表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第一章 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者
5/448

1-5 エロ漫画野郎とサキュバス幼女と冒険者 写真って言うんだ 

お待たせいたしました。

 どういうことだろうか。

 エルナと顔を見合わせ、先に歩き出したメイプルに続いて森へと入っていく。

 逃げていた時には気が付かなかったが、この森、クヌギとかナラ……詳しくはわからないが、それっぽい樹で構成されているようだ。どんぐりがそこかしこに落ちている。


「この世界の動植物は、基本的に私たちのいた世界のそれと似ているものが多い、というか、もしかしたら同じかもしれない。もちろん、異世界ならではの種類もいっぱいいるわよ」


 森に入ってすぐに宙に浮かんだメイプルが解説してくれる。


「魔物の古老クラスの話しによると、何百年も昔は、この世界に魔物はいなかったんだって」

「どういうことだ?」


 日本語ではなく、こっちの言葉で話しているんだろう。エルナが聞き耳を立てていた。


「魔界がある世界とこっちの世界は元々切り離されていたんだけど、ある日突然繋がって、そこからこの世界に魔物や魔界の植物たちが現れるようになったらしいわ」

「マジでか」

「マジよ。原因はわかってないけれど、お姉さまたちが長老に聞いたらしい話しじゃ、星海の邪神がどうとか言ってたって」

「邪神ってお前」


 魔物がいるんだから、魔王はいるかもしれないけど、邪神は勘弁してくれ。下手してどこぞの裏宇宙の奴らだったら洒落にならん。


「確かに、魔物たちがこの世界に現れたのは数百年も大昔って記録が残っているけれど、そんな話は初めて聞くわ」


 エルナも興味半分、不安半分という口調で加わってきた。

 そりゃ邪神なんて碌でもないもんが出てきたら嫌だろうよ。


「安心しなさい。邪神の話しは噂程度よ。一説によると、その邪神はもうどこかの誰かに討伐されたって話だし」

「そうなのか?」

「ええ。でも、結局のところは酒の肴か、子どものためのおとぎ話みたいな感じね。っていうか、この世界にだって元々邪神の一体や二体はいるでしょ」


 安心したら絶望に叩き落された。エルナも顔をしかめている。


「けど、こっちも安心していいかもしれないわね。もし邪神が世界に、人に、魔物に悪さをしようものなら、神様が助けてくれるらしいから」

「神さまか……」


 あれ、そう言えばここに飛ばされる直前に何かあったような。

 まさか、記憶にないだけで神さまに会っていたとか?

 ありえる。だってここの言語、一応聞き取れて話すこともできているし。流石は神様。転移先はもう少し何とかしてほしかった感があるが、エルナたちと出会うためには、あそこしかなかったのかもしれない。

 うぬぅ。おっと、思考が逸れた。


「確かに、魔王はいるけれど、邪神が実際に活動しているって話は聞いたことがないわ」

「じゃあ、神様が助けてくれているんでしょう。考えたって仕方ないわよ」


 あぁ、そうだな。神さまが助けてくれているんなら、感謝くらいはしよう。そして魔王いるの下りは聞かなかったことにしよう。

 そんな風に話している間に、洞窟にたどり着いた。十メートルくらいある断崖絶壁に、人が二人並んで入れるほどの幅の穴がぽつんと空いている。


「なんか、これだけを見たら熊か虎が住んでそうなイメージだな」

「実際にいたのはサキュバスだったけれど。それで、メイプル。中に入るつもり?」

「そうよ。安心しなさい。多分もう……」


 メイプルが先頭に立ち、洞窟へと入っていく。小さな掌からふわっと明かりが現れ、周囲を照らし出した。


「魔法って使えると楽しそうだな」

「そうね。きっと楽しいわよ」


 先ほどとはまるで別人のように静かなメイプルの返答に、それ以上言葉が発せなかった。

 そして、誰もが黙ったまま、恐る恐る先へと進む。

 しかし、いつまでたってもあの怪しい明かりは見えず、やがて大きな空洞へと着いた。多分、俺が召喚された部屋だろう。

 だが、そこにサキュバスの姿はなく、壁の明かりや豪華だった家具も一つ残らず消えていた。


「どうなっているの?」

「ハルキはともかく、冒険者(エルナ)が来たからね。私たちが外に出てすぐに、転移したのよ」


 つまり、お引越ししたということか。


「痕跡の一つもないけれど、まぁ、これで依頼はコンプリートよ。追加報酬ももらっときなさいな」

「えぇ、でも」


 エルナが少し居心地が悪そうにメイプルを見るが、彼女は苦笑して首を振るだけだ。


「いいのよ。こうやって引っ越すことなんてたまにあったみたいだし、それに魔法を使えば一瞬で終わるから、アンタが気にすることないわよ。冒険者が依頼でやってきて、サキュバスたちは退散した。それだけよ」


