8-3 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 交渉決裂、ね!!
遅い。
ダンジョンマスターは入口である鋼鉄の扉、の横の壁を凝視しながら内心やきもきしていたが、そこにぽっかりと穴が開き、招かれた侵入者たちが降り立とうとしているのを見て気を取り直した。
出てきたのは軽装姿の女剣士と、素肌の露出がそこそこ多く、ドレスなのか鎧なのか判断に困るが魔界でも有名な魔気甲冑と呼ばれる防具を纏った騎士風の女性、その二人に守られるようにして最後に降り立った小柄な少女。しかし彼女はサキュバスであり、冒険者らしき女性二人はもしかすれば少女に魅了されて操られているようにも見える。
なるほど、サキュバスの魔法なら姿や気配を隠しながら移動することも可能だ。保有する魔力が魔界出身の中堅魔王クラス並みでないとここまでそれを維持して来れないのだが、どうやらそれも尽きかけているのだろう、ああして姿をさらけ出している。
侵入者たち三人の正体を目にしたことで、ダンジョンマスターは安堵するのと同時に高揚していた。
罠を悉く回避し、魔物たちが不自然に避けるその中心点にいる謎の存在が、ちゃんとした生き物でよかった。
そして……やはり自分の発想は素晴らしいものだった、と。
監視の魔法や見張りを付けず、如何に低コストですばやく侵入者を察知できるかを考えた結果、例え姿や気配を消した暗殺者やシーフだろうと罠を踏めばしっかり発動することに目をつけた。どんなに優れた隠蔽魔法や体術の使い手でも、体重だけは、重力による影響だけは消せず、トラップ発動のためのスイッチパーツや魔法だけを使えば、彼らが歩いている場所や人数もわかるのだ。
しかも、それをダンジョン中の床に設置しても、罠本体がないためコストがとても低く、深い場所にあるため見つかることがない。それでいて侵入者がどこを何人で歩いているのかを即座に感知できるのだ。
これまでの常識を超える斬新かつ革命的なこのアイデアを、どうして誰も思いつかなかったのか!
魔力・気配察知とそれらを掻い潜る手段の模索というイタチゴッコを嘲笑う、究極の一手!!
魔物よりも人間よりも、そして魔界よりも先に見つけられた、最強無敵の侵入者対策!!!
これを学会で発表すれば、そうすれば――自分を、自分の理想と情熱を捧げたものを馬鹿にした奴らを全員見返せる!!!
……あれ? ゴーレム、関係ないような。
否!! この機能を改良したパーツをゴーレムに搭載すればいい。アイデアは泉のように湧いてくる!! 二重の意味で見返せる!!!!
ダンジョンマスターは内心興奮しながらも、それを表には一切出さず、自分を見上げる侵入者たちへ視線を向ける。
彼女たちは緊張してはいるものの、怯えた様子はない。
余程肝が据わっているのか、戦えるだけの自信があるのか、それともただのバカなのか。
と、サキュバスが二人の間からそっと抜け出し、一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
「問いましょう、アナタがこのダンジョンのマスターかしら?」
幼いながらも、強い意志を感じさせる声音だった。
見上げた根性だと感心しながら、マスターは鷹揚に頷いてみせた。
『如何にも』
「ふぅん? どうしてそんな大物さんが、わざわざ私たちをここに招いたのかしら?」
『お前たちが姿も見せずに城を好き勝手に踏み荒らすからな、少し面を見てみたくなった』
「つまり、ちょっと興味が湧いたから呼んだってところでいいのかしら?」
『その通りだ』
ちょっとどころか、大いに興味が湧いた。
長期間、魔物を近づけさせず、罠を発見するための魔法や技法を併用しながら、複数人の声姿や気配、魔力さえも完全遮断してみせる正体不明の侵入者。最初こそ不安に思ったものの、自分の発想の正しさを証明できた上に、正体はサキュバスの子どもと上級と駆け出しらしき冒険者の二人組。
自分ならば、この程度の混成パーティーなど、なんら恐れることはない。
実の所、戦うのはあまり好きではないが、もう少し自分の情熱の実験に付き合ってもらおう。
別に殺しはしない。一か月かけて作り上げたこの新作の能力を試させてもらうだけだ。嫌とは言わせない。
それが、この城に足を踏み入れた者の義務だからだ!!
「――とまぁ、こんなところかしらね」
『ん?』
「気にしないで。ところで、用事が終わったのなら帰ってもいいかしら? 私たち、ちょっと探し物をしてここまで来ただけで、別に魔物たちを傷つけていないし、アナタと戦う気はないから、そこの出口を開けてほしんだけれど」
『それは出来ぬ相談だな、小さきサキュバス。理由が何であれ、私の城に足を踏み入れたからには……、その身に有り余る力を示してしまったからには……、私が招いたからには、少しくらい実け……戦わなくてはなるまい?』
「つまり、私たちが勝てば晴れて解放、負ければデッドエンドってところかしら?」
『その通りだ』
「なるほど。じゃあ、最後に一つだけ聞いても?」
『いいだろう』
「どうやって姿の見えない私たちに気が付いたのかしら?」
『私が作り上げた特殊な仕掛けを用いた、とだけ言っておこう』
「どんな仕掛けかしらねぇ……自分で考えたの?」
『そうだ』
「例えば、頭に閃く不思議な景色や知識とか、そう言うのからヒントを得たとか?」
『はぁ? 何だそれは? 私の装置は私が自らの頭脳と技術で作り上げ、改良したものだ。侮辱するようなら少しばかり実験の増加……ではなく、本気で行くぞ!』
「OK、理解したわ。交渉決裂、ね!!」
メイプルが言い切るのと同時に、ダンジョンマスターの体を駆け登った俺は、胸部に煌めく宝玉へ籠手を装備した拳を叩き込んだ。
『――――――え?』
甲高い破砕音の後、間の抜けた声のダンジョンマスターがその動きを完全に停止した。




