを止めた力をもう一度使ったようだ。

 このチャンスに俺は一歩踏み出し、拳を思い切り突き出した。


「吹き飛べ……大食いぃッ!!」


 腹の底から放った咆哮と気合に合わせ、壁がぐぐぐ、と大食いを押し返し始め、ついにその巨体を弾き返した。


『があああッッ!!?』


 魔法陣の影響に吹き飛ばされた勢いも重なり、大食いはあらぬ方向へと吹き飛んだ挙げ句、まだ無事だった壁に激突し大穴を開けた。


 一瞬の出来事だったが、確かな手ごたえを感じた。

 その証拠に、穴の向こうから閃光が漏れ、大爆発が起こる。


 諸々の影響をすぐさま目前に戻した巨大壁とサイレントベールでやり過ごし、大食いがどうなったのかを見定めるため、しばらく大穴を見ていたが、何の反応もなかった。


「やった、のか……?」

「晴樹……それ、フラグ……」

「げっ?!」


 しまった、と思った時にはもう遅かった。

 突如天井の魔法陣が再び輝き出し、そこから巨大な物体が現れてクレーターに着地した。


『いやぁ、参った参った……あんな隠し玉があるだなんてねぇ』


 損傷がより激しくなった鎧を纏った大食いが、先ほどと同じように余裕の態度で佇んでいた。肩に担いだ棍棒は無傷だったが、あれで衝撃を殺したりしたのだろうか。というか、あの棍棒もなんで無事なんだよ。実はあっちが本体なのか。


「マジかよ」

「嘘でしょ……」


 茫然とする俺たちに、大食いはギチギチと金属音をたてながら片手を軽く挙げた。




『安心しな、もう攻撃はしない……というか、疲れた』




「「「「『はぁっ?!』」」」」


 唐突な戦闘終了宣言に、俺たちは素っ頓狂な声をあげてしまった。


「嘘。本当は余裕綽々じゃないの……!」

『あっはっはっはっ!! バレたか!』


 冷や汗を流すメイプルの堅く訝しむ声に、大食いはカラカラと笑い、挙げていた手をそのままダンジョンマスターの方へとかざす。


『あ』


 ダンジョンマスターがつぶやくのと同時に、鎖に繋がれていた巨体が動き出した。見ると、破壊されていた胸部の宝玉が元に戻っていた。


『降りてくれる?』

「わかった」


 全員が床に降り立ってから鎖を解除すると、ダンジョンマスターは自力で立ち上がり、大きく肩を落とした。


「まさか、修復したのか?」

『あぁ。だけど、お前さんが再現することはできないよ』


 そう言って笑う大食いの損壊した鎧の破損部から、素肌やインナーがちらちらと見えるようになったが、どこにも傷や破れているところはなさそうだった。

 本体が無傷という事実に俺たちは絶句したが、セイジュさんは顔を少ししかめるだけで留まっていた。


「あれだけ無茶苦茶な攻撃を受けておきながら……ここまでタフだとは予想外だぞ……」

『そう落ち込むなって。私だから無傷なだけだよ』


 ひとしきり笑うと、大食いが今後は俺へと視線を向けてきたのが分かった。

 まだ何かあるのかと一瞬ひやりとしたが、今度はさっきのような寒気はせず、なにやらこそばゆい感じがする。おかしい、先ほどまで本気の殺し合いを仕掛けてきた相手なんだが……。


『まぁ、ギリギリ及第点……いや、これならいいか。合格だ』

「「「「『はぁ?』」」」」


 予想外の言葉に俺たちは揃って首を傾げる。


『おっと、忘れるところだった』


 大食いが掌をそっと俺へ向ける。すると光の球体が現れ、目の前までやってきた。


『やるよ』

「は?」

『試練突破のご褒美だよ。黙って受け取りな』


 言い終わるかどうかのタイミングで、大食いの体がぶれたかと思うと、次の瞬間には消えていた。そして、天井の魔法陣からゴーレム鎧が落下してきて、地面と激突し、今度こそ鉄塊と成り果てた。


『また会おうなぁ』


 大食いの呑気で楽しそうな声が、魔法陣から聞こえてきた。


 先ほどとは打って変わって静かになったフロアでしばらく呆然と佇んでいたが、目の前の輝く球体を思いだし、どうしたものかと悩む。


「なぁ、これ、どう思う?」

「もらっときなさいよ」

「即答だな」


 投げやりなメイプルの言葉に肩が大きく下がった。


「いいから、受け取っときなさいよ。悪い気配はしなさそうだし」

「……確かに、何か罠が仕掛けられている様子はなさそうだな」


 セイジュさんが目を細めて球体を観察し、エルナも同じ判断をしたようで頷いた。

 皆からお墨付き(?)をもらったところで、恐る恐る球体を掴むと、パチンッと光が弾け、掌大の水晶に変化した。山吹色で、中心部がうっすらと黄金色に輝いており、掌に心地よい温かさを伝え、それがやがて全身に広がっていくと、先ほどまで緊張していた心身がほぐれていった。


「これは……?」

「見たことがないわ……でも、すごく温かくて、ほっこりするわね」


 メイプルが気持ちよさそうに目を細める。

 他の面々も同様で、ダンジョンマスターも兜のせいで表情がわからないが、多分リラックスしているんだろう。バイザーの向こうから『ほわぁぁ……』と幸せそうなため息が聞こえてきた。


 そうして、ようやく戦いが終わったこと、生き残れたことを実感できた。

 ダンジョンマスターはすぐに抑えらえたが、大食いは強すぎた。多分本当の意味で殺す気(本気)ではなかったんだと思う。それがわかるくらい、奴は無茶苦茶だった。まともにやりあったら多分、勝てないだろう。

 それでも、俺たちは生き残れた。


「生きてるって、いいな……」

「そうね……」


 日本にいた頃にはなかった、胸いっぱいの不思議な感情に、俺とメイプルはしみじみとつぶやき合った。


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