 全く思わないところがないわけではなさそうだが、本人の中では割り切っているようだった。それがこの世界のあり方なんだろう。サキュバスになって、人とは違う世界を見てきたことも関わっているのかもしれない。

 何だかしんみりした雰囲気になってしまったが、メイプルがパンッと手を叩いたことで空気が元に戻った。


「はい、センチメンタルな雰囲気はここまでよ! それより晴樹!」

「あ、はい」


 思わず敬語になってしまった。


「携帯持ってんでしょ。写真、撮っときなさい」

「おう」


 言われるままにカメラを起動させていると、エルナが目をぱちぱちさせて携帯電話に視線を向けてくる。


「何それ」

「携帯電話。えぇと、遠距離通信のための道具だよ。今は通信機能は使えないけど」

「それでも、カメラとビデオと録音機能はこの世界じゃ完全なるオーバーテクノロジー。そして切り札の一つになるわ!」

「カメラ、ビデオ?」


 小首を傾げるエルナに、俺は携帯の画面を向ける。フラッシュは切ってあるから、メイプルの明かりだけで照らされた画面越しのエルナは、少し儚げだ。それでいて、不思議と目が行ってしまう存在感がある。

 撮れた画像は、画質の良しあしは置いておくとして、CDのジャケットになっていそうな出来だった。速攻で保存しておいた。

 とりあえず本人に見せると、驚いて見入り始めた。


「これ、私?」

「あぁ、写真って言うんだ」

「またの名をデジタル画像と言います」


 メイプル、細けぇこたぁいいんだよ。


「なるほど、これ、写真だったのね」

「あれ、こっちにカメラってあるのか?」


 意外や意外。勝手に文明レベルが中世から近世くらいだと想像していた世界観に、まさかの写真発言。メイプルにどういうことだと目線を向ければ、「まぁ続きを聞きなさいよ」と肩を竦められた。


「貴方たちの言うカメ、ラ? だけど……魔法転写機と私たちは呼んでいるわ。でも、すっごく高価で、王族か上位の貴族、後は軍か騎士団が少数持っているだけね。魔法を使って特殊な紙に焼きつけるんだけど、補充した魔力が切れたらただの重たい大きな箱だから、そんなには持ち歩かないって聞いてる。魔法が封じられたり、少ない場所だと使用も限定されてしまうらしいし。もしハルキの持っている大きさで、魔法も使わず、こんなに綺麗に撮れるってなったら……」


 よし、これは人前で絶対に出さないようにしよう。命も惜しいが携帯だって奪われたくはない。


「あれ、じゃあここの写真を撮ってもギルドで見せられないんじゃないのか?」

「大丈夫よ。それが直接誰かや国を害するものでなければ、ギルドは深く追求しない決まりになっているの」

「ならいいけどなぁ……」


 エルナの事を信用していない訳ではないが、見た目もオーパーツな道具を持った見ず知らずの旅人の事を、果たして放っておいてくれるだろうか。

 不安になっていると、携帯を覗き込んでいたメイプルが「大丈夫でしょ」と口を開いた。


「サタニアちゃんの従姉から伝わる話しだと、冒険者ギルドの影にご隠居っていう人がいて、その人が認めた者だけがギルドマスター、および職員になれるらしいの。エルナも言ったけど、こういった道具を見せても、それがその個人の秘密だと割り切って、深くは追及してこない人たちだから、もし証拠が欲しいって向こうが言って来たら、安心して見せるといいわ」


 言い切り、メイプルがふふんと平らな胸を張る。

 よくわからないが、口の堅さがダイヤモンド並みで、むやみやたらに詮索してこないのは正直助かる。

 その従姉さんの伝聞が本当ならの話しだが。


「あの子、ご隠居のことまで情報流してたのね……」

「あれ、実は極秘情報だったのか?」

「ううん、ご隠居のことは皆が知っているからいいわ。ただ、サキュバスにその情報が流れていたというのが……」


 エルナが額に手を当てて天井を仰いだ。あぁ、知り合いなんだっけな、サキュバスハーフ冒険者さんと。同業者が、親戚とはいえ魔物に情報をリークしていたのがショックだったのだろう。


「……まぁ、魔物がご隠居の話しを知っているからと言って、どうこうはならいないからいいか」

「安心しなさい、エルナ。サキュバスは同族にしか身内の話しはしないから」


 そう言う問題ではないと思うが。

 ともかく、エルナも諦観(納得)したところで、奥の部屋も空っぽであることを確認し、俺たちは洞窟を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