6-5 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 ストレスの原因は
『そう、最初の女は、俺が好きな相手は――』
エルナも、私も静かに告白の瞬間を待つ。
そして――、
『メイプルさ』
『は?』
は?
私とエルナの声が重なった直後、晴樹の隣にサキュバス衣装の私が出現し、ひょいっとその肩に乗っかった。
『残念だったわねぇエルナぁ? 貴女との旅は楽しかったけれどぉ、世界は私がもらっていくわねぇ~?』
『そ、そんな……メイプルはサキュバスで、まだ子どもじゃないっ!』
エルナ、突っ込むところはそこなの?
というか、私はそんな媚びた喋り方しないんだけれど。
『エルナ、俺さ、実は幼女趣味だったんだ……』
『嘘……』
その時、エルナの頭近くに回想場面が浮かび上がってくる。夢ならではの現象ね。回想場面に映っているのは、私との会話や、森で妖精たちに追いかけられている時に攻撃できないだのと走っているシーン、それからフリージアに見上げられているところだった。
『そんな……』
アホな。
『これから俺はメイプルやフリージアたちと一緒に王国をつくるのさっ!』
『ねぇ晴樹~、お姉さまたちもそこに加えてもらえないかしらぁ?』
『あぁいいぜ。俺はグラマラスなお姉さんも大好きなんだ』
『だ、だったら私も』
落ち着きなさいエルナ。夢だから言ってもしょうがないけれど。
『エルナ、俺さ……お前の事、嫌いじゃないんだぜ?』
『え?』
『だから、メイプルとフリージア、それからアニスの次に妃にしてやるよっ!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
頭を抱えて絶叫するのと同時に、現実でもエルナが絶叫しながら飛び起きた。
よかった、念のために防音魔法かけておいて。
肩で息をしながら、「夢……?」とつぶやくと、額に手を当てて大きくため息を吐く。
「酷い夢だったわ……」
本当、色々な意味でね。
「そもそも、ハルキをそんな風に思ってないのに……」
ぶつぶつ文句を口にし、跳ね飛ばした掛け布を被るようにしてベッドに倒れ込んだエルナが、ふと顔を横に向ける。当然、私と目が合う。
「ぁ……」
「……うなされてたわよ?」
「ごめんね……。……ねぇメイプル?」
「私は何もしてないわよ」
きっちり釘を刺しておく。悪夢も淫夢もサキュバスのせいにするのはいただけないわね。
「……酷い夢だったわ……」
「そうみたいね」
「本当に快眠の魔法をかけてくれたの?」
「かけたわ。私も予想外よ……」
おそらく、だけれど。エルナは冒険者で、外では気を張り詰めて休んでいるから、快眠の魔法で普段よりも心身がリラックスして眠りに入った。そうしたら、脳がこの二日ほどの記憶を凄い勢いで整理し始め、そこにエルナの意識が少し介入した結果、あんなアホ、もとい悪夢が出来上がった、のかもしれない。
「アンタ、よっぽどストレス溜まってたのね」
「えぇ、誰かさんたちのおかげでね……」
「あら、ごめんなさい?」
その原因のもう一端は、隣の部屋で一人爆睡している。
「それにしてもエルナ」
「何?」
「私、あんな喋り方しないわよ?」
「……。……どこから見ていたの?」
「晴樹がグングニールでオッサンの足をマッサージしているところから」
「…………そう」
エルナが目を伏せる。
「サキュバスは、身内にしか重要なことは話さない」
「……」
「けれど、友達の大事なことは、身内にも簡単には話さないわ」
それだけ言って、私は目を閉じる。
「今度はしっかりとした魔法をかけてあげるから、悪夢はもう見ないわ」
「……本当、お願いするわ」
エルナの静かな声。少し、柔らかくなっていると思うのは、我ながら自意識過剰ね。
しばらく互いの静かな寝息が聞こえていたけれど、急にエルナが口を開いた。
「ねぇメイプル」
「……何かしら?」
「ハルキって、本当に幼女趣m」
「ハイ・スリープッ!」
いい加減に寝ろ、むっつり娘が。
強力な催眠と、宣言通り少し強めの快眠魔法をかけてやると、エルナは瞬時に眠りに入った。
「まったく……」
私も晴樹も、エルナだって互いにそんな風には意識していない。
夢だから制御が効かないとはいえ、エルナったら色々と失礼なんだから。
「……それにしても、アニスか」
今日一日で何度か彼女の口から出た一個人の名前。
私は会った事がないため、サキエラちゃんたちから伝わる情報だけ知っているけれど、どうやらエルナとはかなり親しい間柄みたいね。
「……今頃、何をしているのかしらね」
多分、皆が住居を移転したことを察知して、出かけているんでしょうね。それでサキエラちゃんたちのところで歓待されているんでしょうけれど。
「また、旅先で会うかもしれないわね」
そんなことを考えながら、私も眠りに落ちて行った。
久しぶりに斑の紐を読んだら、テンションが……ホームズ、恐るべし……ッ!




