7-6 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 魂の突っ込みとクッコロさん
とりあえず助けるか。
エルナに目配せをしてから、ウインドで網の根元を切り裂く。自由落下で落ちてくる女性をもう一度ウインドで勢いを和らげていると、エルナが網ごとその体を受け止める。
その瞬間、網が外れてその顔が明らかになった。
すごく綺麗な人だった。銀色の髪の毛なんて初めて見たし、ぎゅぅっと閉じた目が開かれ、ダンジョンの薄明かりを受けて淡く輝く瞳は天の川を彷彿とさせる美しい青色だった。
そんな絶世の美女に一瞬見とれていたが、目を見開くのと同時に、彼女はカッと叫んだ。
「敵に捕らえられて屈辱を受けるくらいなら……くっ、殺せ!」
「「アンタ姫騎士かい!!」」
俺とメイプルの魂の突っ込みがハーモニーを奏でた。
まさか、リアルでそのセリフをそれっぽい恰好をした美少女から聞く羽目になろうとは思わなかった。
エルナも呆れたような表情と視線で腕の中の冒険者を見下ろし、ゆっくりと彼女を立たせた。
そこでようやく彼女に気が付いたらしい女性が、きょとんとした表情で目を瞬かせる。
「大丈夫ですか、セイジュさん」
「え? あれ? エk」
「セイジュさん、私です」
「え? あぁ、えと、そう、エルナ?! 何でこのダンジョンにっていうか、九階層にいるんだ?! いくらお前でも、ここへ来るにはまだ早いぞ! っていうか魔物が近くに……」
セイジュと呼ばれた冒険者が慌ててエルナに詰め寄るが、すぐにこちらに気が付いて、視線を向けてきた。
「あの子たちは、お前のパーティー……なのか? いや、一人サキュバスの子どもが入っているじゃないか!! お前か、重厚な魔力を隠していたのは!!」
「いえ、隠してないわ。アンタが感じているのは氷山の一画の一部の一部、そのまた一部にしか過ぎないかもしれないわね」
「意味がわからない!!」
平常心が犠牲となったセイジュさんがくわっと興奮気味に突っ込んできた。メイプルェ……。
予想はしていたが、やはり魔力タンクだったか。エルナが驚く魔力の量はそこからきているのか。
「嘘に決まってるじゃない」
「いまさらそんな話を信じられるか!!」
俺もそう思う。
「と、ともかく、どうしてサキュバスの子どもと一緒にいるんだ?! そっちの青年……いや、少年か? 彼もお前もそのサキュバスに魅了でもされたのか?!」
「安心してください、彼女は味方です。証拠は、そうですね、セイジュさんが捕まっている場所を教えてくれました」
「教えました。後、私はサキュバスだけれど危害を加えない人間をどうこうする気は全くないから安心してほしいわ。男だろうと、女だろうとね」
「そ、そうなのか? 変わったサキュバスだな……」
呆気にとられながらも二人の発言を信じたらしい。
「……ふむ、本当に魅了されていないみたいだな」
「あら、分かるの?」
「私の知り合いに詳しい奴がいてな。そいつから見分け方を教わった」
メイプルをちらちらと観察した後、俺へと視線が移る。
うぅん、なんかこっちに来てから美人さんと対面する機会多くなってるな。まぁ、いいけど。
なんて考えてたら、いきなり睨まれた。それからちょっと身をよじって、庇うように
「あ、あまり見ないでもらえるか?」
「じゃあそんな装備しないでくださいよ! 俺じゃなくても色目で見られますって!!」
「ぅ……確かに、君の言うことも一理あるな」
自分の体を見下ろしたセイジュさんが指を鳴らすと、瞬時に装甲の隙間から衣服が出現し、先ほどよりも露出が減った。
「「ドレスアーマーだと……?!」」
再び重なる俺とメイプルの戦慄の声。
文字通り、ドレスの上に、もしくはそのものをイメージしたインナーや鎧で構成された装備のこと。こちらもエロ漫画やエロゲーで見られる。特に姫騎士とかヒロインが装着している。そう言う場合、中途半端に破損する場合が多い、という余計な情報は置いておくとして、令嬢や王女様の装備としては見栄えもいいし、まぁまぁいいのかもしれない。布地の出し入れができるのも、色々と便利そうだ。
まぁそれが、胸元が大きく開いていていたり、そこを覆う胸鎧がさらに渓谷を強調していたり、お腹の部分も相変わらず素肌が見えていたり、スカートが前部分だけ短かったりなど、していなければの話だが……。
つまり、先ほどよりも露出度は減ったが、抜群のスタイルがそこはとなく強調された不思議な魅力が溢れ出してヤバい。どうヤバいかというと、つまり水着同然の姿をみるよりも何だかこう、エロくないのにエロいというか、すごく可愛いというか、綺麗と言うか、何と言うか。
「これなら、うん、大丈夫だ!」
「大丈夫じゃない、大問題だっ!」
「えぇっ?!」
