7-5 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 魔気甲冑(ビキニアーマー)
メイプルの自動筆記によるオートマッピングで九階層の地図が進めば進むだけ記されていく。この世界に来て最初の夜にオタマを動かしていたのと同じ魔法かどうかはわからないが、俺もこれから使えるんだろう。王都の辺りで試してみるかな。
それはさておき、地図を少し覗かせてもらったところ、このフロアの罠は概ね侵入者に大けがを負わせるか、さもなくば即死させるだけの威力を持つものが多いようだ。中でも酷いのは大岩転がしだ。某考古学者映画の一作目を思い出すが、その大岩が実は丸まったゴーレムらしくて、例え避けたり壁に突き当たったりしても、その場で変形して襲い掛かってくるらしい。
ダンジョンマスターは嫌がらせだけ好きなでなく、エンターテイメントの心も持ち合わせているらしい。そのアイデアを是非殺生ではなく、人魔問わず世界中を楽しませる方面で使っていただきたい。
「そんなダンジョンマスター聞いたことないわ」とエルナに呆れられた。
「いてもいいんだけどなぁ……」
「いたとして、じゃあどうやって説得するのよ?」
「ダンジョンに人を集めたいなら、いっそ、ここをダンジョン・テーマパークにすれば滅茶苦茶人が集まるって感じか?」
「なるほど、冒険者だけじゃなくて一般人も集まりそうね」
「そんなことをしてどうするのよ……」
メイプルは至って乗り気だったが、エルナには終始首を傾げられてしまった。是非もなし。
当然というべきか、エルナはメイプルの地図作成の方に興味津々だった。
「本当に凄いわ……こんなに精巧なダンジョン地図、見たことない」
「フフフ、凄いかしら?」
「えぇ、これなら調査隊やギルド、うぅん、王国が大金を出してでも手に入れたがるわ」
「でも売らないけれどね」
「恩は押し売ります」
「ここぞと言うときに助力してもらえるように!」
「二人とも、案外たくましいのね……」
メイプルの地図は簡易的な二次元図だが、どこにどんな罠があるかというものから、出くわすであろう魔物についても空きスペースに書き記されており、まさに攻略本の一ページだった。
「ネットとかなかった子ども時分は、本当に手書きでダンジョンの地図を作ってたものよ」
「あぁ、わかる」
妹がノートに手書きでダンジョンの地図や情報を書き加えていくのが好きで、俺もその手法を採用していた。その方が頭に入る上、ノートの取り方もうまくなるという副次効果付きである。
「攻略本は甘え。ただし、マ○オの八面とド○アーガの塔は許す」という俺の両親の教えである。何でも、二人が若い頃は本当に攻略本がなかったため、自然とそんな方法をとっていたとのこと。事実は知らん。
閑話休題。
しばらく地図や設置されている罠を見ながら歩いていると、突然、悲鳴としか取れない響きを耳が拾い、メイプルとエルナも顔を上げた。
「おい今のって……」
「メイプル……!」
「えぇ、急ぎましょう。もう少し行った先で、冒険者が罠にかかったみたい」
「おいおい、やべぇじゃねぇか!」
「魔物に関しては、うん、まだゴーレムたちは近くにはいないけれど、妖精が一人いるわね。きっとからかわれてるわ」
「ほのぼのとしてんなぁ」
ともかく、俺たちは急いで冒険者の下へと駆けだした。俺たちが冒険者に近づけば近づくほど安全性が高まる。妖精の子には悪いが、少しだけ離れていてもらおう。
「そこの角を曲がった先よ!」
メイプルの指示通りに角を曲がると、天井からぶらさがっている、膨らんだ捕縛網を見つけた。逃れようともがいているらしく、激しく揺れ動いている。
「女の子? うん、女性みたいね」
「流石はサキュバス!」
離れていても性別のチェックは余裕のようだ。
「助けるけれど、独りでに網が解けたって感じで、こっそりやるわよ」
「ちょっと待ってメイプル」
エルナが待ったをかけ、激しい振り子運動をしながら何か焦った声を出す冒険者を注視する。
「ごめんなさい二人とも、できれば私が立ち会って話をするから、少しだけ隠蔽魔法を解いてくれるかしら?」
「知り合いなのか」
「えぇ、私の先輩よ」
この階層でエルナの先輩ということは、中級以上の冒険者で間違いない。彼女の師匠とやらが恐ろしく凄い人というのはその話しぶりから何となく想像がつくため、きっとあの冒険者も名の知れた女性なのだろう。
ただ、エルナが言うには、捕縛網にかかったら無暗に動かず、冷静に刃物や魔法を使って脱出すればいいらしいのだが、どうしてあんなにもがいているんだろうか。無暗に動くのは初心者の時くらいと聞いたのだが。
「……中級以上の冒険者でも、絡まるのか」
「エルナ、言われた通り、あの子にだけ私たちの姿が見られるようにしたわ」
「ありがとう、流石ね」
「ナイスコントロール」
エルナを先頭に他の罠を避けながら近づいていくと、冒険者の様子がはっきりと見えてきて、俺とメイプルは思わず「ぁ」と声を出してしまった。
「?! 誰かいるのか?!」
年若い女の子の声。エルナと同じか、少し年上くらいか。
それよりも、彼女の装備が気になって俺とメイプルはそれどころじゃない。
「なぁ、魔物に襲われて装備が壊れたのか?」
「うぅん、あれ、魔気甲冑よ。だから、あれがれっきとした装備」
「なん、だと……」
「男? な、魔物もいるのか! くそっ、なんてことだ……!」
俺たちのぼそぼそ話を聞きとったらしい冒険者が悪態をつく。声はともかく、メイプルが魔物ということを碌に見もせずに見破るとは、流石はエルナの先輩。罠に引っかかっても、かなり出来る方のようだ。
問題は、その装備だ。
エルナもそうだが、冒険者たちは基本的に素肌を出来る限り隠すような服と装備を身につけている。ラノベやエロ漫画のファンタジーのような、ミニスカだの露出の高い装備を付けているものはラベルでも見たことがなかったし、防具店でもそんなあからさまなものは存在していなかった。
現代地球でも、登山をするのに都会を歩くようなラフな格好で行くことはないのと同じで、草木や虫刺されから魔物による攻撃、気象など、あらゆる脅威から身体を出来る限り守るためだ。
だと言うのに、目の前の女性はあろうことにも……ビキニアーマーを装備していたのだ。
ビキニアーマー。
わかりやすく言うと、ビキニのように胸と股間あたり、それから肩や腰辺り、後は膝下を防御に適した布や鎧で覆っただけの装備。ド○クエⅢの女戦士を想像したらわかりやすい。あれだ。今更説明の必要もないくらい、超有名な装備になってしまった。
昨今の青少年漫画から完全な青年向け漫画、エロ同人、エロゲーに至る幅広く活躍するアレだ。
まさか、それをリアルで装備している異世界の住人と遭遇するとは思いもよらなかった。最初は魔物や罠に武具を壊されてインナー姿になっているのかとも現実逃避していたが、メイプル曰く魔気甲冑……つまり、ガチの鎧だった。
いくら中級冒険者でも、ダンジョン、しかも未踏階層をそれで進むというのは如何なものだろうか。それだけ腕に自信があるということなのか。だとしても、油断して恐るべきあの展開になるという恐れはなかったのだろうか。それも覚悟完了してしまっている玄人(?)なのだろうか。
なんてことだ、とはこっちのセリフだ。そんな装備で本当に大丈夫か。
などと脳内でコメントを吐き出している間にも、エルナが声をかけようとしていたが、その暇もなく、もぞもぞと動きながら冒険者は威嚇を続ける。
「何者かは知らないが、私をいやらしい視線で見るな!」
「じゃあそんな装備すんなよ」
いつもラノベやエロ漫画のヒロインが主人公や男キャラにそう言う時、イラストでは大体素肌成分が多めな衣装になっているため、俺はその度にこの言葉を心の中で投げかけていたが、まさか現実で突っ込む日が来るとは思わなかった。
まぁ、ちょっと? うん、ちょっとは見たけど? うん。男の子だしと言い訳はしないけどさ。
ただ、本当にそこまでやましい意味では見てないから。




