8-1 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 ダンジョン最下層よ
セイジュさんと出会ってから一悶着あったが、俺たちは足早に来た道を戻っていく。
しかし、もう少しで八階層へのスロープが見えてくる、となったところで、一つ問題が発生した。
件のチャージゴーレムの反応が動かないのである。
いや、正確には動けないのか。
メイプルと俺の聖域魔法が干渉し合った結果、その効果範囲が倍ぐらいに広がっていたのだ。そのおかげで、俺たちと共に移動した聖域の影響を受け、壁際や行き止まりにいた魔物たちが身動きできなくなっていることにさっき気が付いたのだ。
哀れというか、件のゴーレムがいた場所は一本道だったが故に、増幅されて迫ってくるカーテン・サンクチュアリに急かされるようにスロープ前まで退避せざるを得なくなり、そのまま壁にぴたりと張りつけられるようにして動けなくなったのだ。
「つまり、聖域とダンジョンの壁の板挟み状態なのよねぇ」
「一体どんな魔法だそれは?!!」
メイプルからそんな説明を聞いた俺とエルナが「まただよ」、「またそんな事を」と呆れ、クッコロさんはそれはもう素っ頓狂な声を上げた。
エルナの反応がもう薄くなりつつあるが、本来、こっちの反応が大多数なのだ。恐るべし、メイプル。
なんてやっていた、次の瞬間のこと。
俺たちの足元が、突然崩れ落ちた。
「「「「なぁッ?!!」」」」
全員の声が綺麗にハモりながら猛スピードで真っ暗な中、斜面を滑り落ちて行く感覚に襲われる。
「ウインド!!」
咄嗟に放ったメイプルの風魔法のおかげで、全員の滑走速度が緩くなり、続いて明かりの魔法で内部が照らされると、摩擦がほとんど起きないであろうツルツルの内壁が目に入ってきた。
「っ晴樹、この下はどうなってる?」
「……えぇと、わからん。ずっとずっと下に続いているみたいだ」
螺旋状になった滑り台と言ったところか。今のところ終点が見えることはないが、果たしてどこに出るのやら。
「ほら見ろ! 私一人ならこうならずに済んだ!」
「帰るどころかチャージゴーレムにぶっ飛ばされて人生終了だったわよ?」
「そんなことはない! 見つけ次第さっさと近づいて抑え込めばいい。チャージなどさせるものか」
「どうする晴樹、この子、すごい勢いでフラグを建設していくんだけれど……」
メイプルも呆れ半分の引きつった笑みを浮かべる。俺も同じ気持ちだ。きっとそのゴーレムは押さえつけられても、弱点の宝玉に三つの魔石を近づけて大爆発を起こすに違いない。
冗談はさておき、どうして落とし穴にはまったのか、そしてこれからどうするかを考えないといけない。
と、他フロアの階層と階層の間の構造がふと目に入る。落とし穴や突き出る床などのギミックが埋もれているよりもさらに下……下層の天井近くをトラップ発動用スイッチが道なりに並べられているのが見えた。かといってそれが何かを作動させている様子はない。
しかし、それを俺と同様に見えたメイプルが「ふぁっ?!」と吹き出し、ついには笑い始めた。
「どうやらここのダンジョンマスター、相当ヤバいみたいよ」
「何?」
「どういうこと?」
「ダンジョンマスターは皆強力かつ強大な力を持っているぞ?」
「それはそうだけれど、そうじゃなくて、知能というか発想よ。多分ダンジョンマスターは最初から私たちの存在に気が付いていたみたいよ?」
衝撃の発言を受けて俺とエルナが絶句するが、セイジュさんは「そうなのか?」と首を傾げる程度だ。
「晴樹、アンタにも見えているそのスイッチ群ね、他の階層にもあるでしょ。それ、恐らくというか、ほぼ確実に重量センサよ」
「ぶふぅっ?!!」
あまりにも無慈悲な言葉に、俺も思わず笑いが漏れた。漏れてしまった。いやもう爆笑だわ。
急に大笑いし出した俺たちに、セイジュさんが肩を跳ねあがらせエルナを見るが、彼女も驚いてはいるものの、やはり何かしらあると思ってくれているらしく、見守ってくれている。
