7-1 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 一妖精の出す殺気なの?!
今回は短めです。
メイプルに心身ともに回復してもらいながらノンストップで走り続け、道中で人にも魔物にも出会うことなく、彼女たちと出会った森の前までやって来た。
思えば昨日、一昨日の出来事なのに、もう長い間来ていないような気がする。この二日間が濃密だったせいだろうなぁ。
さて、現実逃避はこれまでにして意識を集中させ、警戒を強める。魔物が怖いのではない。もっと驚異的な輩がいるためだ。
「サイレントベールをかけているけれど、油断はできないわ。一気に突っ走るわよ!」
「「了解!」」
メイプルの号令にエルナと一緒に返答した直後、ものすごい違和感を森の方から覚えた。まるで叩きつけられるようなそれが、見えない圧となって俺へと叩きつけられる。
「! 気づかれたわ!!」
「早っ!? 何でだよ?!」
「これが一妖精の出す殺気なの?!」
エルナも驚くその執念。っていうか、これは殺気じゃない。もっと恐ろしく、艶めかしいものだッ!?
やっぱりアイツ、俺の貞操を狙ってやがるッッ!!?
「サキュバスのサイレントベールを超えて察知してくるって……普通の妖精にはできないわ。よっぽど晴樹の事が気に入ったのね」
「怖すぎて喜べねぇよ!!」
まるで、持ち物に残った匂いで想い人の痕跡を発見する能力みたいだった。
あの変態妖精、ヤンデレ気質でもあるのか。怖すぎる。寒気が止まらない。
「確かに、まぁ、ちょっとアレだけど、すっごくいい子よ? 可愛いし、器用だし、努力家だし」
「そいつは良人件だな」
是非、相思相愛のパートナーを見つけて仲睦まじく幸せに暮らしてほしい。
「きっと、毎晩こってりしっぽりで、幸せな大家族になれるわ、多分」
「メイプル、エルナ、速度あげるぞぉ!!」
メイプルの言葉に、その光景を想像してしまった。滅茶苦茶やつれている俺の姿と、艶々笑顔の変態妖精と大勢の妖精幼女が仲睦まじく森の中で暮らしている光景。
冗談じゃない。
叫ぶ事で浮かんだ想像を振り払い、街道を突っ走る。と、森の方から近づいてくる濃密な気配があった。
「ダァァァァリィィィィィィィンッ!!」
「やべぇ、奴だ、やt」
「晴樹、エルナ、ちょっとだけ顔を背けてなさい!!」
メイプルがそう言うなり、俺の視界が草原側へと向けられた。
「バ○ス!」
「目がぁっ、目がぁぁぁぁぁぁんっ!」
恐るべき破滅の魔法が解き放たれたらしく、聞き覚えのある可愛らしい悲鳴が聞こえた。その直後、あれほど感じていた怖気がきれいさっぱり消え去り、俺たちはようやく安全圏まで走り抜けることができたのだった。
「ダーリンカムバァァァァァックッ!」
「あぁ~ばよぉぉ、おじょぉぅさぁぁんっ!」
背後から聞こえてきた悲痛なラブコールに、精一杯別れの挨拶を送ってやった。
今度こそ、今度こそ奴とは二度と会うまい。
「二度あることは三度ある」
「おいやめろ」
「また来るとしても、別のルートを通りましょうか……」
昨日に引き続き危機を乗り越え、俺たちはタガネルを目指して再び爆走し続ける。
それからまたしばらく、誰とも出会わない朝の街道を行くと、道の向こうから、土色をした建造物が姿を現したのだった。




