8-7 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 サキュバスたちの必殺技
魂の叫びが漏れかかったが、何とか寸前で留めることに成功した。
いや、それよりも本格的に相手にしてはダメな奴だった。ここに来た経緯や能力についてもそうだが、なによりも啓示を与えた人物がナターシャさんだということを知っている。これは、口ぶりからしても、今言ったこと以外の事情も知っていると考えた方がいいな。
しかし、セイジュさんもいるのに能力のことまでばらしてくれやがって。一応、彼女も俺の異常性には気づいているっぽいからもういいけど。
『で、いい加減この聖域魔法を解いてくれないかい? まさかサキュバスが使えるなんて驚きだったが、ここまでの威力と規模のものを扱えるのがもっと驚きだよ。そっちのお前も、こいつの魔法を再現しているってところか? いや、何かしら改良が加えられているように見えるな。魔法研究家の称号でも持ってるのかねぇ?』
「そんな称号もらったことねぇわ!!」
「やっぱり改良されてるわよねぇ……」
ひぃっ?!
メイプルの怨嗟めいた声がとなりから聞こえてきた。
恐る恐る視線を向けるが、メイプルは言葉とは裏腹に、楽しそうに口角を釣り上げていた。
「全く、まさか自分が地元民の気持ちを味わうことになるとはねぇ……って、私、もう地元民だったわ。ははは……」
「……メイプル」
転生、転移ものあるある。主人公が現地の腕利きや英雄を最初から凌駕する力を持っている。
メイプルは地球での知識と記憶に、サキュバス種のメリットによるアドバンテージを持ったスタートをしているが、俺たちが驚く魔法関連は彼女自身の努力によるものだ。
それを俺がさらっと再現した上に扱いやすいように改良したものを使用できるというのは、面白くないところがあると思う。
だというのに、メイプルは笑っている。
『ありゃ、そっちのお嬢さんも挑発には乗ってくれないのかい』
「あったりまえよ。こっちはもう全部わかった上でこいつに魔法見せてるんだから」
『こいつはたまげた精神力だねぇ! 結構コンプレックスになっていると踏んでいたんだがなぁ』
「えぇ、そうよ。今でも結構悔しい思いをしてるわよ? だから、これを見せるのも本当はしぶしぶってところなのよねぇ」
あれ、おかしいな。
不敵でカッコ良かったはずのメイプルの笑みが、どんどん恐ろしく……邪悪なものへと変わっている気がする。いやいや、そんなはずは……。
『これ? ん? お前が持っている魔法で恐ろしいのは、隠蔽魔法と聖域魔法と、奇妙な片刃剣による魔法剣って聞いてるが?』
「そこまで知ってるなら、いいわ。そうよ、その魔法剣を見せてあげるのよ」
その時のメイプルの顔を言葉で表現するのは難しかった。漫画的に表現するなら、顔面全部ベタで、目元と口元が真っ赤に輝いている感じだろうか。
つまり、目の前の大食いに負けないくらいの殺気をまき散らしている。隣にいる俺へと向けられている訳ではないが、こいつのヤバさをひしひしと感じる。
『え、何これ? 一サキュバスの子どもが出す殺気じゃないんだけれど?!!』
足元のダンジョンマスターが早口に感想を述べた。回復した体力も底を尽きかけているんだろう、もう少し我慢してもらいたい。
そして、大食いに至っては、さらに強くなった聖域魔法で壁に押し付けられ、ようやく戸惑ったように苦悶の声を上げ始めた。
『ちょっと待って……え、何これ? 聞いたのと全然違うんだが……』
「誰から聞いたかは、後で教えてもらうわ……だから殺しはしないわよ……ふふっ」
「あのぉ、メイプル、さん?」
「晴樹」
「あ、はい」
「アンタ、もし剣を持ったら、これを使うといいわ……私も再現できた時は滅茶苦茶興奮したし、姉さんやサキエラちゃんたちも驚いたのなんのって」
「え、うん……」
どうしよう、なんかヤバいスイッチが入っているっぽい。
ちらっとエルナたちを見たら、盾を構えながら、そそくさとダンジョンマスターの影に入っていくのが見えた。
冒険者の勘が囁いたんだろう、今から起きることは絶対にヤベェ奴だと。
俺も逃げたいなぁ、ははは。
「大食いぃぃ……アンタは私を怒らせた……」
メイプルの周囲に収納魔法が展開されたのがわかった。が、その数がおかしい。一つ、二つ、三つ……あれ、なんか俺の周囲にも開き始めて……。
『ははっ、何だいこれは……収納魔法の多重展開だって?!! 馬鹿だろう、ありえない!!! こんなの全く話に聞いてないよ?!』
『嘘嘘?!! 収納魔法をこんなに使えるって、魔力全然枯渇してないじゃない! どんだけ魔力保有してるのよ!!』
「収納魔法、だと? 多重展開だと?!!」
「メイプル、貴女……本当に……」
大食いとダンジョンマスターだけでなく、セイジュさんとエルナも大絶賛(?)するメイプルの魔法。
これから始まる何かが嫌でもわかった。
「っておいこれまさか!!」
「こっからは私のステージだぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「そっちかぁぁぁぁい!!?」
メイプルの咆哮と共に、収納魔法からいくつもの剣が姿を現し、大食い目がけてッ!!