俺の心からの叫びにセイジュさんは目を白黒させる。メイプルとエルナだけは俺の言わんとしていることがわかるらしく、「あー」とか「そうよね」とか頷いている。
「何を言っているんだ? こう見えても魔気甲冑だ。見た目からは考えられないほどに防御力も耐久力もある」
「その見た目が大問題だって言っているんですよっ! 目のやり場に困りますって!」
「馬鹿な……この程度など、社交場の淑女たちのドレスの方がもっと色気がある!!」
「何でアンタ社交場の淑女のドレス知ってるんだよ?!!」
「私が上級冒険者だからに決まっているだろう!!!」
「つまり、アンタは……貴族並の待遇をされる、と?」
「そうだな。それに、上級冒険者の中には騎士に叙勲された者もいるぞ」
「……一世限りの名誉貴族か。アンタも騎士に?」
「ふんっ、だとしたらなんだ?」
「やっぱりアンタ姫騎士じゃねぇか!!!」
「ッ?!! い、いや、姫騎士は言い過ぎだろう!! たかだか上級冒険者だぞ!!」
いかんいかん、つい熱くなりすぎてしまった。
十八禁コーナーで鍛えられているはずが、実際にこんな超美人のドレスアーマーを前にして動揺してしまうとは……。
仕方ねぇじゃん、男だもの。By.晴樹。
本人がいいならまぁ別に何も言わないが……とりあえず、本格的に気持ち悪がられる前にエルナへバトンタッチだ。俺とメイプルは引き続き周囲の警戒でもしてるかな。
「しかし、エルナ。本当にどうしてまたこんなところに潜っているんだ。それも、見るからに素人とサキュバスの子どもと一緒に未踏階層なんて正気の沙汰じゃないぞ」
「実は、それについて少しお話がありまして……」
エルナが俺とメイプルの事情を転生や転移などは除いた一部始終、つまり故郷から遠く飛ばされてきたをかいつまんで話すと、セイジュさんは驚きで目を見開き、それから何やら思案するような仕草と表情で俺を凝視し始めた。
そんなに見つめられると照れるぜ。
「……ふむ、まぁ今はいいか」
一人で何やら納得してしまったセイジュさん。いや、だから重要そうな事をどうして誰もカミングアウトしてくれないのか。
もどかしく思う俺を他所に、エルナがセイジュさんへポーションを渡しながら質問を投げかけていた。
「それよりもセイジュさん、どうしてこんなところで罠にかかっていたんですか?」
「あー、えぇと、それはだな……引き際を誤って、ダンジョントラップにひっかかってしまったんだ」
「はい?」
俺たちが首を傾げると、セイジュさんはこほんと咳払いして、凛とした佇まいはそのままに、頬を少しだけ羞恥に赤らめ、
「一昨日あたりから十五階層あたりまで潜っていたんだが、その、ダリアが昨日、最下層まで目指すと言ってな? 彼女と競争するように進んでいたら、ポーションが付きかけたんだ。それでも進もうと思ったが、ダリアの奴は先に行ってしまうし、ポーションは本当に底をつくしで、仕方がないから八階層まで戻ろうとして……」
「つまり、ムリして進んだせいで疲労困憊して、誤って捕縛網の罠を踏んでしまった、と?」
エルナの捕捉を聞いて、俺もメイプルも白い目をセイジュさんへ向ける。当の本人は居心地が悪そうに目を逸らした。
「セイジュさん、師匠たちが聞いたら嘆きますよ?」
「わかっている! 私もしっかり反省している!!」
どうにも、セイジュさんは熱くなりやすい性格らしく、エルナの師匠たちからも注意されていたため、普段はちゃんと判断して引き際を見極めることができるのだそうだ。
だが、今回は昨日ダンジョンにやってきた知り合いの冒険者がさっさと進んでいくため、負けず嫌いなセイジュさんは無理をしてついていこうとして、気が付いた時にはこれ以上進むのは難しいという状況になっていた。引き際を見誤り、肉体的なダメージはともかくとして、精神的に疲労困憊だったため、まだ調査途中のため発見されていなかった捕縛網のスイッチを踏んでしまい、あの場面に至る、ということだった。
ちなみに、ドレスを引っ込めていたのは網を破るのに邪魔になりそうだったから、らしい。もしそこに魔物が来たら防御面で危ういし、変な輩がやってきたら大変だっただろうに。
なるほど、彼女は確かに実力もあるし、魔気甲冑という聞くからに凄そうな武具も身につけているし、馬鹿でもない。ただ、熱くなりすぎてピンチに陥ってしまった、と。
そして先ほどのあのセリフと今の格好ときた日には……。
「クッコロさん……」
「ぶっ?!!」
「よくわからないが馬鹿にされていることだけはわかるぞ?!」
セイジュさんことクッコロさんが顔を真っ赤にして憤慨している横で、メイプルが顔を背けて震えていた。
いやもう、そんなあからさまな格好をしていて「くっ殺せ」発言なんてもうギャグとしか言いようがないと思うんだが……。




