5-5 サキュバスとエロ漫画野郎と冒険者 訓練を始めようか
宿に戻り、夕食を食べ終えると、メイプルとエルナはすぐに風呂へと向かって行った。
「晴樹、覗いちゃだめよ?」
「はいはい、テンプレテンプレ」
にしし、と下世話な笑みを浮かべるメイプルへ適当に返事しながら、苦笑するエルナに軽く手を振って部屋へ戻った。
中はベッドと机、椅子があるだけだが、掃除は行き届き、シーツもよく手入れされている。マットは少し堅めだが、一日ぶりのしっかりした寝床だ。明日からは多分野宿が多くなるだろうし、今晩はぐっすり堪能させてもらおう。
さて、今日は反省する点が多かった。
まさかフリージアが俺の事をうっすらと覚えているとは予想外過ぎた。メイプルに指摘されなかったら、気付きもしなかっただろう。
今回は運が良かったが、誰かに力を使うところを見られてしまったら、この国では特徴がありすぎるこの顔立ちと服装ですぐに身元バレしてしまう。
身を潜めるだけじゃ、フリージアのように予想もしていなかったところから見られる可能性もある。
だったら、やることは一つだが、上手く行くかわからないため、少しだけ実験をしたい。しかし、すっかり夜になってしまった今、外へは出たくない。表だった治安は良いみたいだが、ここは日本じゃないため安心できない。
と、いう訳で、
「寝るっ」
ベッドに倒れ込み、腹の上に毛布だけ掛けて目を閉じ、ある魔法をイメージする。
どれくらい時間がたっただろうか、すぐのような気もするし、数分はかかったようにも思える。
俺は、真っ白な空間で一人、しっかりと自分という存在と状況を認識して立っていた。
「……ははっ、成功か」
メイプルが昨晩使った、夢と心象風景を作り出す魔法だ。
ここならば、状況設定を自由に行えるし、怪我をすることもない。おまけに魔法が使えて、それが現実で使えるようになるという、まさに理想の練習場だ。
「さて、それじゃあ……」
俺のイメージに合わせて世界が変化し、夕暮れの門前通りになった。
そう言えば、ダミー設定はできるんだろうかと思った矢先、通りの一画にフリージアが現れた。
「うわっ?! フリージア?」
驚いたが、すぐにダミーだと気づいた。
先ほど会っただけだが、表情の変化があまりないため、そうやって立っているだけなら本物のフリージアと区別がつかない。いくらなんでも精巧過ぎるだろう。
「えぇと、それじゃあ、後はナンナとディー君とアナさん、それとあの魔法使いのお姉さん、後は野次馬を……適当に設置と」
俺のイメージした通りにダミー人物たちが姿を現す。野次馬の姿はコ○ンの犯人さんかショ○カー戦闘員が思い浮かんだが、それだと危ない感じがしたのでキャンセルした。
ということで、野次馬役は森の妖精たちにしたが、あの変態妖精だけは登場させない。ダミーだとわかっていても……いや、待てよ、案外いいかもしれない。設置しておこう。
後はフリージアを仰向けに寝かせれば、あの時の状況再現が完成だ。いくらダミーでも血はみたくないので、怪我や衣服の損傷は設定しないでおく。
あ、これ、中身さえ知っていれば、服を脱がせられる奴だな。
余計な事が脳裏を過るが無視。
深呼吸をして、これからの事を想像して高揚した気分を少し落ち着かせようとしても、少しだけ笑っていることを自覚する。
誰も傷つかず、そしてその結果が誰かを助けて、回りまわって自分を助けることになる。
暗黒面に呑まれない(調子にのらない)ように自分を戒め、景気づけに柏手を打ち鳴らした。
「さて、それじゃあ、実験を始めようか」




