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サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者  作者: 胡桃リリス
第一章 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者
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7-7 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 フラグ力


「アンタ自分の容姿くらいは理解しているだろ。知らん奴が今の装備のアンタを見たらそう見えるっての」

「うぐっ、それはそうだが……だが、だからと言ってこの装備に問題あるまい!」


 いや、問題大有りだっていうの。


「……アンタ、もしここに来たのがエルナや俺たちじゃなくて、暴漢だったらどうした?」

「何? そんなもの、何人来ようが一網打尽にしてくれる」

「もしできなかったら? 今だってそうだ。突っ走って判断力を失ったからアンタは罠にかかり、身動きも取れず、結局は俺たちに為す術もなかった。そして放った言葉が「辱めを受けるくらいなら殺せ」だろ?」

「ぐっ……?!」

「俺の故郷じゃぁ、そういう油断した姫騎士や女騎士の末路を描いた教訓本がたくさんある。そして、その本の中でそいつらが暴漢とか怪物相手に決まって言うセリフが、『くっ、殺せ!!』なんだよ!!」

「うぐぐぐっ?!!」

「だからアンタをクッコロさんって呼んだんだよっ!!!!」

「ぐはぁぁっ!!!!!!」


 セイジュさんが大きく体を仰け反らせ、吐血をせんばかりに呻いた。傍から見たらどこぞの最高にハイになっている吸血鬼のポーズであるが、そこにあるのはカリスマ(笑)を持ったクッコロ冒険者である。


「何でガチプロの冒険者相手に説教してんのよアンタは……」

「俺も自分で何言ってんだろうって思ったけど、ついカッとなってやった。反省はしているが後悔はしていない」


 実は、途中から流石にセイジュさんだけじゃなくて、エルナやメイプルからも「素人が何ぬかしてるんだ」と怒られると思っていたんだが……何故か二人とも「あぁ、ですよねー」という顔をしていた。

 エルナに至っては「やっぱり異世界人でもそう思うんだねー」と言わんばかりに遠い目をしていた。どうやら、後輩たちの間でも彼女の装備に関しては色々言いたいことがあったようだ。


「それよりもセイジュさん。今は八階層まで戻りましょう。私たちも着いていきます」

「お前たちは啓示を受けてきたのだろう? 私の事はいい、先へ行け。もうトラップには引っかかることはない」


 即座に復活し、気負うことなく言ってのけるセイジュさんは、やはり先輩冒険者としての貫録がある。エルナが三日間ぶっ通しで驚いている俺やメイプルのアレコレを聞いてもオーバーリアクションせず、自分たちの目的のために動けと言ってくれるのだから。

 クッコロ呼ばわりしてすみません。


「何せ帰ったらやらなくてはいけないことがある。チャージゴーレムにさえ当たらなければどうということはない」

「やっぱり俺らで送ります」

「え?」


 今、セイジュさんが余計なひと言を発した瞬間、遠くの方で巨大な存在が八階層へ続くスロープ近くに移動し始めたのだ。もしかしなくてもチャージゴーレムだった。

 メイプルも同じように感じ取っているため、俺の意見に頷いてくれる。

 まさか、フラグ力がリアルで働くところを見られるとは思わなかった。


「今、チャージゴーレムが八階層へ戻る道に向かって動き出しました。行ったらほぼ戦闘になりますよ?」

「何、わかるのか?!!」


 驚愕するセイジュさんだったが、すぐに真顔に戻る。


「私一人なら隙間を縫って脱出できる。何心配するな。それに、私も上級冒険者に認められているくらいには強い。逃げられなかったとしても、別に倒してしまっても問題あるまい」


 キリッとした顔でさも当たり前のように最大最悪のフラグを言ってのけてくれやがった。


「それに、妹や弟が待っている。妹が作ったサンドイッチを食べるんだ。ふふっ、メイドたちにスモークを手伝ってもらうとも言っていたんだ。美味しいだろうな……そうだ、この前獲ったキノコも乗せてもらおう」


 俺とメイプルは揃って天井を仰いだ。

 パーフェクトだ、セイジュさん。あまりにもパーフェクトすぎて、フラグ(ぢから)がダンジョンというコンバーターを通してフラグ回収のために色々準備し始めているイメージが脳裏を過った。どれだけフラグの力を蓄えてんだよアンタは。


「メイプル」

「ええ」


 メイプルが指を鳴らすと、セイジュさんの両手両足が突如出現した鎖で縛りあげられた。バランスを崩しながらも受け身をとった彼女から当然怒声が飛んでくる。


「うわっ?! な、何をするんだ!!」

「いいからアンタは少し黙ってなさい」


 次から次へとフラグを乱立させてくれる。

 やっぱりこの人はクッコロさんでいい。


「エルナ、見ていないで助けてくれ。なんでか知らないがほどけないんだ!!」

「セイジュさんがほどけないのに私じゃどうすることもできません」


 俺たちの行動に驚きながらも、何かしら意味があると受け取ってくれたんだろう。エルナは半ばあきれながらセイジュを抱き起し、よいしょっと肩に担いで見せた。身長差三十センチくらいあるだろうに、流石は冒険者。

 というか、セイジュさん、鎖解けるんだな。恐らく身体強化を使って強引にぶっちぎるつもりだったんだろう。相手がメイプルじゃなきゃ、上手く行っていただろうな。


「あ、こら、エルナ、降ろしてくれ!」

「安全地帯前で降ろしますから、我慢してください」

「やめろー! やめろー!! こんな恰好恥ずかしいだろう!!」


 あぁ、確かにな。

 ドレスアーマーで手足縛りとか本当にどこの薄い本展開だよ。


「あ、つまりこれさっきのクッコロフラグを回収したってことか」

「なるほど、平和な回収方法ね」

「よくわからないが全然平和じゃない!! おーろーせー!!」


 わめくセイジュさんことクッコロさんを無視して、俺たちは八階層の調査隊まで彼女を届ける、もとい、救助したという恩を売りに行くことにした。

 BGMは子牛を売りに行く系の歌(旧Ver.)である。


「ハルキ、その歌は何?」

「生命讃歌」

「……。……えと、讃歌の割にすごく暗いメロディなんだけれど……」

「命の儚さと人間のエゴが詰まった歌……つまり、これもまた生命讃歌なんだよ」

「ごめんなさい、理解できそうで全然理解できないわ……」

「つまりあれよ、自分がどれだけエゴにまみれて醜く見えても、自分以外の世界の全てが美しいと思えるその瞬間……つまり、ビューティフルな世界」

「それと私が身動きできないこの状況とどう関係があるんだ?!」

「これはエゴなのよ、セイジュ」

「自覚しているならさっさと降ろせぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 サイレントベールに包まれたクッコロさんの怒声が、俺たちの耳朶だけを震わせた。



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