「マジでか、え、マジなの?!」
「えぇ、マジよ」
「二人とも、どうしたの? 一体どんな罠なの?」
「重量センサ。この場合は、踏んだら何かしらの罠が発動するスイッチだけをダンジョン内に並べて、その場所を誰かが通るとダンジョンマスターか誰かが反応を受け取り、歩行者がどこをどう進んでいるかを把握できるっていう、目に見えない罠ね」
「なんですって?!」
エルナだけでなく、セイジュさんも絶句。二人ともメイプルの言っていることが即座に理解できたようだ。
重量センサの一番わかりやすいイメージは、スパイ映画などで主人公たちが天井からぶら下がって目的の物品をくすねる時、部屋の床についていて、汗一滴でも落としてしまったが最後、警報が鳴り響き、他のトラップが発動するなどするアレだ。
「まさか、こんなものを作っているマスターがいるなんてね。きっと、猛烈な速度で罠を回避しながら進む私たちに興味を持ったってところかしら」
「なぁ、下手したら要注意因子として処分されね?」
「否定はしないけれど、その場合もなんとかできるから安心なさい。それより、下手してマスタールーム直行だと色々まずいかもしれないわね」
「マスタールーム?」
エルナとセイジュさんが首を傾げる。
処分されるよりもまずい展開に不安があるのだろうが、字面からしてそこがどんな場所かは予想できる。
「えぇとね、ダンジョンマスターがいるのが最下層の部屋よね。でも、実はそこが最奥じゃなくて、マスターが私生活を送るための部屋があるのよ」
「嘘?!!」
「初耳だぞ?!!」
「そりゃそうよ、これを知っているのは恐らく一部のエルフと一部の魔族くらいだし。あ、これは他の冒険者っていうか、人間には話しちゃだめよ? 普通はマスタールームなんていくら探しても出てこないでしょうし、ムリに探索しようものならダンジョンマスターが激怒するでしょうし」
じゃあ教えんなよ、と思いたいが、何かしたら意図があって二人には話しているのだろう。
というか、ダンジョンのトップシークレットを知っているこのサキュバス幼女は本当に何者なのか。実はダンジョンを経営していましたとか言われても納得できそうだ。
「とりあえずギリギリまで降りてみましょうか。もしマスタールームだったら、聖域魔法で相手も下手に近づいてこれないでしょうから、私が説得するということで」
「殲滅部屋だったら?」
「私と晴樹の聖域魔法の効果範囲でフロアにいる魔物が全部壁に押し付けられることになるだろうから、煮るなり焼くなりどうぞ……と言いたいところだけれど、さっさと出口から逃げるに限るわね。無駄な殺生は避けるに限るわ」
「どこまでも規格外なサキュバスだな、君は……」
セイジュさんが諦観の表情になるが、エルナは慣れているため「わかった」とだけ返した。
話がまとまったところで、セイジュさんの鎖を解き、風魔法の効果を緩めて恐る恐る滑り降りていく。いつ出口に着くか、またその先はどうなっているのかという不安や恐怖はあるが、無理やり道を戻っても、同じことの繰り返しだろう。今はメイプルと俺の魔法である程度の安全は確保できるので、このまま先に進んでしまったほうがいい。
セイジュさんにそんな話をしたらまた呆れられたが、緊張感は少し和らいだ気がした。
そして、緊張しながらも各自がいつでも何かしらのアクションが取れるような状態で、二十七階層に到着し、少し過ぎた辺りでメイプルが再びブレーキをかけた。
俺の目にも、出口とその先の構造が見え……そして、その下に続くフロアはない。
「着いたわ……二十八階層、タガネルダンジョン最下層よ」
晴樹「マ○オ6○思い出した……」
メイプル「あれ、テレビでやってたから印象深いわよね。これはどっちかっていうとプールのスライダーだけれど」
晴樹「全然楽しくないけどな!!」
晴樹・メイプル「ははははははははははっ!!!!」
エルナ「表情も言葉も滅茶苦茶楽しそうだけれど……」
セイジュ「こんな状況でも笑っていられるとは、何なんだこいつらは……」




