7-4 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 凄い魔法使いサキュバス
大変お待たせしました。
ダンジョンアタック開始から思っていたことがある。
このダンジョン、冒険者がいないな、と。
エルナは、野営組がいるとか言っていたのだが、それにしてはあまりにも静かだし、地図を見る限りキャンプができそうな安全地帯はない。
そもそも、ここのダンジョンマスターの嫌がらせトラップは元より、魔物が徘徊する迷宮で野営というのも修羅の所業。
それについてエルナに聞いてみると、野営しているのは調査隊やギルドで依頼を請け負った冒険者だけで、八階層あたりで大キャンプを構成しているという。魔物避けの魔法や香を使っているそうで、九階層以下へ潜っている者たちはそこを拠点にして活動するため、補給や伝令以外の人間は中々表層には戻って来ないらしい。ちなみに、ゴーレムには魔物避けの魔法が効かないので、魔法やら罠やらを駆使して見つからないようにしているらしい。やはりゴーレムは一筋縄ではいかない、危険な存在だった。
しかし、カーテン・サンクチュアリはゴーレムにもしっかりと効果を発揮し、彼らの方から遠ざかってくれたおかげで、俺たちは全くその姿を見ることなく進めたのだ。やはりメイプルの魔法すげぇ。
「こんな風に安全に素早く進めるダンジョンアタックなんて前代未聞過ぎて、私、どういう反応したらいいかわからないの」
「笑えばいいと思うよ?」
遠い目をするエルナに、俺はそう告げてやるしかなかった。俺よりも断然格上のはずのエルナにこんな言葉をかけるという、シュールな光景。
その原因を作っている最強転生サキュバス幼女は無表情に「大丈夫、貴方たちは私が守るもの」などと声真似して遊んでいる。存外似ているのでびっくりした。
「ゴーレムが出てきたら、とりあえずコアか魔法陣狙って狙撃すればいいから」
「それができれば誰も苦労しないんだけれどね」
「照準を定めて撃つ」
「おいやめろバカ」
あんまりネタで遊び過ぎると、変なフラグが建ちそうな気がしてならない。例えば、新種のゴーレムがいきなり現れて、そいつが宇宙人めいた赤いフォルムで負けそうになったりとか、多角形のボディからこっちの防御魔法を貫通する威力のビーム放ってくるとか。
「あれ、威力がラスボスの必殺技よりも圧倒的に高いのよねぇ……装甲フル改造しても防げないっての」
「だからやめんか。そもそも、そのステージで正面撃破はできんからな? やろうとするのが間違ってるからな?」
「冥王さえいれば……!!」
「だからそいつもいねぇよ。少し頭、冷やそうか?」
「二人とも、やっぱり勇者だよね? ダンジョンの中でそんなに呑気に話しながら罠を回避しているんだもの」
サァァァァァセェェンッ!!
内輪ネタで盛り上がる俺たちを見て嘆息するエルナに心の中でジャンピング土下座を敢行した。完全に意味のないおしゃべり、という訳じゃないが、緊張感が薄れていたのも半ば事実だ。いけない。
真面目に進むとしよう。
ここのダンジョンマスターの嫌がらせこと数々のトラップを悉く無視してきたが、三階層の半ばで俺もメイプルが使用している探索魔法を使うことで、断然危なげなく進めるようになってしまったのだ。
いやぁ、目に映る景色が凄いのなんの。
半透明なのか、そうでないのか、不思議な視界の中で、ダンジョンの構造が不思議と頭に浮かんできて、どこでどう通路が曲がっているのか、トラップが設置されているのか、その種類などが見えるし、分かる。
語彙が足らないなぁともどかしく思うが、つまり、視界に入っている分に合わせて、およそ十メートルの範囲の建造物の構造が把握できてしまうのだ。さらに、俺やメイプル、エルナだけでなく、遠くにいる魔物の気配や種類も把握できてしまうのだ。あまりにも凄すぎて笑うしかない。
しかも、かなり多くの情報が脳に負荷をかけているはずなのだが、全く苦にならない。あ、そうなんだ、ここがそうそう、こうなのか、と軽い気分で閲覧できてしまう。
そんな事を話したら、エルナはいい笑顔を見せてくれた。
「そっか、よかったね」
幼い子供、いや、弟を見るような愛おしそうな目……のように思える諦観の眼差し。
エルナは、考えることをやめたらしい。
一方、メイプルが悪い笑みで俺の頬をつついてくる。
「ねぇ、ねぇ、ここのダンジョンマスターの罠、どんなのがあるか言ってみ?」
「えぇと、四階層になってからは槍搭載の釣り天井とかだな……あぁ、あそこは落とし穴だな。なんかモンスターハウスかもしれんところに繋がってる」
ははは、すげぇ。この床の真下にある部屋に強そうな気配が暇そうに蠢いているのだ。それを聞いたメイプルの笑顔が固まった。
「そうですかありがとう。ところで晴樹君や、落とし穴がモンスターハウスに繋がってるなんて私は知らないんだけど」
「え? そうなのか?」