「発射ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
剣先から野太い光の柱が伸びて、大食いに殺到した。
え、発射って、剣を発射するんじゃないの?
どこぞの英雄王とか神になった鎧武者とかみたく、武器を射出する系の必殺技じゃないの?!
『ぐわああああああッ!!!!?』
大食いの絶叫とフィールドの壁が破壊される轟音がフィールド全体に響き渡る。
ある意味で冷静になれた俺は、さっさとサイレントベールをダンジョンマスターの周囲に展開して、自分と味方全員+αの鼓膜への悪影響を防いだ。
床が小さく揺れているが、ベールの外の凄まじい光景からは想像もできないほど静寂だ。何だか、シュールだった。
「この技は……」
「知っているんですか、セイジュさん」
「あぁ。この技は十数年前にふらりと現れた勇者夫婦の夫が使っていた超魔法の記録と似ているところがある。それによると、武具を大量出現させ、高速で相手目がけて放つそうだ。確かその魔法名はゲー」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラアラオラオラオラオラボラオラオラアラオラオラッッッッ!!!!」
エルナとセイジュさんの会話が滅茶苦茶気になったが、メイプルのラッシュ声に掻き消されてしまった。いや、まぁ、うん、突っ込みどころは満載だし、後で問い詰めるけどな。
と、床の揺れが激しくなった。いや、違う。ダンジョンマスターの体が超高速で震えているのだ。
『こ、こんな魔法知らない……こっちの上級魔王クラスの攻撃じゃないの!!』
恐怖と戦慄による震えのようだった。是非もなし。俺もちょっと怖い。
「はははははははっ!! この振動のおかげで小刻みに照射できるわ!!」
『ひぃぃぃっ、怖いっ、このサキュバス怖いよぉ!!』
ダンジョンマスターが再びガチ泣きし始めた。
「無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ァッッ!!! そしてぇットドメぇッ!!!」
勇ましい掛け声と共に、メイプルの手にいつの間にか握られていた真っ赤な刀の切っ先から、一際デカいビームが発射され、大食いを壁ごと飲み込んだ。
数秒後、大穴が開いた壁の前で吹き飛ばされずに堪えていたらしい大食いが姿を現したが、ミスリル合金のゴーレム魔気甲冑は見るも無残な損壊を受け、胸部も宝玉はかろうじて破壊を免れたようだが、カバーは破壊されていた。
「これが私の必殺魔法その壱、魔法剣一斉射撃よ」
展開していた収納魔法を全て仕舞い込み、残心するように刀を正眼に構えるメイプル。同時に、大食いの鎧の各所が爆発した。特撮のロボ戦か。
「あ、ありえん……」
セイジュさんがどうにかそれだけつぶやいたが、それはまたしても俺たち全員の心情を現しているものだ。
いくら転生者サキュバスとはいえ、八歳児が使うような必殺技じゃない。
「まだ終わってないわ。セイジュ、エルナ、今よ!!」
「! あぁ!!」
「わかった!」
メイプルに言われ、セイジュさんとエルナが同時に駆け出した。
「私も魔法剣を使おう!! エルナ、乗れぇぃッ!!」
「はいっ」
勢いよく返事したエルナが、セイジュさんが構えた剣の腹に飛び乗る。
「ふんッ!!!!」
勢いよく振るわれた剣が輝き出したのと同時に、エルナが文字通り目にも留まらぬ速さで跳躍、金色の髪を稲妻のように鋭く煌めかせながら一気に大食いへと迫り、胸部の宝玉に盾をぶつけた。
甲高い破砕音が響き渡り、大食いの体がぐらりと仰け反り、そのまま地響きと揺れを起こして倒れる。
着地したエルナが盾を構え直して向き直るが、起き上がってくることはなかった。
シールドバッシュ。
古来より使われている盾の戦法だ。やり方が無茶苦茶だが、それらしいものを、まさか必殺技として見られるとは思わなかった。
『……あー本当だ、これ、コア破壊されたら動かないねぇ』
突如聞こえてきた声に肩が跳ね上がる。
倒されたはずの大食いが、割と平然とした、というか、呑気な声音で静かにつぶやき、大笑いし始めたのだ。
嘘だろ、あれだけ受けて余裕あんのかよ。
8-4から8-7までを少し変更しました。話の大まかな内容は変わっていません。
夜中のハイテンションって怖いですねぇ……