「ええ。落とし穴が下層に繋がっているのがわかるだけよ」
「……お、おう」
「むきぃっ!! また私よりもいい魔法使ってぇぇぇぇ……っ!」
そんな恨めし気な目で見られても、俺も困る。
見たり受けたりした魔法を、効果は元よりも向上させておいて、メイプルも驚く超絶低燃費にして使えるようになるのだ。俺の力じゃなくて、これを付与させた凄すぎる誰かさんに文句を言ってほしい。
まぁ、そのおかげで不安や恐怖心が極限まで薄れているのだが。
「絶対に解析してアンタを超えてやるんだから! 転生最強チートは私よ!」
「いや、十分お前は最強だと思うよ?」
俺の能力はまだわかっていないところが多いし、もしかしたら覚えられる魔法にも限りがあるかもしれない。弱点が何もわかっていない以上、完全に安心はできない。
その点、メイプルは長年、自身で研鑽を積んできた結果、人魔共に驚嘆の魔法を数多く取得した正真正銘の最強さんだ。これからもっと成長できるし、諦めるまで限界はない。
隣の芝生は青いというが、俺としてはお前のその努力の積み重ねとその結晶である魔法が超凄いし、尊敬できるんだがなぁ……。
閑話休題。
ところで、俺たちは今、八階層にいる。
もう一度言う、八階層にいる。
正確には、八階層の終点、九階層の入口であるスロープが見える通路を歩いている最中だ。
ダンジョンアタック開始からわずか一時間ほど。途中、調査隊の拠点があったが、メイプルのカーテン・サンクチュアリは設定した人間以外にも効果があるらしかったので、迷惑を掛けないように遠回りしてきたのだが、思ったよりも早くついたものだ。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやっ?!! おかしいでしょ、その感想?!!」
エルナは思考を再起動させたようだが、エラー気味なのか同じ言葉を繰り返して吐き出した。
「こんなに早くつけないからッ!! 下層へ向かうトラップを使用せずに、徒歩だけでここまで来るのに調査隊でも二時間はかかるのよ?! 私たちみたいな駆け出しと一般人なら生きてここまでたどり着けるだけで凄いんだから!!」
「落ち着きなさいエルナ。そんなことは百も承知よ」
メイプルは落ち着き払った様子でエルナの肩に手を置いた。
「私たちが一緒に来た時点で、こんなことになるのは想定内よ」
「確かにちょっとは楽に進めるかもしれないとは思ったし、実際にそうだったけれど、ここまで快調に進めるなんてギルドマスターでも予想できないわよ!?」
「だから言ったじゃないエルナ。常識にとらわれてはいけないって」
諭すような口調のメイプルだが、しっかりと目は笑っており、上半身を少し横へ傾けていた。おちょくる気満々である。
そろそろ止めないと、エルナの精神が疲労しきっちまうな。
「まぁ、エルナ。あれだ……俺はともかく、メイプルの魔法は超凄いから。仕方ないって」
「ハルキの魔法も負けず劣らずなんだけれどね……」
再び思考を放棄しようとするエルナを宥めながら、俺たちは九階層へのスロープ前に立った。
「さぁ、ここからは新しく地図を作製するわよ。晴樹、ペン」
「お前は執刀医か」
いつの間にか空間収納魔法から下敷きと紙を出していたメイプルの小さな掌に、俺も同じく魔法でペンを出して渡してやる。
「そうよ、これから私たちは未開のダンジョンを切り開くのよ!」
「ついでに、俺がここに来た理由のものが見つかってくれれば文句ねぇな」
「おかしいわ……魔物の子どもと素人がダンジョン深層でこんなに前向きだなんて……」
エルナが何かぶつぶつと文句を垂れているが、スルーしよう。
「行くわよ二人とも! 調査隊よりもさっさと地図を作り上げて、恩を押し付けるのよ!」
「あら、ギルドに売らないの?」
「売らないわよ。押し付けるのよ。そうしたら後で貸し一つで色々と命れ……融通を効かせられるじゃない」
「そ、そう……」
「お、おう……」
腹に一物有るサキュバスとはこれ如何に。
アホな冗談はともかく、ここからは完全に未明の世界だ。エルナの懸念も理解できるし、油断するつもりも毛頭ない。
だが安心して欲しい、エルナ。
「じゃあとりあえず、自動筆記ね! これで地図を作製すればトラップも隠し扉も宝箱も丸裸よっ!」
「自動攻略本作成魔法に名前変更しないか?」
「ネーミングがネタ過ぎてちょっとねぇ」
こんなにも凄い魔法使いサキュバスがいるんだから。
「えとね、ハルキももう同じ事ができるんだよね……?」
「あ、そうだな。そしたらメイプル、俺がサンクチュアリかけてもいいかな?」
「ちっ、まぁアンタの方が性能いいし、今回は任せるわ」
むすっとした口調だが、声音と表情は冗談めかしているメイプル。こりゃぁしっかりやらなくちゃなっ!
「ねぇ、ハルキも凄い魔法使いになってるの、気付いてる?」
エルナの虚ろな目が俺の背中にちくちく刺さりやがる。俺は悪くねぇ……。
まさか、倒せる……だと?!(超今更




